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4000円分の電気代で5000円を生成する装置

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■プレミアム商品券

10月の消費増税に向けた景気対策として「プレミアム商品券」が企画されているそうで、4000円で25%上乗せされた5000円分の商品券を買うことができるようになる、と報道されています。この差額は国が補助し、地域経済振興も兼ねるため、地元の指定された店舗でしか使えません。購入できる人も限定されているようですが、買いたい人はたくさんいるでしょう。こんなの「ただのバラマキ政策じゃないか」という批判は(ここでは)しません。

さて、もし4000円で使い道や期間制限のない5000円分のお札、つまり日本銀行券が購入できるとしたらどうでしょう。そんなバカな話はありませんが、あったら買いますよね? 私なら買います。それが制限なく買えるとしたら、いくらでも買います......という前に、経済破綻のサインとして日本を逃げ出すかもしれませんが。

■仮想通貨のマイニング

もちろん、現実にそういう仕組みがあるわけではありません。ただ、仮想通貨のマイニングとは、そういう期待があって成り立っている仕組みです。ここでマイニングの技術的詳細には触れませんが、ビットコインの場合は世界中で増える一定量を分配する仕組みになっています。マイニングパワーのシェアが分配量に直結するため、電気代と分配される対価で均衡するのですが、昨年初めまでは価格が高騰を続けていたので、マイニングへの参入も相次ぐという状況でした。1年ちょっと前には、「マイニング電力がデンマーク1国分を突破した」という報道もありました。

仮想通貨の下落を受け、当時、マイニング事業に参入していたGMOやDMMは撤退しましたが、それは電気代(+施設の維持コスト)に対して、マイニングによる収益が低くなったからです。電気代を上回る収益があるなら、今でも継続していたことでしょう。この意味で、マイニングとは"電力の換金装置"に他なりません。

最近では「どうせ部屋を暖房するならヒーターを使う代わりに(投げ売りされている)マイニングボードを使う」という人もいるそうですが、そういう例外を除けば自前の電力でマイニングしようという人は減っているでしょう。もっとも、マイニングの総量が下がれば分配量が増えるので、(仮想通貨の価値がゼロにならない限り)どこかで電気代と均衡するはずではあります。

しかし、電気代を自分で払わないとしたらどうでしょう。普通は、それが他人への迷惑になるだろうと思ってやらないわけですが、最近、このような話題がありました。

熊野寮でマイニングを禁止した話
事務所の電気代が突如30倍に暴騰!(togetter)

これらの情報源が確かなものだと確認したわけではないですが、コストゼロで収益が得られるなら、その機会を活用したいと思うのは当然かもしれず、信憑性が疑わしい話とは思えません。しかし、これはマイニングが"電力の換金装置"であることを利用した窃盗のようなものです。こういうものも"誰か一人の身勝手"であれば全体として吸収できるかもしれませんが、全員がやったら破綻します。

そして、自治体レベルでこういう施設の誘致を支援していたケースがあったというのは、大いに疑問です。原発停止以後、電力発電には制限があり、各企業には節電のお願いがなされていますが、そうでなくてもパリ協定に参加している日本は温室効果ガスの排出量を削減する目標があります。そもそも固定価格買取制度という仕組みで電気代に上乗せしてまで化石燃料の消費を抑えようとしていたのではないでしょうか。"電力を無駄遣いする罪"というものはありませんし、そういう法律を作れというわけではないですが、こういう状況で行政が電力消費増加の後押しをするというのは納得がいきません。

■Coinhive

ようやくここで、昨今話題のCoinhiveの話をしましょう。Coinhiveは、ブラウザ上でJavaScriptでマイニングする仕組みで、その使用が裁判で争われています。私の立場は「実験的だったから、あるいは小規模だったから可罰性はないという判断はあっても、"ブラウザだから完全に無罪"となるべきではない」というものです。もちろん、利用者に「マイニングの許可」(オプトイン)を得て実行するものなら何も問題ありません。私は別に法律の専門家ではないし、最終的な法的判断は裁判官が下すのですが、少なくとも Coinhive が無罪なら、アプリに埋め込まれた場合でも無罪になるべきだと思います。
参考→「仮想通貨のマイニング悪用に懲役1年判決 全国初

以前、ブラウザはサンドボックスで実行されるから別なのだと主張していた人がいましたが、Windows ストアや iOS のアプリならば問題ないのでしょうか。そもそもマイニングなんてネット接続さえできればCPU以外のマシンリソースは必要ないのですから、アプリに組み込まれたところでマシンパワーを消費する以外の悪さはしません。そもそも、Windows や iOS というプラットフォームに対するアプリ、という構造は、ブラウザというプラットフォームに対する JavaScript アプリ(Coinhive)という構造と何が違うのでしょうか。

■規制のあり方

もともと裁判所に技術的な信頼を置いているわけではないですし、Coinhiveが「ウィルス保管罪(またはその他の罪)には当たらない」という判断はありえるでしょう。しかし、前述した"電力の換金装置"という視点で考えれば、これは(法律論は別にしても)"技術的な盗電"です。たまに公共施設でのスマホの充電が取り締まられている報道がありますが(たいていは検挙されている程度でしょうが)、そうした行為との境界線は引けるのでしょうか。

一般論として"重いサイト"は嫌われるので、普通のサイトが利用することはないかもしれません。しかし、ブラウザ上なら真っ白という"お墨付き"を与えてしまったら、まとめサイトのような運営主の素性のしれない場所で利用が蔓延しないとも限りません。そういうものが現行法で取り締まれないのであれば、新たな立法などで対応する必要が出てきます。そのようなことになれば、現行法ですませているよりも技術的可能性を狭めてしまうことになるのではないでしょうか。

なお、これは技術云々とは関係ないのですが、社会的に"やり過ぎ"が発生したら規制される、というのはごく普通のことです。以前は、こんな規制はなかったといって、状況や環境が変化したことを無視してもしかたがありません。別のブログでも書きましたが、911以降、アメリカでは外国人の入国審査で顔写真と指紋採取をするようになりました。

そもそもマイニングの是非は、技術発展とはあまり関係ありません。"電力の換金装置"にブロックチェーンという技術が使われているという話であって、前述の"事務所でマイニングしていたおばちゃん"にとっては、装置はブラックボックスです。ブロックチェーンは、中央集権的なサーバーを持たないデータ管理システムとしての意義はあるでしょうし、現実問題としてマイニングそのものを規制するのはなかなか難しいでしょうが(私も、どういう条文にすればいいのか、までは考えが及んでいません)、どんなものにせよ"技術発展のため"が免罪符になるわけではない、と考えています。

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