AIが変えるIT需要の地殻変動:なぜ今、全社員の「AIリテラシー」が事業の死活問題なのか?
年間100回を超える講演の場で、ITトレンドやビジネス戦略についてお話しする中で、ここ数年、ある明確な変化を感じています。かつてはIT企業からのご依頼が中心でしたが、特にコロナ禍以降、事業会社からのご依頼が急増しているのです。
その背景にあるのは、リモートワークの普及やDXという言葉の流行といった表面的な理由ではありません。デジタル技術、とりわけAI(人工知能)が、もはや事業の根幹を揺るがす戦略的ドライバーになったという、経営層の強烈な危機感と期待感の表れなのです。
「ITリテラシー」の常識が変わった
「うちの社員は、ITについて何も分かっていません。彼らに、ITや生成AIがもたらす新しい常識と、これからのトレンド、そして我々が何をすべきかについて話してください」
このようなご依頼をいただく企業の多くは、システムの内製化、すなわち「AI駆動開発(AI-Driven Development)」への強い関心を示しています。もはやITは、コスト削減や効率化のための「情報システム部門の仕事」ではありません。AIを駆使して新たな顧客価値を創造し、事業の差別化と競争力を強化するための「全社員の必須スキル」へとその意味合いを根本から変えたのです。
かつてのITリテラシーがPCやOfficeソフトを使いこなす能力だったとすれば、現代のそれは「AIを"相棒"として使いこなし、的確な問い(プロンプト)を立て、共にビジネス課題を解決する能力」です。この新しいリテラシーなくして、ビジネスの現場で価値を生み出すことは困難になりつつあります。
IT需要の地殻変動:主役は「事業部門」へ
この変化は、IT投資の意思決定構造をも変えてしまいました。かつてのように「既存業務を基準に30%コスト削減する」といった明確な仕様書は存在しません。AIを前提とした新しいビジネスモデルは、正解がない世界で、高速に仮説検証を繰り返す中から生まれます。
そうなれば、開発の主導権は、業績に責任を持つ事業部門が握るのが必然です。彼らが求めるのは、言われたものをその通りに作る開発チームではなく、ビジネスの目的を共有し、共に試行錯誤しながら価値を創造してくれるパートナーです。
しかし、多くのSI事業者が「内製化」や「アジャイル」といった現象面に囚われ、対症療法に終始しているように見えます。それは咳が出ているのに、根本原因である病巣を無視して咳止め薬を飲むようなもの。この「需要構造の変化」という病根を断たなければ、事業は衰弱の一途をたどるでしょう。
AI時代にSI事業者が生き残るための「3つのパラダイムシフト」
この地殻変動に対応するために、SI事業者には根本的なビジネスモデルの転換、すなわち3つのパラダイムシフトが求められます。
1. 顧客チャネルを「情報システム部門」から「事業部門・経営者」へ
もはや、技術仕様や工数、期間の話は通用しません。経営者や事業責任者に対し、「ITやAIを活用して、あなたの事業にどのような価値をもたらせるか」という戦略とロジックを語る必要があります。技術は、その価値を実現するための手段に過ぎません。
2. 強みを「組織力」から「個人力」へ
顧客の内製チームが求めるのは、自社の弱点を補い、チームを牽引してくれる『エンジニア』です。もはや、人月80万円のエンジニアを100人集める旧来のモデルは通用しません。彼らが求めるのは、たとえ人月500万円を払ってでも迎え入れたい、たった数名のエンジニアやビジネスストラテジストなのです。少ない工数で高い利益を生む、高付加価値モデルへの転換が急務です。
3. 技術力を「作る技術」から「作らない技術」へ
需要の爆発的な増加と変化のスピードに応えるには、もはや人間がゼロからコードを書く時代ではありません。SaaSやPaaS、ローコード/ノーコードツールを巧みに組み合わせ、生成AIを駆使してシステムやサービスを「作らせる」。これが新しい時代のコア技術です。 最新のAIサービスを目利きし、高速にプロトタイピングを繰り返し、できるだけ作らずに成果を出す「作らない技術」こそが、これからの価値の源泉となります。「作る技術」で工数を稼ぐビジネスモデルのまま、この新しい技術に適応しようとすること自体に無理があるのです。
行き先がなければ、最強の乗り物も意味がない
かつて、自動車の運転免許は価値あるスキルでした。しかし、自動運転が普及すれば、運転スキルそのものの価値は薄れ、「その車でどこへ行くのか」が重要になります。
AIも同じです。コーディングスキルやプロンプトエンジニアリングの技術を磨くことはもちろん重要ですが、それは高性能な車の運転技術を学ぶことに似ています。本当に問われているのは、「AIという史上最強の乗り物で、自社を、そして社会をどこへ連れて行きたいのか」というビジョンです。
表面的な現象に一喜一憂するのではなく、その根底で起きているIT需要の地殻変動という本質を見据え、自らを変革する覚悟を決めるべきです。これまでの成功体験は、未来の成功を保証しません。今すぐ、自社のビジネスモデルを再定義し、行動を起こしてください。もはや、その決断を先延ばしにする時間的猶予は残されていないのです。
今年も開催!新入社員のための1日研修・1万円
AI前提の社会となり、DXは再定義を余儀なくされています。アジャイル開発やクラウドネイティブなどのモダンITはもはや前提です。しかし、AIが何かも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜモダンITなのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、お客様からの信頼は得られず、自信を無くしてしまいます。
営業のスタイルも、求められるスキルも変わります。AIを武器にできれば、経験が浅くてもお客様に刺さる提案もできるようになります。
本研修では、そんないまのITの常識を踏まえつつ、これからのITプロフェッショナルとしての働き方を学び、これから関わる自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうことを目的としています。
参加費:
- 1万円(税込)/今年社会人となった新入社員と社会人2年目
- 2万円(税込)/上記以外
お客様の話していることが分かる、社内の議論についてゆける、仕事が楽しくなる。そんな自信を手にして下さい。
現場に出て困らないための最新トレンドをわかりやすく解説。 ITに関わる仕事の意義や楽しさ、自分のスキルを磨くためにはどうすればいいのかも考えます。詳しくはこちらをご覧下さい。
100名/回(オンライン/Zoom)
いずれも同じ内容です。
【第1回】 2025年6月10日(火) ※受付を終了しました
【第2回】 2025年7月10日(木) ※受付を終了しました
【第3回】 2025年8月20日(水)
営業とは何か、ソリューション営業とは何か、どのように実践すればいいのか。そんな、ソリューション営業活動の基本と実践のプロセスをわかりやすく解説。また、現場で困難にぶつかったり、迷ったりしたら立ち返ることができるポイントを、チェック・シートで確認しながら、学びます。詳しくはこちらをご覧下さい。
100名/回(オンライン/Zoom)
2025年8月27日(水)
【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版
生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
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