オルタナティブ・ブログ > IT's my business >

IT業界のコメントマニアが始めるブログ。いつまで続くのか?

「複製して譲渡/転売」は“フェア”か

»

返却後も使い続けられるレンタルCDの特異性」でも触れましたが、レンタルCD(レンタルレコード)というビジネスが成立したのは、頒布権の消尽(行使された知的財産権を再度行使できないこと)と私的複製とが独立しており、レンタルレコード店が購入したレコードを貸し出してもそれを借り手が“私的複製”することが完全に合法だったという事情があります(現在は“貸与権”が設定されており、国際条約(WIPO)でも著作権者が独占的に行使できる権利とされています)。

■消尽と複製

「CDを借りてダビングする」といったことは普通に行われているでしょう。随分前に「高校生は、音楽CDのことをなんと呼ぶか?」というエントリが話題になり、高校生は CD のことを「マスター」と呼び、“コピー元”と認識しているという話もありました。日本レコード協会の2011年度「音楽メディアユーザー実態調査」で音楽をコピー(録音)した人に対する調査でも、レンタルCDや借りたCDを録音ソースとして使っている人が多いことがわかります。

・録音ソース
Pict143a
※2011年度「音楽メディアユーザー実態調査」p.31より抜粋

日本では、自分で使うための複製(私的複製)が明文で合法であるため、どこかにCDが1枚あればどれだけ多くの人がその CD からリッピングしたところで、合法であることに変わりはありません(「リッピングの森」のアイデアも、これが元になっています)。もちろん、そのような大量の複製は私的複製を規定する際の想定(起草者の見解)とは違う、という見方はありえますが、条文を読む限りは違法性を問えそうにありません。

Comics46_loアメリカでも、権利の消尽は「ファースト・セール・ドクトリン」という言葉であらわされます。しかし、先のエントリに書いたとおり、「複製して転売する」ことが“フェアユース”とはみなされないようです。個人的に複製して譲渡したり、借りたものを複製したりすることで違法性を問われた事例があるわけではないのですが、著作物、とくにコピー防止機構のない CD の譲渡/転売に関わるサービスで、リッピングしたデータを保持しておいてもよいとか、「リッピングした上で転売するのも公正とみなせる」とする情報はありませんでした(「そう見なすべきだ」という“主張”はあるかもしれませんが、それもまた「現状はそうでない」という理由になります)。

■DVD リッピングと法改正

DVD の保護技術(CSS)を技術的保護手段とする法改正が国会に提出されたというニュースがありました。もともと“マクロビジョンはダメで、CSS ならよい”というのも屁理屈のような印象はあったのですが、今後は DVD のリッピングが違法化されそうです。

もっとも、「自分が買った CD をリッピングして音楽プレーヤーで聴く」という感覚と同じように、「自分が買った DVD をリッピングして別のプレーヤーで視聴する」という要望は考えられることです。実際、ディズニーは以前から「デジタルコピー」サービスを行っていますし、先日のエントリで紹介したように、他の大手の映画会社もアメリカでは「VUDU Disc to Digital」というサービスに参加しようとしています。これらのサービスは著作権者の許諾に基づくサービスなので、十分な需要があれば日本でも実施される見込みのあるものです。少なくとも著作権法が邪魔をするということはありません。

一方、かつて RealNetworks が発売した DVD 複製ソフト「RealDVD」は著作権侵害にあたるとして裁判を起こされ、完敗しました。この裁判の詳細はわかりませんが、もっとも問題が大きいのは DVD レンタルなどで借りたものをリッピングできることではなかったでしょうか。RealDVD は、自己所有であろうとレンタルであろうと、どんな DVD もリッピングできたはずです。他のメディアで視聴させることに積極的なハリウッドの映画会社でも、そのようなサービスは言語道断だったのではないかと思います。

日本の DVD レンタル店に行くと DVD-R メディアが山積みになっています。今回の法改正が成立すれば、そうした状況がなくなるのかもしれませんが、本来「一時的に視聴できるだけだから安い」「永続的に保持できるので高い」というすみ分けになるところを、CD レンタルや、DVD リッピングによって仕組みが破壊されてしまっているともいえます。それとは別に、購入した DVD を“コンテンツを永続的に視聴する権利”と考えれば、リッピングされて別メディアで視聴されようとも、さほど問題があるとは思えません。もちろん、リッピングしたコンテンツを残したまま、DVD を転売すれば別です。

■問題はどこにあるか

こう考えていくと、問題なのは「技術的保護手段を回避して複製すること」ではなく、「複製して譲渡/転売することで一度販売されただけのものが想定外の多数に利用されてしまうこと」だという気がします。もし、複製を残して譲渡/転売することを“消尽”の対象から外すことができれば、権利者側の問題も、利用者側の問題も解決するのではないでしょうか。その延長線上には、「レンタルCD のリッピング」も違法化されてしまうことになりますが、世界的に見れば“他国と同じ”レベルになるだけです。

もちろん、現実的に考えれば、これだけ CD レンタルが一般化している中で、突然やめさせることは現実的ではないでしょう。しかし、「音楽コンテンツの値段」で取り上げたとおり、CD レンタルが低価格で購入する層を取り込んでしまっているために、CD の単価が上がっていたり、オマケ付で売るのが常套化し、音楽配信が伸びないといった日本独特の現象が解決する可能性はあります。日本の著作権法に独特の“きしみ”があるとしたら、それは「複製して譲渡/転売」が合法であることに由来しているように思います。

Comment(0)