ウォルマートが始める「手持ちの映画DVD/BDをデジタル化する」サービス
「Walmart、手持ちの映画DVD/BDをデジタル化するサービスを4月に開始」(ITpro)などで報じられている通り、スーパーマーケットの大手ウォルマートが、VUDU で所有している DVD をクラウドベースのストリーミングサービスとして視聴できるサービスを開始することが発表されました(ニュースリリース)。VUDU のサイトでは、"Disc to Digital" というページに "Coming Soon" という予告が出ています。
もともと VUDU は、2年ほど前に Walmart に買収されたオンラインで映画を販売/レンタルするサービスです(「Walmart、オンライン映画販売/レンタルのVUDUを買収へ」)。動画配信も行っており、そのノウハウの延長線上にあるサービスでしょう。PCMag.com では「Walmart, Vudu to Rip Your DVDs to the Cloud(ウォルマート、VUDU で DVD をクラウドにリッピング)」(PCMag.com)というタイトルが付けられているくらいですが、こうしたタイトルだけを見て「アメリカでは、DRM のかかった DVD をリッピングしてクラウドに置くサービスが始まろうとしているのに、日本では著作権法が邪魔して実現できない」と早合点する人がいる気がしないでもありません。
■DVD を“変換”?
"Disc-to-Digital" サービスは、どのように利用できるのでしょうか。ニュースリリースには、次のように書かれています。
Walmart Entertainment's Disc-to-Digital Service Powered by VUDU: How it Works
The process to convert previously-purchased DVD/Blu-ray movies to digital copies is quick and simple:
・Bring your movie collections from the participating studio partners - Paramount, Sony, Fox, Universal and Warner Bros. - to your local Walmart Photo Center.
・A Walmart associate will help you create a free VUDU account.
・Tell the associate how you’d like your movies converted:
- Convert a standard DVD or Blu-ray movie for $2; or,
- Upgrade a standard DVD to an HD digital copy for $5.
・Walmart will authorize the digital copies and place them in your VUDU account. No upload is necessary, and you get to keep your physical discs.
・Log onto VUDU.com from more than 300 Internet-connected devices to view movies any time, any place.(参考訳)
ウォルマート エンターテインメントの "Disc-To-Digital" サービス VUDU: 使い方
・パートナー映画会社 - パラマウント、ソニー、フォックス、ユニバーサル、ワーナーブラザーズの映画コレクションを、地元のウォルマート店の写真センターに持ち込みます。
・ウォルマートの店員が無料の VUDU アカウント作成をお手伝いします。
・店員に映画をどのように変換したいかお伝えください。
標準画質の DVD や(高画質の)Blu-ray を変換する場合は $2、
標準画質の DVD から高画質のデジタルコピーに変換する場合は $5 です。
・ウォルマートは、あなたの VUDU アカウントでこれらのデジタルコピーを管理します。アップロードは必要なく、物理ディスクは手元に置いておけます。
・インターネットに接続できる 300 以上のデバイスで VUDU にログインして、いつでも、どこでも映画を見られます。
実際に変換やリッピングをしているわけではありません。それどころか、アカウントごとに独立したコピーを保存しているわけでもないでしょう。iTunes Match がサーバー上で高音質の楽曲データを共用しているように、Disc-to-Digital もサーバー上にある映画コンテンツを複数のアカウントで利用できるようになっているということです。物理メディアである DVD や blu-ray ディスクは手元に残りますが、“変換済”という印が付けられるのかもしれません(そうしないと、別々の人が同じメディアを使ってサービスを利用できるため)。
意図的なのだと思いますが、「DVD/blu-ray ディスク所有者は、永続的な音楽配信利用権を安く購入できます」と言わずに、実際に変換しているわけではないにもかかわらず「ディスクをデジタル形式に“変換”(convert)します」という分かり易い表現を使うことで、強い印象を与えています。そして、そのことが PCMag のタイトルのような「リッピング」という(誤った)理解を生んだのでしょう。もちろん、パートナー契約していない日本の映画 DVD を持ち込んでリッピングしてくれるわけではありません。
■映画会社とのパートナーシップ
Disc-to-Digital は、iTunes Match と同じで、コンテンツ会社と契約することでサービスを実現しています。発表会のストリーミングを見ると、ウォルマートの重役がパートナー契約を結んだ映画会社の重役たちと楽しく歓談しているようすが見られます。
iTunes Match で、少なくとも契約パートナーの楽曲データの取り扱いに法的な問題が生じるわけではないのと同じく、VUDU でも著作権法が邪魔をしてサービスができないということはありません。もちろん、契約もせずに「勝手にリッピングしてクラウドを利用するサービス」を実装しようとしたら問題になるでしょう。日本でも同じです。許諾を得れば「著作権法が邪魔をする」ということはありません。もちろん、コンテンツ会社は営利企業なのですから、許諾を得るためには、それなりの対価が必要でしょう。
■競合は Netflix?
物理メディアを持っていれば、$2 や $5 で永続的に動画配信が見られるようになるというのは安い印象もあります。一方、アメリカには月額$7.99で高画質のテレビ番組や映画を見られる Netflix というサービスがあります。Netflix でどの程度の新作が用意されているのかわからないのですが、映像コンテンツは一度見るだけというものが多く、永続的であることにどれほどの魅力があるかはわかりません。
Netflix の登場によって DVD/blu-ray メディアが買われなくなってきたとも言われていますので、そうした物理メディアを購入する動機づけとして期待されているのかもしれません。これまで VUDU は Netflix に対抗しきれずにいたのですが、今後の動向は注目したいところです。