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宇宙太陽光発電という永久機関思想

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BSフジに『ガリレオX』という、(たまに)面白いテーマを扱っている番組があります。先日、この番組で「宇宙太陽光発電」を扱っていました。太陽光発電は地上では大気の影響を受けて効率が悪いため、宇宙で発電してから地上に電力を送るというシステムです。宇宙太陽光発電については、5年ほど前にもニュースを見てエントリを書いたことがありますが、いまだに続いているとは思いませんでした。

JAXA のサイトを見ると、研究計画担当の方のインタビューが掲載されており、「世界をリードする日本のSSPS開発」(SSPS=Space Solar Power System)として、次のように答えられています。

静止軌道上で太陽光を効率よく集光するシステムやエネルギーの無線伝送技術など、SSPSを実現するための技術的な課題はたくさんありますが、原理的には実現可能なところまできていると考えられ、検討段階から技術的な実証段階へと移ったところです。研究者の間では、2030年代の実用化を目標に、世界で初めての1kW級無線送電技術の実証実験準備に着手しました。この点で日本のSSPSの研究は世界をリードしていると言ってもよいでしょう。これは、SSPSの研究を長年継続してきた結果だと思います。

たとえ実現は可能でも、実用にはならないでしょう。

Comics14_lo_2 ■ハッブル宇宙望遠鏡

宇宙の方が効率が良いので宇宙を利用しているというものに有名なハッブル望遠鏡があります。地上から宇宙を観測すると大気の影響を避けられないため、宇宙に望遠鏡を持ち込むという考えは理にかなっています。実際、口径2.4mのハッブル望遠鏡は、地上の望遠鏡では口径10m程度に相当する性能があるそうです。ちなみに、すばる望遠鏡は口径8.2mです(1999年当時は世界最大の一枚鏡)。

wikipedia の項目を見るだけでも、ハッブル望遠鏡が大きな成果を残したことに異存はありません。しかし、打ち上げてから20年が経過したハッブル望遠鏡は、2009年のサービシングミッション(SM4)が最後の延命措置になるでしょう(シャトル計画が終了したため)。宇宙に置いておけば、メンテナンスフリーでいつまでも使えるというものではありません。コストも問題です。Wired の記事によれば、ハッブル望遠鏡は打ち上げまでに15億ドル(当時の為替レート1ドル≒150円では2000億円以上)というコストがかかっています。しかも、打ち上げ後に光学系の不具合が見つかり、7億ドルをかけて修理しています。

直径2.4m、長さ13mのハッブル望遠鏡ですら、これだけのコストがかかるのです。これに対し、すばる望遠鏡は建設費400億円です。修理が必要になっても、ハッブル望遠鏡よりはずっと容易でしょう。大気の影響を避けられないのはたしかですが、すばる望遠鏡も成果を残しています。

■宇宙太陽光発電

宇宙太陽光発電に必要な技術は、太陽光発電と無線送電です。太陽光発電については現在地上で使われている技術もありますし、さらに改良を進めることもできるでしょう。しかし、5年前のエントリに書いた通り、太陽定数(大気圏外に届く太陽光エネルギー、1.37kW/㎡)を超えて発電することはできません。変換効率が100%だとしても、100㎡のソーラーパネルを使って137kW以上発電することはできないのです。「宇宙ならば地上の10倍の効率が得られる」のが正しいとしても、そのためのコストは10倍どころではすみません。しかも故障したら修理するにも莫大なコストがかかりますし、劣化対策も必要です。どう考えても、地上に10倍の広さのソーラーパネルを並べる方がずっと安上がりです。

私は無線送電の技術開発には反対しません。かつて有線が当たり前だったネットワーク機能も、いまや無線LANが一般的に使われています。無線送電も、宇宙太陽光発電とは別の役割が生まれる可能性はあります。それはしかし、現実味のない宇宙太陽光発電を目的とすべきではありません。逆に、無線送電が「宇宙太陽光発電にしか使い道がない」ものなら、それは必要のない技術だということです。

■永久機関詐欺

ときどき永久機関(または類似)の発明でひと稼ぎ、という話が聞かれることがあります。もちろん稼ぐのは「永久機関を発明した」という詐欺師や似非科学者です。永久機関など存在しないとわかっていれば、そうした儲け話に乗せられることもないはずです。しかし、永久機関ではないがそれに近いほど画期的、という表現にごまかされてしまう人々はいます。

宇宙望遠鏡も永久機関ではありませんし、そのように主張されているわけではありません。しかし、莫大な打ち上げコストや維持費などを「現在研究中で、将来解決される」と想定しても、実現不能な永久機関と同じ夢を追い続けているようにしか見えません。「世界をリードしている」というのは、すでに世界からは見放されているのでしょう。民間企業である清水建設が夢を見ること(「シミズ・ドリーム」)については企業のイメージ戦略もあるでしょうから口出ししませんが、宇宙太陽光発電をあたかも現実味のある計画のように想定して税金を投じ続けるのはやめてよい頃だと思います。むしろ、よく今まで仕分けされなかったものです。

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