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【思考実験】MIAU の「10の質問」に答えてみる

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衆議院が解散しました。選挙までの期間を長く設定しているのは、国会を空転させ、日本の経済対策を不安にさせ、円安を招き、海外頼みの景気回復を狙っているのではないかと思う今日この頃です。さて、この解散に合わせて(というわけではなかったのでしょうが)、MIAU が「インターネットユーザーからの10の質問」を公開しました。回答の選択肢が補完的になっていない設問があるのが気になるところではありますが、“MIAUとしては”1-A, 2-A, 3-A, 4-A~C(?), 5-B, 6-A, 7-B or C(?), 8-B, 9-B, 10-B という回答を期待しているのではないかと勝手に推察します。

さて、議論というものは、自分の意見を支えることばかりを考えていてもなかなか前に進みません。反対の立場では、どのような意見が考えられるだろうかということを考察してこそ、自分の意見を強固なものにできます(あるいはそうした考察を進める上で、意見を変えることもあるでしょう)。私は、衆議院に立候補するわけでもなければ、地方議員どころか学級委員でもないわけですが、個人的な意見は最後に書くとして、ここでは MIAU が期待する回答(予想)とは反対の意見を理由付きで答えてみることにします(ですから、あくまで【思考実験】です)。

ちなみに、「10の質問」に回答する候補者がいても、私は「とにかく回答してくれたからプラス」とは思わないでしょう。たとえば、「とにかくネット活用賛成、規制反対。私はネットユーザーの味方ですよ」と無邪気に回答する候補者がいたら、何も回答しない人よりマイナスに捉えます。逆に意見が違うとしても、すぐれた考察を見せてくれるのであれば、そうした人を応援しようという気になるかもしれません。(これらの質問への回答が、判断材料としてそれほど大きな部分を占めるわけではないのですが)

では、1問目から。

1.インターネットを使った選挙期間中の選挙活動(ブログの更新、YouTube等動画サイトの利用)について、解禁していくべきだとお考えですか。
A.解禁していくべきである
B.従来通りの方法で十分である

回答: B

インターネットが普及して久しく、テレビや新聞などに並ぶ主要なメディアとして成長しています。しかし、テレビが娯楽や報道の主流であった頃にさえ、選挙宣伝のメディアとして自由に活用されていたわけではなく、政見放送という規定に沿った活動だけが認められてきました。また、ポスターや選挙公報なども枚数や紙面の大きさといったものが規定されています。

一般に政治活動には費用がかかるものですが、とくに選挙の際には大きな費用を要求されます。もし、選挙において制限なく選挙活動を認めるということになれば、資金力のある候補者やタレント性の高い候補者が著しく有利になる可能性があります。インターネットの活用についても、選挙管理委員会の運営するサイトにおいて、それぞれの候補者に公平に主張を紹介する機会が設けることは検討に値すると思いますが、一般のブログサイトや YouTube のような民間サービスを利用することは極めて慎重にならざるを得ません。

2.米国では、オバマ大統領に代表されるように、政治家に対してインターネットを通じた小口献金が行われています。一方日本でも、インターネットを通じた小口献金システムが作られはじめました。これについてどのようにお考えですか。
A.積極的に利用したい
B.当分静観する
C.問題があるので禁止すべきである

回答: B または C

現在、日本の都市銀行の多くはインターネットを通じた振り込みサービスを提供しているので、今のところ導入の予定はありません。むしろ、日本においては政治活動に対する理解が広く浸透しておらず、実際に小口献金システムを導入して資金獲得を期待できるのはテレビやニュースで取り上げられるようなタレント性の高い人に限定されるのではないかとも考えられます。本来、政治家に求められる政策論争といったものが軽視される風潮が出てくることになれば、そのような集金を制限することも検討する必要があるでしょう。

3.現在、国会へのパソコン等の電子機器の持ち込みは、制限されるケースもあります。あなたご自身は、国会の本会議や委員会において、インターネット上の資料を参照しながら質疑する等、パソコンや携帯電話等の電子機器を審議や情報発信のために用いることについて、どのようにお考えですか。
A.自分としては積極的に利用したい
B.自分は利用しないが、希望する議員が電子機器を使うことは容認されるべきである
C.議場において電子機器を持ち込むのは好ましくない

回答: C

国会は、思いつくくままに床屋談義をする場ではありません。議論すべき題材は事前に提示されているのですから、それに対する考察は事前に済ませておくべきです。あらかじめまとめておいた資料を印刷しておく代わりに、パソコン上のファイルを利用するということであれば、エコロジーの観点から検討してもよいでしょう。しかし、その場でインターネットで調べた資料を持ち出すことまで認めるのは、熟慮されていない意見によって、いたずらに審議を遅らせる可能性が極めて高いものと言えます。

4.国民の声をより政策に反映させるために、新しい施策を取り入れることについて、どうお考えですか。もっとも緊急に取り組むべきものをお選びください。
A.パブリックコメント制度の位置付けを明確化し、さらなる拡充を図るべきである
B.審議会の委員構成を公募とする等、国民の声をこまめに政策決定過程に反映させるべきである
C.インターネットを使った政策募集、議論の場の提供といった、新たな制度を導入すべきである
D.現状の制度で十分である

回答: D

パブリックコメントは、行政手続法に基づいて設けられている制度であり、その位置付けは明確です。政策の検討にあたっては、その分野を熟知した専門家による委員会で検討が行われますが、よりよい行政を目指すために、広く一般から意見を求めるというものです。インターネットを通じた告知や、電子メールによるコメントの受付も行われています。また、コメントを募集する際に注意書きがあるとおり、これは数によって意見の優劣を決めようというものではありません。一部、このような位置づけが理解されず、多数派工作のような行為が行われているのは残念なことです。

また、委員会において適切な提案を取りまとめるには、それぞれの分野における専門知識が求められるため、そうした人材が選任されています。また、パブリックコメントを各個人が検討するための場については、すでにインターネット上に意見交換の場がありますので、官主導で特別な場を提供することについては特に必要を感じません。

5.今年6月から、対面販売ができないことを理由に、インターネットでの医薬品販売が原則禁止されました。これに対しインターネット事業者等は、「インターネットでの医薬品販売は対面販売より安全性が高く、利用者も必要としている」と主張、販売の継続を求めて提訴していますが、どのようにお考えですか。
A.インターネットでの医薬品販売は禁止すべきである
B.従来どおりにインターネットでの医薬品販売を継続すべきである

回答: A

そもそも、インターネットでの販売が、対面販売よりも安全性が高いとは考えられません。医薬品によっては大量に服用することで麻薬に似た幻覚症状を起こすものもありますが、そのような医薬品が、顔を見せることなく購入できるという環境は好ましいものではありません。たしかに、インターネット販売では住所・氏名を隠して購入できませんが、それらの情報によって、どのような服用がなされるかを追跡調査するわけではありません。医薬品は、手渡しする時点でしか判断することができません。

たとえば、タバコを考えてみてください。成長段階にある体にとって有害なタバコを未成年が入手することを避けるため、昨年自動販売機に taspo カードを導入し、そうでなければ対面販売でしか購入できないようになりました。では、インターネットでタバコを販売することは適切でしょうか。購入時に住所氏名を登録することで、未成年の購入を防止できるでしょうか。販売業者が“販促”のため申し込み者の審査を意図的におざなりにすることは考えられないでしょうか。

また、薬局は、全国各地に薬が行き届くよう設置されています。インターネットの医薬品販売が普及してきたのは、ここ数年のことですが、それまでにも、薬が必要な場合に入手できるような環境は整備されていました。むしろ、インターネット販売が過疎地での薬局営業に支障をきたすようなことがあれば、インターネットを使用しないご家庭にとっては、医薬品の入手を困難にすることになりかねません。

6.近年、国会や行政の場で、インターネット上の違法有害情報の流通を防ぐための施策が検討されています。この点について、教育によって情報リテラシー向上を図る、ネットサービスへの法規制強化による違法有害情報の発信の抑制、国家が違法有害情報の受信を阻止する技術の導入を行う、という3つの考え方がありますが、どの方法に軸をおいて対応すべきとお考えですか。
A.情報リテラシー教育を進めて、個々の利用者が違法有害情報への対処法を身につける
B.事業者に対する規制を強化し、業界努力によって違法有害情報の発信が抑制されるようにする
C.違法有害情報の受信を国家が阻止するような、法的・技術的な仕組みを導入する

回答: C

近年のインターネット上での有害情報の氾濫は、目に余ります。情報リテラシー教育の推進も、業界努力も必要なことですが、残念ながら、これらは、それを必要だと考える組織や企業だけが実施するものです。インターネットは原則として誰もが情報発信できる仕組みであるため、テレビや雑誌のような業界団体による自主規制では、どうしても及ばない領域があり、そうした業者は野放しになってしまいます。もし、ISP において、ネット上の情報に対する自主的な規制を実現できるのであれば、法的な規制は必要ありませんが、技術的には困難でしょう。

地方自治体が、いわゆる青少年条例により有害図書を規制しているのと同じく、何らかの法律や条文によって、インターネット情報の有害情報に規制を設けることは必要なことです。

7.小中学生の携帯電話の利用について、一律禁止すべきであるという意見の一方で、保護者からは子供たちへの通信手段の必要性を訴える声が出ています。この問題について、どう対応すべきとお考えですか。
A.小学生、中学生共に利用を一律に禁止すべきである
B.条例等で規制するのではなく、保護者の選択に任せるべきである
C.小学生、中学生共に利用させても良いが、使い方について教育を行うべきである
D.持たせる年齢については、持たせるか否かも含めて、今後調査と検討が必要である

回答: A

携帯電話の使用契約は児童が独断で行うことはできませんから、現状でも保護者が「子供に使わせる」という選択しなければ児童が使うことはありません。また、「携帯電話が、世の中でどのように使われているか」ということではなく、「携帯電話の使い方」について教育するのであれば、これは義務教育の課程として行うのではなく、携帯電話を使う児童に対する指導を携帯電話業者に義務付けることが考えられます。

しかし、小中学生に携帯電話を持たせることが本当に必要なのでしょうか。低年齢層が携帯電話を所有することになったのはごく最近のことです。また、近年、凶悪事件は減少傾向にあり、実際に携帯電話が児童の保護に役立つケースは極めてまれです。むしろ、携帯電話の所有が、援助交際の低年齢化といった社会問題を増長させている面もあります。中学生に対してまで「現代的なコミュニケーションの手段」を禁ずることが、必ずしも適切かどうかはわかりませんが、すでに存在する規制についても引き続き調査と検討が必要なことは当然のことですから、ここでは、あえて A を選択します。

8.児童買春・児童ポルノ禁止法を改正して、児童ポルノの単純所持を処罰対象にすべきとする意見がありますが、一方で冤罪や憲法上の権利侵害の可能性も指摘されています。単純所持規制による児童の性的虐待抑止効果と、冤罪や権利侵害とのバランスは、どのようにあるべきとお考えですか。
A.冤罪や憲法上の権利侵害のリスクよりも、単純所持規制による性的虐待抑止効果のほうが重要である
B.単純所持規制による性的虐待抑止効果には疑問があり、冤罪や憲法上の権利侵害のリスクを増大させるべきではない

回答: A

この質問では、「児童の性的虐待抑止効果」と「冤罪や権利侵害」が相反する関係にあることを前提にされているようです。まず、このような関係を前提にすることは不適切だと申し上げておきます。質問からは、どのような憲法上の権利侵害を想定されているのか明確ではありませんが、児童ポルノについて、所持側を罪に問うケースは、現行法においても製造側が罪に問われるものです。したがって、所持側の規制を追加することで“表現の自由”が今以上に侵害されるということはありません。また、そのように製造されたものは、可能であれば現行法でも取り締まられますので、“知る権利”も今以上に侵害されるということはありません。

児童ポルノ規制は、被害児童をなくすことを目的とすべきであり、アニメーションなど創作的なものについては、(制作時に被害児童がいる場合を除けば)規制の対象にすべきではありません。しかし、写真や映像では、たとえ児童の同意があったとしても、彼らに成年としての承諾能力はありません。あるいは、保護者や後見人の同意によって児童を写真や映像の対象と認めることも適切ではありません。このような児童は、すべて被害を受けているとみなすべきであり、それを防止するための規制が必要です。とくにインターネット上では、製造側の取り締まりには困難を伴う場合が少なくなく、所持側の規制は不可欠な状況にあると認識しています。

なお、冤罪の懸念については、別途検討されている取調べの可視化などによって防ぐべきものと考えています。冤罪はあってはならないことですが、罪のない人を罪に問うことが冤罪であって、今まで罪に問われていなかったからといって、法制定により罪に問うことになったとしても、それは冤罪ではありません。

9.改正出会い系サイト規制法の施行をきっかけに、健全なコミュニティサイトに対しても18歳未満の異性交際を排除できないおそれがあるとして、警察から削除要請が出される等、ネットコミュニティの規制や取り締まりが強化されています。インターネット上でのコミュニティについて、積極的に規制した方が良いとお考えですか。
A.インターネットのコミュニティがきっかけとなる出会いは犯罪につながりやすいので、規制すべきである
B.性的交渉を目的としないコミュニティサイトについては、規制の対象とすべきではない

回答: A

質問6におけるインターネット上の有害情報にも通じますが、コミュニティサイトにおいても、何らかの規制を設けざるを得ない状況に陥っていると言えます。とくに十分な判断力を持たない児童が、性的被害などを受けるおそれも高く、こうした被害児童を増やさないためにも規制は必要です。なお、「性的交渉を目的としないコミュニティサイト」という定義は、「性的交渉を目的としていません」と表示することにより規制をまぬかれようとする悪質サイトをカバーできなくなるおそれがあり、実質的に何の規制もしないことと変わらないものに見受けられます。

10.知的財産政策(著作権法等)について、いわゆるダウンロード違法化の成立に見られるように権利者の保護を厚くするか、あるいは、利用者の利便性を高める方向にするかで、議論が行われています。今後、知的財産政策を進める上で権利者保護と利用者の利便性、どのようにしてバランスを取るべきとお考えですか。
A.現状よりも、権利者保護を重視する形でバランスを取るべきである
B.現状よりも、利用者の利便性を重視する形でバランスを取るべきである

回答: A

知的財産権の問題について「権利者保護」と「利用者の利便性」だけを取り上げるのは不適切と言わざるを得ません。昨今、インターネットに蔓延する不正コンテンツの増加が著作権者の権利を侵害していることは改めて申し上げるまでもないことです。権利侵害が悪化すれば、それを防止することでバランスを取らねばなりません。その意味では A が回答であり、不正コンテンツのダウンロードを違法化することは、ひとつの方策です。これは、直接的には権利者を保護するものですが、間接的には正規に対価を支払ってコンテンツを入手した利用者にとっても好ましいことだと言えます。

お店に入ってお金を払って品物を購入した人は、もし、同じ品物を誰かが盗んで取り締まられないと知ったら、不公平感を持つでしょう。さらに、そのような盗みを働く人の分まで商品の価格に上乗せされることになれば、正規の購入者はまじめにお金を払うことがばかばかしくなり、同じように盗みを働くことにもなりかねません。そのような事態になれば、著作物に対して十分な対価が支払われなくなり、創作活動が滞ることになります。結果として、正規の利用者が不利益を被ることになります。

もうひとつの「利用者の利便性」については、各著作権者側のビジネス上の判断に任せてよいでしょう。CCCD の導入や廃止の経緯などに見られるとおり、利用者の利便性を損なうような技術は、結局、利用者に受け入れられず、ビジネス上の成功が見込めません。一方、日本では携帯電話に対する音楽配信市場が大きく成長しています。これは、まさに日常的に持ち歩く携帯電話と音楽を結びつけて、利用者にとって高い利便性を実現した成功例であると言えます。

ちなみに個人的な回答としては、「1-A, 2-A, 3-A, 4-該当なし, 5-B, 6-C, 7-B, 8-A, 9-該当なし, 10-該当なし」というところです(解説は略します)。

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