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第5回ICPFシンポジウム・レポート

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本日開催された第5回ICPFシンポジウム「デジタルコンテンツの流通を促進する著作権制度のあり方について」に参加してきました。紹介ページにあるとおり、著作権に関する議論の集大成だそうです(私が参加したのは今回のみ)。

最初に司会を担当された山田肇氏が、これまでの議論をまとめられていたのですが、いきなり、これまでの議論の中で「役立たずの主張の例」として「著作権保護期間は50年から70年に延長すべき」や「旧来の著作者は何百万ものブログの著作者を代表していない」といったものをひっくり返されて、少々驚きました。

たとえば、前者の理由として「現在価値を計算すれば延長する20年分の価値はゼロ」とされていたのですが、それが利用されないということであるなら、別に延長したってかまわないじゃないか、と言えそうです。さらにゲームソフトの流通期間は1年もない(発売後3週間もたてばランキングから消える)という例も挙げられていましたが、20年以上前のファミコン時代のソフトが Wii 向けに販売されているのをご存じないのでしょうか(それなりに売れているようです)。ゲームを守っているのは著作権法だけではないのですが、例示するには不適切な素材だったと思います。

というわけで、のっけから突っ込みどころの多い話だったのですが、「全員が満足する単一のルール(著作権法)は無理」というところは納得です。法というルール以外に、契約というルールを考えることはできるわけですが、たとえば以前取り上げた同一性保持権の不行使(改変の許諾)が適法とみなされない恐れがあるのは問題だと思います。

続いて、岸博幸氏、甲野正道氏、津田大介氏、野方英樹氏、林紘一郎氏がそれぞれの意見を発表されました。意外だったのは、こんなことを言っていたら批判されて当然と思っていた岸博幸氏の発言が、とてもまともだったこと(失礼^_^;)です。簡単にまとめると「(企業は)ネットを毛嫌いしているのではなく、流通メディアとして重視している(違法な配信を問題視したり、被害者意識があるということは別)」「“デジタル”の問題ばかりを強調するのはおかしい。再販制度などアナログでも考えるべきことはある」「登録制度の法制化は可能だと思う」「JASRAC が(意固地で)物分かりが悪いわけではなく、ビジネスになるならアリ」「コンテンツの“流通を増やす”のは目的ではなく手段ではないのか」といったところです(簡単なメモをベースにしているので表現は正確ではありません)。「流通の促進」が目的ではないという点については、私も同意しますし、会場にいらした経団連の方からも指摘がありました。

また、多くの時間が割かれた2階建制度について前回講演された白田秀彰氏や、ICPF役員の池田信夫氏も会場にいらっしゃいました。白田氏によれば、池田氏の理解も正確なものではなく、「非常に厳しい著作権法(1階部分)」と「登録制度(2階部分)」ということなのだそうです。法律がビジネスとして使いにくいくらい厳しくなれば、「手厚い保護」を求める著作権者も満足するはずだし、実際にビジネスをするなら便利な2階へ行くはずだというのが狙いなのだそうです。白田氏は「もともと官僚には手間のかかる制度変更のインセンティブはない」と断じ(※)、そうした提案をしていくことが重要だとされていました。※ただし、岸氏は「官僚は真面目なだけ。郵政民営化のように変更が決まれば、皆粛々とやるべきことをこなしていく」とフォローされていました。

一方、気になったのは野方氏(JASRAC企画部)で、「技術を前提にした制度設計ではなく、制度を実現する技術を」といった発言は、ちょっとどうかと思いました。この点は白田氏も指摘されていましたが、たいていの場合は、技術が先に登場し、あとから制度がついてくることがほとんどです。コピー回数制限といった技術が制度に優先するわけじゃないという主旨だったそうですが、権利団体は批判の矢面に立つことが多いのに、こんな雑な表現をしていて大丈夫なのか、と心配になってしまいます。

後半のパネルディスカッションでも、会場の白田氏や池田氏を含め、登録制度やフェアユースについて活発に議論されました。個人的には著作物の「孤児作品」を減らすという意味で、一定期間後の登録制度を導入することには賛成ですし、許諾手続きを簡易化するためのデータベース構築といったことも有意義だと思っています。ただ、あまりドラスティックに登録制度を導入しようとすると、登録の手間を惜しまず専門の部署を作るであろう企業(とくに大企業)ばかりが有利になり、自費出版するような零細企業や個人ベースの著作物が保護されにくくなるのではないかという気がします。この点について最後に質問したのですが、残念ながら、あまり当を得た回答はありませんでした。

フェアユースについては、以前栗原さんが取り上げられた米国における経済効果の報告書を白田氏が紹介されていました。ただ、このレポート本文を読めばわかるのですが、米国ではそもそも私的複製すらも明文化されておらずフェアユースでカバーされているため、私的複製がなくては成り立たないAV機器業界など、あらゆる業種が“経済効果”として組み込まれているのですね。きっと日本でも「私的複製による経済効果」をまとめたら、それなりの金額になることでしょう。

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