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目標の有効性の限界、あるいはKPIの弊害

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長い間ゆるゆると考えていて、まだちゃんと言語化できてないテーマに「夢や目標を設定する行為の有効性の限界」というのがある。
夢派の一方の極北はワタミの人で「夢の達成に日付を決めて手帳に書け」とか言っているらしい(著書を読んだことがないので伝聞だが。。)
目標派のもう一方の極北は企業で行われているKPI、KGI、MBOの類であり、これは社員をモチベートするのに有効と言われている。

僕が夢や目標をテコとして何かをドライブすることに懐疑的な理由をあげておこう。


1)適切な目標設定が困難
当たり前だが、夢や目標は「成し遂げる前」に決めるものだ。もっというと「チャレンジのために手探りを始める前」ですらある。
つまり対象について情報が全くない時に決める。
何も知らないのだから、適切な目標である確率は低い。
つまり、資源や才能や持っている時間からすると、とうてい無理な目標だったりする。

分かりやすい例としては、小学生が言わされる将来の夢。昔はプロ野球選手だったし、今はYoutuberらしいが、どちらにせよ世の中のことも自分のことも何も理解していないのだから、99%の小学生にとっては妥当な目標ではない。
例えばプロ野球選手になるためには最低でも1000人に1人のレベルで身体能力が高い必要があるだろうが、小学生はそういう構造を理解していないということ。

もちろんそれは小学生だからなのだが、大抵の大人がやっている目標ぎめも「情報がない状態で決める」という意味では大差ない。
期初に「プロジェクトAの成功」とMBOに書いたが、2ヶ月後にウクライナで戦争が起きたりパンデミックが発生して、そんなのどうでも良くなってしまった、みたいな話。

別に外的要因だけではない。
プロジェクトAの成功を目指して色々調べ始めたら、真の課題はそこではないことが分かってしまった、みたいなケースもたくさんある。


2)夢や目標が行動を歪める
もともと立てた目標を目指してもしょうがないことが分かったなら、その時点で速やかに目標を転換してプロジェクトBを立ち上げるべきだが、そうなっていないケースが多い。つまり情報が少ない状態で立てた目標が行動を歪めてしまっているのだ。
様々な企業でお仕事をしてきたので、KPIやMBO(目標管理制度)が行動を歪める様子を観察してきた。
「本当は会社のためにはAをやった方がいいのだが、MBOにBと書いちゃったから」とか「Bをやらないと評価されないので」というやつだ。
どう考えてもバカバカしい。バカバカしいことをやって朝から晩まで過ごすくらいなら「人事評価がどうなるかなんて知ったことか!」と開き直った方が健康的だと思うが、そうはしないサラリーマンが多い。


3)合成の誤謬
目標が誤って設定される理由にはもう一つ、会社組織の複雑さもある。「1人1人の目標を合計すると会社全体の目標を達成できる」という考え方はあまりに素朴で、実際にそうなっていない事が多い、という話だ。
例えば会社の目標が「利益額100億円」だったして、それを達成するための1人1人のKPIを適切に設定する(全員がKPIを達成したら利益100億も達成できる)のって、人智を超えた難易度じゃないですか?
もしこれができるなら、旧ソ連の計画経済だってもう少しうまくいっていたんじゃないのか。


4)パラダイムに囚われた目標に囚われる
夢や目標を決める行為は、「現時点のパラダイムから未来を構想する」という行為だ。
例えば小学生は「一番かっこいい商売はプロ野球選手である」というパラダイムで夢を考える。
「40歳までに5000万貯める!」という目標を決めた人は、「お金がなければ好きなことができない」とか「幸せはカネで買える」みたいなパラダイムで考えているのだろう。

まあでも、行動しているうちに誰しもパラダイムから脱出していく(そして次のパラダイムにとらわれる)。
小学生は3年たてば「プロ野球選手よりも敏腕プログラマーの方がかっこいい」と思うようになるかもしれない。お金を貯めるために経営学を学んでいた人は、経営学の研究にハマってしまうかもしれない。
そうなったら前の目標を軽やかに捨てればいいのだが、「夢や目標に向かって邁進する」というタイプの人は、捨てるのが苦手に見える。


という感じで、「人生においては夢を持とう」「経営においては目標を設定しよう」ということを、世間では素朴に信じすぎているのではないか。
夢や目標に囚われることの弊害に無自覚なのではないか。
と常々ぼんやりと考えているのだが、なかなか理路を説明しにくいし、普段のしごとの中であんまこういうことを言うと馬鹿だと思われるので、難しいなぁと思っています。


ちなみに①
僕が所属するケンブリッジは売上利益の目標に関心がとても薄い会社です。一応株主との約束があるし、結果として毎年だいたい守っているけど、日々それを意識しながら仕事をしている人は極少人数だし、個人の売上目標みたいなのもほとんどない。
先日知人に「なぜそのコンサルティング会社に転職したのですか?」と聞いたら「ノルマに追われないと聞いたので」という答えで、確かに顧客のことよりノルマを優先するコンサルタントはクソなのでいいことだと思ったが、ウチの場合はそもそも売上目標を設定していないのでノルマに追われる以前の話だった。

ちなみに②
僕個人としても、昔から夢や目標はもたない。
学生のころはコンサルタントという職業なんて全く向いていないと思っていた。本も書くつもりはなかった。コンサルティング会社に入ってからも出世するつもりはなかった。
プライベートで言えば2拠点生活についてちゃんと考えたのは、不動産を買う2ヶ月前だったので「前々から夢だったんですよ」みたいな感じでもない。
でもその時その時でやりたいことを選んでいけば人生は勝手に流転していく。それでよくない?
(ちなみに小学生の頃の作文には将来の夢として「コックさんと科学者とで迷っています」と書いてあった)

ちなみに③
今日の個人的な目標は「本を1章分書く」だったが、書いているうちに隣のテーマについて書きはじめてしまい、結果としてこのブログになった。それに時間を使ってしまい、当初目標は達成できなかった。自己嫌悪に陥りかけたが、そうだ、オレは目標設定もさることながら、目標との乖離だけで何かを評価すること自体に懐疑的なんだった、と思い直し、開き直ることに成功した。

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