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著者から覗く出版業界の様子、あるいは業界構造の変化ってこんな感じに起こる?

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「システムを作らせる技術」は白川史上1番売れた「業務改革の教科書」を上回るペースで増刷を重ねている。タイトルが良かったのかもしれない(このタイトルは偉そうに見えるのが不本意なので、最後まで迷ったのだが・・)。
お買い求めの皆さん、ありがとうございます。

本を出したことがない方からすると意外かもしれないが、著者は「本がどれくらい売れているか?」をリアルタイムで把握できない。
・増刷のペースがいいぞ
とか
・編集さんが喜んでいる
とかによって、なんとなくわかる感じ。
(増刷の連絡は来るが、刷った冊数=売れた冊数ではないので)

他に売れているかどうかの目安として、Amazonの順位とか、Amazonの書評(★5つとか)の総数もある。
Amazonの順位は比較的「この数日にどれだけ売れたか?」を重視しているように見えるので、「発売後の累積売上数」とは少しずれている気がするが、それでも今度の本は総合1000位以内をキープしているし(今見たら456位)、カテゴリ順位もいい(今見たら1位)。これは過去の本よりもずっと良い成績だ。

また、累積販売数と書評の数は、おおよそ相関関係があることが知られている。(★の数ではなく、悪い評価でもいいから、とにかく評価をした人の数が多い本は売れている本)
これも白川の過去の本よりもずっと早いペースで増えていく。★4や★5をつけてくださった方、ありがとうございます。


ここからが今日の本題。
こんな感じにAmazonだと絶好調のこの本、僕が見る限り、リアル書店ではほとんど売れていない。売れていない以前に、書棚にあるのを見たことがない
12年前に最初の本を出した時、近所の本屋は平積みしてくれていたが、いまは本のスペースが激減した上に、変な嫌韓本みたいなのが幅をきかせている。もちろん僕の新刊はおいていない。
それはしょうがないとして、新宿紀伊國屋にも置いてなかったのが衝撃だった。「1回くらい本が売られている姿を見ておくか」とわざわざ行ったのに・・。
もうこの本が書棚に並んでいる姿を見ぬまま終わるのだろう。


先日、「Amazon vs リアル書店」の割合はビジネス書だと6:4くらいという話も聞いた。
Amazon1社に対して、全国全ての書店の合計がもう敵わない時代なのだ。
今回の「システムを作らせる技術」はやや専門書寄りなので、きっと9:1くらいの割合だろう。なんというか、凄まじい。Amazonに命運を握られているというか。Amazonに無視されたら本は全く売れない時代なのだ。
僕自身、読む本をリアル書店ではなくSNSで掴むようになって10年になる。


この「Amazon以外の本屋では、ベストセラー以外の本は置かれない」という変化の余波は、出版社にも及ぶ。

そもそも10年くらい前から、出版はどんどん「多産多死型ビジネス」になってきたのを感じる。
1冊あたりの売上冊数が減ってきたので、売上総額を保つために「数で勝負!」となってきたのもあるし、DTP技術の進歩によって1冊を出版するための作業が楽になったから、というプラスの原因もあるだろう。
とにかくどんどん出して、当たればラッキー。企画や編集にはなるべく人件費をかけない。企画からじっくり本造りをする、という世界とは真逆だ。

こうした変化にともなって、これまで何十年も出版社が担ってきた機能というか、提供してきた価値を出版社が自ら放棄しつつあるように感じる。それが生き残りのために必要なことなのか、むしろ首を締めることなのかは微妙だが・・。


出版社の価値①:企画
出版社が企画書を書いて、著者に声をかけるなんて、大物小説家とか有名人でなければないんじゃないかな・・。僕も毎回自分で企画書を書き、出版社に持ち込んでいます。

出版社の価値②:ファイナンス
僕は専業の物書きではないが、専業の人は本が売れて印税を貰えるまでの生活費が必要だ。本は必ず売れる訳ではないので、保険的な意味もある。
雑誌の連載は毎月お金がもらえるし、書き下ろしの場合も前金を払う習慣も昔はあったらしい。だが今は絶滅した習慣なのでは?
でもそうすると専業の人は厳しいですよね・・。

出版社の価値③:編集
中身にアドバイスをくれたり、章構成を練ってくれたり、文章を直してくれたり。
僕の場合、今まで5冊出したうちの2冊は、編集者の方の指導で、大きく方向性が変わった。
逆に言うと他の3冊は編集はほとんど関与せず、原稿がほぼそのまま出版された。原稿の完成度が高かったからか、労力を注ぐ価値がないと思われたからなのかは分からない。前者であってほしい。
出版社がとにかく多くの本を出すようになって、丁寧な編集の時間を割きにくくなっているんじゃないかな。

出版社の価値④:校正
出版社から本を出すと、しっかり校正をしてくれる。それでも抜け漏れはあるので、同僚や奥さんにもチェックしてもらっているし、たいてい何個かは見つけてもらえる。
電子書籍にしかなっていない個人出版の本をたまに読むと、誤字がひどい。この点は出版社が価値を出しているところかな。(今まで一番しっかり校正をしてくれたのはダイヤモンド出版)

出版社の価値⑤:版組
図表や文章を組み合わせて紙面を作る、デザインみたいな仕事ですね。
「システムを作らせる技術」は図表や写真やコラムなどの囲み記事が多く、すごく手間をかけてくれたようだ。おかげで読みやすい、読んで飽きない本になっていると思う。
このあたりもプロの仕事だとは思うが、パソコンでのDTPが発達して、プロ並みにやる著者も出てきそうだ。
余談だが、こないだウチの社員のバンドがアルバムデビューした。バンドメンバーだけでミキシングしたと言っていたが、全く遜色ない音質だった。何でもパソコンでできてしまう時代だ。それの本バージョンが今後もっと一般化するだろう。

出版社の価値⑥:本屋に並べてくれる
電子書籍(Kindle等)が盛んになったとしても、実物の本を作って、本屋に流通してもらうことの価値は(著者からすると)、とても大きかった。
本屋というのは、単に目当ての本を買う場所だけでなく、見本市みたいなものだから。

「本当に良い本であれば、口コミで広まるはず」と思いたいが、そもそも誰にも読まれなかったら口コミもスタートしない。そういう意味で、芸能人でもない著者にとっては「本屋に並べていただけるだけでありがたや~」という感じだった。
でも前述のように、今や僕らの本を本屋は扱ってくれないし、それでも売れる時代になってしまった。
気づいている人が少なそうだが、このことが出版というビジネスに与える影響は、長期的にとても大きいと思う。「本を出せるか出せないか、売れるか売れないかは、出版社次第」という大前提が崩れる訳だから。怖いですよこれ。

出版社の価値⑦:宣伝
「システムを作らせる技術」も新聞の1面で宣伝をしてくれたようだし、その直後はたしかにAmazonの順位も上がる。ありがたい。
でも新聞雑誌を読む人も減っている。
そもそも出版社も商売だから、「売れ始めた本をブーストする」には積極的に宣伝費を使ってくれるが、「宣伝しなければ売れない本を宣伝力で売る」みたいな感じではないんだよね・・。
だから、著者がSNSやブログで告知し、初速を出す重要性は増すばかり。出版社が本を出す判断をする際も、著者自身の拡散力を加味するだろう。
この辺も、出版社の役割が著者側にシフトしているってことだ。

出版社の価値⑧:信頼性の担保
「ちゃんとした出版社が出しているのだから、ちゃんとした本だろう」という信頼ですね。僕らの本を出してくれている日経新聞なんかは、結構厳しい内規があるみたいだ。
でも有名な出版社でも、かなり怪しい医療本(医学的根拠がなく、端的に言って世の中に害をなす本)を出したりしているので、これももう過去のものになりつつある・・。


こうして、そもそも本の売上総額が減っているのに加えて、書店に本が並ばないこと、技術の発達などから、出版社が担ってきた価値は相当な変更を迫られている。
うっかりしていると単なる製本屋さんになってしまう?いや、それは別の会社か。では何が残るのだろうか?
読者としても著者としても、出版社には今まで散々お世話になってきたので、なんとか良い道を探ってほしい。

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