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仕事への情熱を伝える方法。あるいは自己アピールが下手なあなたへ

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あなたは他人から「エネルギッシュだ」「情熱的」と思われてるだろうか?
無気力な人よりはモチベーションが高い人と仕事をしたいと思うのは自然なことなので、面接などの場で仕事への情熱を伝える技術は、現代人として大切なスキルなんだと思う。

とは言え、自分自身はこの点はまるで自信がない。
今を遡ること25年前、某大企業の採用面接(の手前のリクルーター面接)に落ちたのだが、理由が「飄々としていて、やる気を感じない」だったのだから。確かに「若いうちはなんでもやります!」とか「御社に入ってこんなことをやるのが夢なんです!」みたいなことは一切言わなかったので、そう評価されても仕方ない。

別に無気力な人間ではなかったのだが、相手に評価されようと気負って話そうとすると、心の中の醒めた自分がツッコミを入れてくるんですよね。「あらあら、やる気ありますアピールですか?ご苦労なことですね」と(中2かよ)。
面接にすらたどり着かなかったことは、当時はまあまあショックだった。数社しか受けていないうちの1社だったし。
社会人となった今でも、やる気満々のフリなんて、できないままだ。人間そう簡単には変われるものではない。


ところが先日ある会社で、その会社の偉い方から「大変情熱的なプレゼンで、圧倒されました」と言われてかなり驚いた。いわゆるコンペでの提案プレゼンの場で、「こんな風にプロジェクトをやっていきましょう」と説明した時のことだ。
やる気よりも中身で勝負する派だから、そういう反応はめったに無い。もちろん仕事への情熱はあるのだ。あるのだが、アピールはしない(できない)。その辺は就職活動の時と何も変わっていない。でもあの社長さんはどこから僕の情熱を感じ取ったのだろうか?
忘れないうちに「自己アピールが好きでも得意でもない人間が、それでも情熱を感じてもらう方法」について、書き留めておこう。


★コツ1:「やる気があります」は一切言わなくていい
結果として情熱が伝わったからと言って、いつものように「僕、やる気があります」的なことは一切言わなかった。
そもそも、「やる気あるんです」と人から言われて、あなたはそれを信用しますか?僕は信用しない。最初はやる気満々と言ってたひとがすぐに残念な姿勢になってしまう経験があるからだ。もちろん、本当にやる気がある場合もある。つまり、最初のやる気アピールはあってもなくても同じ。


★コツ2:仕事への興味は隠さなくていい
・プロジェクトを成功させるために、議論を重ねて考え尽くしてきた
・成功させるためのアイディアがたくさんある
・それを実現させたくて、ウズウズしてきている
・総じてワクワクしている
みたいなことは、そのテーマについて議論していれば、自然に伝わるものだ。
それを感じてもらうことも大事だが、それだけではなく、「私たちの間でも激論があったんですが、」とか「楽しみですね」とかをちゃんと口でも言ったほうがいい。
中二病的な傾向があるので、これが自然に出来るようになるまで少し自己訓練が必要だった。でも「自分はやる気があります」よりは、「これ、面白い仕事ですね」の方がずっと口に出しやすい。


★コツ3:あなたにこれだけは伝えたい、という感情も隠さなくていい
同様に「ここ、ほんと大事なんで、もう一回、違う言い方で説明させてください」的な言い回しも良くする。
「プロジェクトを成功させるために、参加者に絶対理解してもらいたいこと」は、実際にある。だから強調する。
だがきっと、これで「あなたにこれを理解して欲しいんです!」という姿勢(あるいは情熱)みたいなことも同時に伝わる。例えば愛の告白みたいなシーンだと、しゃべる内容よりも、口調とか表情みたいな「切羽詰まったトーン」の方が重要なメッセージになる、ということがあるでしょう。それに近いかもしれない。


★コツ4:すでに決まったかのように話す
「プロジェクトが始まったら」とか「弊社と一緒にやるならば」みたいな前提を置いた話し方はあまりしない。
すでにプロジェクトは始まっている。当然、僕らと一緒にプロジェクトをやる。
という前提で話す。
これは「情熱を伝える」に関係あるのか分からないのだが、やる前提で話したほうが、こちらも本気で考えられるし、聞く方もイメージしやすいはず。


★コツ5:チームメンバー間の会話は大事
僕らは提案プレゼンみたいな場で、1人だけが話すことはめったにしない。コンサルタント個人を買ってもらう訳ではないから。
そうではなく、チームをお客さんの社内に取り込んでいただく。だから、提案プレゼンも「こんなチームだよ」を理解してもらい、「コイツラを招き入れたら、会社が良くなるかな?」を判断する材料を提供したい。
「店長がバイトを怒鳴りつけているのがカウンター越しに見えると、ラーメンがまずくなる」ってあると思うが、コンサルティングも似たようなところがある。

だからプレゼン中にチームメンバー間が話すことはよくあるし、そういう、ウチのメンバー間の関係も含めて見ていただく。
一緒に働くひとの情熱が判断材料になるのは、結局の所「チーム全体の生産性を上げるような人を招き入れたいか?」を重視しているということだ。その観点からすると、やる気ありますアピールなんかよりも、人間関係を見てもらう方が、本来有効なはずだ。


★コツ6:慇懃よりも同志としての言葉遣い
賛否両論あろうが、僕はお客さん(社長も含めて)に対して、ビジネスマンとしてはかなりカジュアルな接し方をする。もちろん最低限の敬語は使うし、もっとちゃんとした言葉遣いもやろうと思えばできるけど、あえて少しカジュアルに寄せている。

これは僕がお客さんのことを「お客様≒神様」よりは「プロジェクトを伴に成功させる同志」と思っているからだ。同志だから、時に耳に痛いことも言う。本音でガツガツ議論したい。

世の中のほとんどのコンサルタントは、ビシッとスーツを来て、きちっとした敬語を使ってカチっとしたプレゼンをする。だが僕は、プロジェクトが始まってからそういう関係性を築こうと思っていない。同志だから。だったら最初からそういうトーンで接し、それが気に食わない方とはお仕事を始めない方が良い。

そしてもう一つ大事なこと。
慇懃すぎるトーンでプレゼンしたら、これまでコツ1~5で書いてきたことは全て台無しになる。「ここ、ほんと大事なんで、もう一回、違う言い方で説明させてください」を慇懃な話し方に翻訳しても伝わる気がしない。


以上、自己アピールをできない僕が、提案コンペみたいな場でやっていることを書いてみた。振り返ると、この辺が僕なりの情熱を伝える方法論になっている気もする。
まあ提案コンペって必ずしも内容や情熱だけで決まる訳ではないので、この辺が伝わってもNGの時もあるし、伝わらなくてもなぜかOKの時もあるんだけどね。そもそも、近年は提案コンペに参加すること自体ほとんどないのだが。

そしてこのブログを書き終わって思うのは、やっぱり新卒で受けたあの会社での仕事を僕はやりたくなかったんだろう。あの会社に限らず仕事自体へのモチベーションも高くなかった(当時の僕は卒論で頭がいっぱいだった)。それだけじゃなく、頭のどこかで「この会社は合わないだろうなー」と思っていたのがにじみ出ていたはずだ。リクルーターの先輩は慧眼だった。



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新刊情報

1月に原稿を書き上げて、もう2ヶ月もゲラが上がるのを待っている。
今度の本に限らず、編集さんに原稿を渡す段階でかなり完成度を上げている自信があるので、あんまり編集さんに手間をかけてはいないと思うのだが、図表やイラストや事例やコラムなどが多く差し込まれているので、ゲラを作る段階でとにかく手間がかかるらしい(つまり編集さんというよりも、デザイナーさんが大変)。
元々第一弾(業務改革の教科書)と同じ様に、続編であるこの本も長く読まれるような本なので、「DXブームがあるうちに早く出さないと!」という感じでもないので、気長に待ってください。

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