「終身雇用×年功序列」の相性は実は最悪。あるいは雇用と昇進基準の組み合わせ色々
日本的経営の特徴として、「終身雇用」と「年功序列」は常にセットで語られてきた。
でもこの2つ、全く別の概念だし、別にセットじゃないと機能しない訳ではない。それどころか、この2つは相性が悪い。セットで機能するかのように見えたのは、高度成長期というごく限られた環境でうまくいったから。
僕も高度成長期に育ったので、それがデフォルトのマインドセット(当たり前の風景)になってしまっている。しかし「終身雇用×年功序列」が有効な高度成長期はたった30~40年間しかなく、それが終わってからもう30年近く立つのだから、さすがにそういうマインドセットからは脱却しないとね。
企業が取りうる選択肢として、終身雇用の反対を「自由解雇」、年功序列の反対を「能力主義」とおいて、各組み合わせについて考察してみよう。
(もちろん日本では法律上、自由解雇はできない。しかし外資系など、自由解雇「寄り」の人事政策を採用している企業はある。退職勧奨とか、転職先を用意するとか・・)
簡単に各象限の特徴を見てみよう。
①終身雇用×能力主義
極力雇用は大事にする。しかし人を評価する際に年功序列要素はなく、「今時点のその人の能力」だけで判断する。
うちの会社はこれです。また、大企業でもエクセレント企業と呼ばれるような会社を観察すると、昇進にはかなり実力が反映されている様に見える。
現時点のその人の能力を査定し、それに応じたポジション、待遇で雇う訳だから、ある意味スッキリしている。「その人の能力」≒「その人が稼いでこれる能力」≒「その人の市場価格」なので、年齢が上がったからと言って、会社のお荷物になる人は誰もいない。
「解雇とかしないので、安心して働いてください。待遇はあなた次第ですが」という考え方だ。
この組み合わせがいいのは、終身雇用からくる「このひとの将来の能力がどうなるか読みきれない」という不確実性を、「その時点の能力次第で処遇します」という形で社員にある程度背負ってもらっているという点だ。経営合理性がある、つまり無理がないのでヘルシー。
ただしいくら相性が良いと言っても、能力主義そのもの大変さには注意が必要だ。
年功序列ではないということは、社員1人1人の人物や仕事の成果だけで評価を決めなければならない。だから、その分、人事評価自体の重要度が段違いになってくる。
もちろん、長い仕事人生で常に右肩上がりで貢献度が高まる訳ではないから、降格は日常的に起こる(僕も経験した)。
あと、「いいか、若いの。仕事と言うのはだなぁ」みたいなこと言ってた相手が、3年後には上司になっている可能性があるのが能力主義。入社年次や年齢は関係なく、誰もが1人のプロフェッショナルだとみなして尊重し合うような文化じゃないと、人間関係がうまくいかなくなる。
②終身雇用×年功序列
ずっと雇う。それはいい。でも、その人達を単に「長くいる」というだけで地位と待遇を上げるのはイカンでしょ。
・人には優秀な人とそうでない人がいる
・同じ人間でも、バリバリ働くときと怠ける時がある
・能力の上昇(下降)カーブは人によって違う
これらは人間の本性として否定し難いと思うんだけど、この2つの組み合わせは、その本性に逆らう制度なんじゃないだろうか。
今、多くの企業で起きていることなのでクドクド書かないけれども、この2つを組み合わせが引き起こす組織不全はたくさんある。
優秀ではないけれども年次が上、というだけで管理職となった人が部下の才能を潰したり。
そういう人が首にならないどころか管理職を外れることもせずに、ずーっと居座るとか。
単にその人に給料を払いすぎる、というだけではなく、組織パフォーマンス全体が落ちるんだよね。
あとで書くように、年功序列をどうしてもやりたいなら自由解雇とセットの方がまだいい気がする。
ちなみにメリットがない訳ではなくて、「部下に昇進で抜かされることがない」ということは、「上司が持っている重要な情報を部下に隠す」みたいなしょうもない上下闘争はなくなる。まあ、でも、こんなことやっている時点で、他の会社との競争に勝てるわけないですよね。
③自由解雇×能力主義
これ、一般的には「Up or Out」と呼ばれています。外資系コンサルティングファームなどでおなじみ。
完全能力主義で、「周りに比べて能力が足らない」と判断された人々は会社を出ていくのが当然、という考え方。
もちろんこういう組織でずっと生き残っていくのは極めてプレッシャーが厳しいのだけれども、企業視点で見れば、経営合理性はあると思う。
常に組織をピラミッド型にキープできるし、緊張感がある。理屈の上では、管理職は常に部下よりも優秀である。そうでない人は、とっくにクビになっているはずだから。
「Up or Out」の弱点は、生き残るのが厳しいとわかった上でも入社希望者が次々と来る、人気職種じゃないと成り立たないことかな。
④自由解雇×年功序列
こんな組織が実際にあるかな?と考えて、見つけました。
キャリア官僚がこれですね。大手銀行なんかも近いかもしれない。
同期はほぼ横並びで偉くなっていくし、仕事しながら年次も気にする(年功序列)。しかし課長になる、局長になる・・とだんだんセレクションが進んでいき、セレクションから漏れた人は、関係組織や取引先など、組織の外に片道切符で出ていかなければならない。
(自由解雇、という言い方だとさすがに極端だが、少し前までは、同期が上司になっても組織に居座るのはタブーだった)
個人にとっても組織にとってもこのやり方の魅力となっているのが、30代、40代という働き盛りのうちに、組織の要職を担当できることだと思う。
終身雇用×年功序列の場合だと、自分より能力が低い先輩が上のポストで滞留していると、本人に能力があっても大きな仕事を任されにくい。でもそういう人が外に出ていってくれるのは、組織をリフレッシュする効果があるのだろう。
ただし最近は天下りも禁止され、この人材流が滞っている。今後どういう人材戦略を描くんでしょうか。
と、4パターン見てきたが、一つ確実に言えるのは、唯一絶対の正解はないということ。
コンサルティング会社が終身雇用×年功序列では成り立たないのはもちろんだけれども、「この会社でしか通用しないスキルをじっくりと身につける必要がある」みたいなビジネスで「終身雇用×能力主義」をやっても、うまくいかない気がする。
もちろん、時代とか、その会社が成長のどのステージにいるかによっても変わる。
ということで、
・「終身雇用×年功序列」が必ずしもセットである必要はないこと
・雇用と昇格の組み合わせには色々なパターンがある
・事業特性によって、どれがベストかは変わる
・どの組み合わせを選択するかによって、会社の風土や社員の考え方は大きく影響を受ける
あたりが、今日言いたかったこと。