"僕がアップルで学んだこと"の感想
著者はAppleで品質保証部門でマネージャーまで勤めた方で、中からの視点でAppleの成功理由を述べています。このため、"インサイド・アップル"とは対極的な本になります。
"責任の所在がきわめて分かりやすい組織"
これはApple本に必ず出てくるフレーズです。前から思っていたのですが、責任と権限はワンセットだと思うのですが、どのApple本でも権限に関して書かれた本を読んだことがありません。
ですが、本書では責任と自由裁量がワンセットで、自由裁量が日本の会社よりも大きいと説明しています。これで合点がいきました。
このため、Apple本を読んで責任の所在が明確なところだけまねて、自由裁量の量を増やさなければ効果がありません。この1点がだけでも既存のApple本とは違って中の人が書いた本だと評価してもいいと思います。
業務に関して、スティーブ・ジョブズ氏復帰後に、"問答無用に命令に従わされている「やらされている感」も大きい"とありますが、その強制感はiMac、iBook、iPodが成功して自分達が行ってきた業務の成果が表れると消えたそうです。
最近、"喜んで週末働きたくなるような仕事を選べ"でAppleの新入社員に向けたメールの中で同様な言及がされていますし、ジョブズ本でもジョブズ氏が同様に多くの時間の作業を部下に強いているけど、後になっていい仕事だったと言えるのではないかと心のうちと吐露している記述が散見されます。
Freeでもお金では仕事を維持するのは難しいと記述があります。やはり高いモチベーションを維持するのは多くの人への影響を与えているところが重要なのでしょう。
テストに関して驚く内容が記載されています。テストでは仕様書とは違うことではなく「○○の機能は使いづらい」、「××のパネルは分かりにくい」といった報告があるようです。確かにテストでこのようなコメントを出すことで使いやすい製品になります。"構え、撃て、狙え"で行われている感じですね。
Appleの社内政治に関して記述が少し面白いです。確かに3人いれば政治が始まるものですからAppleに社内政治がないわけがありません。
ですが、Appleの社内政治はきついほうで著者がもしAppleが傾くならば社内政治が原因になるのではないかと危惧しています。著者は社内政治も必要悪とも言っていますので、Appleの製品が売れ続けている間は問題は起きないでしょうが、一度でも売れ行きが鈍化すれば社内政治の軋轢が表に出てくるのかも知れません。
Apple本はジョブズ氏が亡くなってから雨後の竹の子のように出ていますが、本書は中の人が書いたためか最もユニークな本になっていて読み応えは相当あります。