オルタナティブ・ブログ > 少しでもパラノイアになってみる >

知的好奇心を満たすために、いろいろなことにチャレンジする

ARMがサーバ市場を揺るがすのか

»

"アームCEOが強気の発言、「われわれが2014年のサーバ市場を揺るがす」"

ARMのCEOが2014年にサーバ市場を揺るがす発言をしましたが、それは強気なのでしょうか?私はそうは思いません。

ARM系CPUがサーバ市場でも十分に地位を築けると思っています。その理由は3つあります。

1つ目は、NVIDIAがやる気だからです。NVIDIAはGPUメーカでしたが現在HPC市場で大きくシェアをとっています。ですが、NVIDIAとしてGPUだけではなくCPU部分を提供したいと思っているはずです。すでにTegra 3を使った試験的な製品を出しています。

NVIDIAはCPUからGPUまでそろえたHPC向け製品を出す予定ですが、CPU部分は64bitでないといけません。このため"NVIDIA,2014年を目処に「Tegra」で64bitアーキテクチャ採用。CUDAのオープン化でエコシステムの拡大を図る"にあるように64bitのARMをTegraを出す予定でいます。64bitに対応したARMv8なのか、それともNVIDIA独自設計なのか分かりませんが(ARMv8でしょう)、ARMのCEOの発言と時期と一致しています。このため、ARMのCEOの発言は、2014年に出荷予定の64bitのTegraを期待したものなのでしょう。

2つ目は、ARM製造・設計メーカが多数いることです。現在有名どころはNVIDIA、TI、Qualcommですが、他にもFujitsu、Panasonic、Marvell、Samsung、Appleと多くいます。

これらのメーカがモバイル市場で競っていますが、市場規模以上の競争を強いられた場合脱落するしかありません。レッドオーシャンで頑張るバカはいません。

脱落するとき開発資源を売却、縮小、もしくは他の分野に進出するしかありませんが、なかなかすっぱり撤退できるものではありません。他の分野といえば組み込み市場を除けばサーバ市場が目に入るはずです。競争に敗れたメーカが他の分野であるサーバ市場に進出しても少しもおかしくはないでしょう。

3つ目は、小さく・省電力なコアであることです。サーバ市場はPC・ゲーム・モバイルよりもマルチコアが生かせる分野です。今後製品が発表されるCortex-A15は8コア程度想定されていますが、将来的にもっと搭載することは可能でしょう。

現在のARM系CPUの市場の多くはモバイルに限定されているためチップも小さく(100平方mmを切る)するためにコアを4コア程度しか搭載できていませんが、サーバ市場の標準的なCPUのダイサイズである300平方mmならばもっとコアを搭載することが可能です。

"バッテリ駆動時間を延ばすARMの「big.LITTLE」技術"にCortex-A9、Bobcat、Bonnell(Atom)のコアサイズを比較した図があります。40nmのCortex-A9は1コアあたり2.5平方mm、45nmのAtomが9平方mmとあります。単位あたりのCPUコア数を搭載する場合は、ARMのほうがより多く搭載できます。

このためサーバ市場で必要な多コアを搭載することに関してはARM系はx86よりも有利な状況です。スループットが必要なサーバ市場ではARMはx86等には見劣らない可能性があります。

上記の3つによりARMがサーバ市場に進出して一定のシェアを確保することは可能だと思っています。

また、これだけではなく新しいプレイヤーの登場の可能性があると思っています。

それはGoogleやFacebook等のクラウドメーカです。

クラウドメーカは、消費電力を気にして独自のサーバを製造したり、省電力なデータセンターを建設しています。これをもっと突き詰めればサーバ向けCPUを設計・製造してもいいはずです。

専門外のメーカがARMの設計・製造するのはコスト超過の可能性がありますが、Appleの成功例があります。多数の製品で活用することで自社消費でも問題はありません。

たぶんNVIDIAはHPC向けにするためGPU付きTegraを出すでしょう。ですが、サーバ市場にはGPUは今のところ余計です。このためいくつかのARM系CPUメーカではCPUだけ乗せている製品がありますが、それがGoogleやFacebookが気に入るとは限りません。

また、同じCPUでサーバを作っている限りサーバ効率でライバルを出し抜けません。差をつけるためにもGoogleやFacebook等のクラウドメーカがCPUから設計したサーバを構築する案も決して悪いと言えないでしょう(ただし、GoogleがARM系CPUを製造しても外販しないでしょうけど)。

最良のシナリオならばARM系CPUはサーバ市場で20%ぐらいのシェアをとることが出来ると思います。とはいえ、競争力旺盛なIntelがこの状況を観客として眺めているとは到底思えません。Atomをサーバとして準備もしています(なぜもっと早くやらなかったのか理解に苦しみますが)。

また、もしかするとIBMもこの分野に進出するかも知れません。POWERは組み込み系を得意としていますし、Bule Gene/Q等の省電力CPUもあります(HPC向けなのでクラウド向けではありませんが)。

過去のCPUの歴史は下克上でRISCがメインフレームを破り、x86がRISCを追い込んで下克上を成功させてきました。ARMがx86を飲み込んでも少しも驚くことはありません。

Comment(0)