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グローバル化する中で日本人はどのようにサバイバルすればよいのか。子ども×ICT教育×発達心理をキーワードに考えます。

Word (Save As DAISY)で作成できる電子書籍

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はじめに

さて、今日はiPadやkindle、ソニーのリーダーなど、商用のものとはやや毛色が違った、ユニバーサルデザインをとりいれた電子図書の話です。

2010年5月7日から、片岡麻実の個人の楽しみとして日本文学の名作100冊をマルチメディアDAISY化し始めました。マルチメディアDAISYとは、学習障害や弱視の方など、紙の本だと字が読みにくい方も読書しやすいように、文章とシンクロして音声も再生される電子図書です。

先進国ではかなり普及しているものの、日本だけ普及が遅れています。一般の方の知名度は、残念ながら低いのではないでしょうか。

※マルチメディアDAISY化されたごん狐を再生している動画。

マルチメディアDAISY

しかし、文部科学省が2015年を目標に、学校でマルチメディアDASIY(←電子書籍の規格名)で作られた電子教科書を使えるようにしよう、と国会で答弁が進められるそうです。マルチメディアDAISY図書が、本当に日本で活用されるのか不明です。が、やや時代を先取りして、ご紹介しようと考えた次第です。

もともと学習障害のお子様のために、マルチメディアDAISYで電子図書を作成していました。日本では無償ボランティアでないと、無料の作成ソフトが使用できません。

また、教科書のマルチメディアDAISY化は行っていましたが、著作権の問題で、一般の書籍を電子図書化したことがありませんでした。ところが以前、知人が「紙の本が読めない方にも、青空文庫の日本文学の名作100冊をマ ルチメディアDAISY化して、読んでいただけるようにしたいな」とおっしゃっていました。

青空文庫は、すでに著作権が切れた文学を掲載しているサイトです。ボランティアの方々が著作権が切れた文学を日々、入力されています。

参考:青空文庫 Aozora Bunko
https://www.aozora.gr.jp/

私は思いつきました。「先日、マイクロソフト社から配布された、Wordのアドインのsave as daisyを利用すれば、"マルチメディアDAISY"形式の電子図書が、簡単につくれるのではないか?」と。

[参考]IT Pro Microsoft,Open XML形式文書を視覚障害者向けに変換するアドインを提供開始 http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080508/300928/

Save as DAISY

Wordで電子図書が作れるとは、なんともビックリです。実際にXMLファイルの作成、合成音声の当てはめが、自動でできました。今までのマルチメディアDAISYの作成ソフトでは、自分で htmlファイルを作成し、自分で朗読するか、音声ファイルをインポートして自分で編集する必要がありました。

しかし、マイクロソフト社が開発した Wordのアドインのsave as daisyを利用すれば、合成音声をテキストにシンクロさせてくれるので、簡単にマルチメディアDAISY形式の電子図書が作成できます。http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/software/save_as_daisy.html

現時点では、合成音声での音声読み上げ版のみ作成できます。私は商用にも利用できる合成音声を購入して作成しました。あくまでも無償ボランティアとしてマルチメディアDAISYを作成する場合はリハビリテーション協会に申請すると、無料で合成音声がいただけるそうです。http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/software/save_as_daisy_tts.html

音声読み上げについては、現時点では読み方のイントネーションが不自然になりやすいです。なので、私はやや早めの速度で再生して合成音声の発音の癖を緩和しています。

一気に読み上げる範囲やイントネーションなど改良できると思います。随時、作成の仕方の改良に取り組みたいと思います。

マイクロソフト社が配布しているソフトで作ったところ、10分程度で作成できました。ですが、読み間違えがまだ多めです。イントネーションが不自然な個所も、多数ありました。

実際に制作してみて

私が作成した日本文学の名作DAISY化第1作目(2010年5月9日公開)は先日、松たか子さん主演で映画化された太宰治「ヴィヨンの妻」です。 もちろん無料で配布しています。

今までマルチメディアDAISYは、「子供向けの作品しかなくて大人が読みたい作品がない」と感じていました。太宰治「ヴィヨンの妻」を 作成しました。大人向けの作品だと思いますが、短編なので小学校高学年くらいから楽しめると思います。

▼[マルチメディアDAISY版]太宰治「ヴィヨンの妻」(第一版)
http://www.dl-market.com/product_info.php?products_id=66248

そこで、合成音声に単語の読み方やイントネーションの記号を辞書登録しました。二作目の芥川龍之介「蜘蛛の糸」では、だいぶ読み上げが改善できました。

▼[マルチメディアDAISY版]芥川龍之介「蜘蛛の糸」第一版
http://www.dl-market.com/product_info.php/page/1/sort/7d/products_id/67199

合成音声が......

私が購入した安い価格の合成音声ですと、まだまだデフォルトの状態では合成音声の読み上げは不自然さがありました。電車や銀行のATMで使用されている合成音声ですと、かなり自然な読み上げです。なので、価格が安い分だけ、自分で読み上げの読みやイントネーションの辞書を作り上げていく必要があるようです。

作品を作り進めていくうちに、辞書の中身が豊富になり、自然な形に近くなっていくことと想定して、取り組んでいます。合成音声の辞書にイントネーションや読み方を登録する方法は、後日、またご報告できればと思います。

マルチメディアDAISYを再生するには?

電子図書(マルチメディアDAISY)を再生するソフトは、リハビリテーション協会の以下のURLからダウンロードできます。

※この図書を再生するには、リハビリテーション協会の以下のサイトから、AMIS(無料)をダウンロードしてご利用ください。http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/software/amis3_1_install.html

※AMISインストールガイドの動画です。

おわりに

音声読み上げを改良しながら、随時、著作権が切れた日本文学の名作100冊をマルチメディアDAISY化します。使用テキストは「青空文庫」のものです。作る上での工夫や大変さなども、ブログに書いていきたいと思います。

100冊全部を電子図書化(マルチメディアDAISY化)するには時間がかかるとは思います。日本文学の良さを多様な方々に楽しんでいただけたらよいなあ、と思います。

  • 世の中には紙の本を読むのが困難な方がいること、
  • テクノロジー・ITを活用することによって、ハンディがあるかたにも、物理的な情報格差が乗り越えられる可能性があること

を、この記事で示唆できればと考えています。

ユニバーサルデザイン、チャレンジド、ITという視点で今後も随時、記事を更新する予定です。今後とも、よろしくお願いいたします。


編集履歴:2013.2 この記事はITmediaオルタナティブ・ブログに応募した際の2作品の1つです。2012.4.30に題名をWordで作ることができるユニバーサルな図書をご存知ですか? から改めました。2013.3.30 17:36 誤字脱字の修正、見出しの追加、アプリ情報を追加しました。ピクト図解アプリについて一部文章を追加しました。2013.3.31 23:58 題名に(Save As DAISY)を追加しました。2013.0422 20:06 前半部分はiPad初代発売と電子書籍アプリの話題だったため、個人運営しているiPhone&iPadアプリナビに移動しました。2013.5.8 22:13 アプリ情報やマルチメディアDAISYに関する動画を追加しました。2015.1.2123:52 句読点を追加。「カラオケみたいに話す本」「もともとは」「まだ」「が」「が、」「かもしれない」を削除。「いるため、」→「います。」、「ではあります」→「です」、「という規格」→「←電子書籍の規格名)」、「>ないため」→「できません」、「が、」→「ですが、」に変更。「また、教科書のマルチメディアDAISY化は行っていましたが、著作権の問題で」を追加。201.1.22 0:10 「実際に」の後に「XMLファイルの作成、合成音声の当てはめが、自動で」を追加。「できるので、」→「できます」、「おります」→「います」、「したところ」→「しました。」、「考えて、」→「感じていました。」に変更。助詞・接続詞の修正と削除。見出し「はじめに」「実際に制作してみて」「マルチメディアDAISYを再生するには?」「おわりに」を追加。2023.9.26 20:50 今回紹介したアプリを削除し、青空文庫のURLを追加。

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