言語モデルに過ぎないLLMになぜ「知性」や「心」を感じてしまうのか

成迫剛志さんのブログ「ChatGPTは、なぜ驚異的な能力を持つに至ったのか？」で紹介されていた茂木健一郎氏の動画を私も興味深く視聴した。

ChatGPTのようなLLMはなぜ驚異的な能力を持つに至ったのか。そしてシンギュラリティに向けて人工知能はコントロール可能なのか？（茂木健一郎の脳の教養塾）

私が特に興味を持ったのは、LLM （Large Language Model / 大規模言語モデル）が、「Super Intelligence.：超知能」の可能性を秘めている主旨のくだりだ。

LLMは、次に出てくる言葉を、その出現頻度の確率に基づいて、繋げているに過ぎない。昨日のブログにも書いたが、意味を理解しているわけではない。モデルは言葉の出現確率に基づくベクトル値に過ぎない。それにもかかわらず、私たちはそこに「知性」や「心」を感じるのはなぜかと言うことだ。

これは、我々の「知性」や「心」といわれるものの多くが、「言葉」によって表現され、「言葉」によって処理されていることを意味する。確かに、「知性」や「心」は、言葉だけでは作られないことは、直感的に理解できる。例えば、体験を通じた感覚や運動からのフィードバック、内分泌系の変化など、身体を通した情報、また、個人という限定された個体の時系列的な変化の記憶、社会的関係性なども、大きく関わっていることは、容易に想像できる。

それにもかかわらず、ネット空間の「言葉」を使ったLLMが、「知性」や「心」を感じさせるのは、それらのかなりの部分が「言葉」に依存しており、私たちが、外部からこれらを感じ取るのも「言葉」に大きく依存しているからに他ならない。

これを「知性」だとか、「心」だとかと同一視することに、抵抗があるのは、私ならずとも多くの人たちが感じることであろうが、結局のところ、人間の脳内で知的処理プロセスも、同様の仕組みに支えられているのではないかとも言える。

考えて見れば、当然のことで、LLMの土台となっているアルゴリズムであるTransformerは、それ自身、脳内での神経回路の数理モデルである「深層学習」なのだから、このようなことになるのは、ある意味、必然なのかも知れない。

さらに考えて見ると、そんなLLMの「知性」や「心」を生みだす元となっている「言葉」は、人間の記憶量を遥かに超えているし、絶対に忘れることはない。そう考えると、本動画にも指摘されていた「超知能」たとか「シンギュラリティ」というのは、あながち、突拍子もない話しではないのかも知れない。まさにこの点が、「AI脅威論」の土台となっているのだろう。

さて、現実的な問題として、LLMをどのように使いこなしていくかを考えると、必然的に「言葉」を操る能力が重要であることに行き着く。具体的には、次のようなことだ。

読解力：文章を読んで理解する能力で、豊富な語彙を持ち、文章の要点を掴み、構造をとらえる力。

対話力：会話を通じて合意を形成する能力で、「話す」、「聞く」の両方の力を駆使することで、他社の考えを理解し、自分や相手の行動を変容させていく力。

言語化力：言語を用いて思考し、思考した内容を正確に伝達する能力で、考えていることを言葉にできる力。

これは、LLMを使いこなす能力というよりも、人間としての社会性を維持する能力であり、ビジネス・リテラシーでもある。結局のところ、人間とか社会というのは、「言葉」に支配されているということで、「言葉」を操る能力の高さが、社会的な地位や役割、ビジネスにおける能力を決めているわけだ。

こう考えてみると、生成AIは恐れるに足りずと言うことであろう。これまでも当たり前に言われてきたこと、つまり上記のようなビジネス・リテラシーをしっかりと磨いてゆけばいいという、安易な結論に落ち着いてしまう。

AIに限らずテクノロジーの進化は、人間にしかできなかったことを置き換える歴史でもある。そうやって、人間にできる範囲は狭められ、それらに使っていた意識や時間を解放して、新たな可能性を見つけ出し、様々な制約や限界を突破してきた歴史でもある。そして、人間にしかできないこと、つまり人間の本質みたいな哲学的な問いを発し続けてきた。

昨今のLLMや生成AIの大騒ぎもまた、そんな歴史の一コマとなるのかも知れない。その意味で、改めて「人間の知性とは何か」を考えるいい機会が、提供されたとも言えるだろう。

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2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義　著
A5判／384ページ
定価2,200円（本体2,000円＋税10%）
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

• 第1章　コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
• 第2章　最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
• 第3章　ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
• 第4章　DXを支えるITインフラストラクチャー
• 第5章　コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
• 第6章　デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
• 第7章　あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
• 第8章　複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
• 第9章　圧倒的なスピードが求められる開発と運用
• 第10章　いま注目しておきたいテクノロジー

神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO

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