デジタル化とDX 1/5 DXとは何か
AIを使った新規事業を立ち上げれば、それはDXになるのでしょうか。リモートワークを実践し、そのためにワークフローを電子化して捺印や紙の書類を廃止すれば、それはDXといえるのでしょうか。業務システムをオンプレミスからクラウドへ移行すれば、それはDXなのでしょうか。
デジタル技術を使い業務を効率化したり、新しいビジネス・モデルを生みだしたりすることは、企業の存続と成長にとって、必要なことです。しかし、このような取り組みは、「DX」という言葉が使われる以前から行われてきました。それらを私たちは、「デジタル化」あるいは「IT化」と呼んでいました。
もちろん言葉の解釈など恣意的なものです。「デジタル化」や「IT化」を「DX」と読み替えることが、ダメだとか、間違っていると言うつもりはありません。しかし、DXについての歴史的な経緯をたどってみると、ただの置き換えのバスワードではないことが分かります。ならば、DXとは何者なのでしょうか。全5回にわたり、「デジタル化」との違いを示しながら、考えてゆきます。
連載の目次
- DXとは何か
- 私たちが「いま使っている」DXの定義
- デジタル化とは何か
- デジタル化の目的と2つの意味
- デジタル化とDXの違い
DXとは何か
まずは、DXとは何かについて、歴史的系譜を抑えながら整理します。また、DXという言葉をはじめて使った2004年のストルターマンの解釈と、いま私たちが使っている解釈が、異なっていることについても解説します。
ストルターマンが提唱したDXの定義
「デジタル技術(IT)の浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」
DXとは、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授らが提唱した概念です。
この定義が書かれた論文では、DXを「デジタルは大衆の生活を変える」といった概念的な説明に留まっています。また、ビジネスとITについても言及し、企業がITを使って、「事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」、次に「技術と現実が徐々に融合して結びついていく変化が起こる」、そして「人々の生活をよりよい方向に変化させる」という段階があるとも述べています。いわば、「社会現象としてのDX」との捉え方です。
デジタル・ビジネス・トランスフォーメーションの登場
「デジタル・テクノロジーの進展により産業構造や競争原理が変化し、これに対処できなければ、事業継続や企業存続が難しくなる」
2010年以降、ガートナーやIDC、IMD教授であるマイケル・ウエィドらの解釈です。ストルターマンらの解釈とは違い、より経営や事業に踏み込んで解釈したものと言えるでしょう。
彼らの解釈は、デジタル・テクノロジーに主体的かつ積極的に取り組むことの必要性を訴えるもので、これに対処できない事業の継続は難しいとの警鈴を含んでいます。つまり、デジタル技術の進展を前提に、競争環境 、ビジネス・モデル、組織や体制の再定義を行い、企業の文化や体質を変革する必要があると促しているわけです。いわば、「ビジネス変革としてのDX」との捉え方です。
ガートナーは、これを「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」と呼ぶことを提唱しています。
この「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」については、マイケル・ウェイドらが、その著書『DX実行戦略/デジタルで稼ぐ組織を作る(日経新聞出版社)/2019年8月』で、次のような解釈を述べています。
「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善すること」
2018年に経済産業省が発表した「DXガイド」もこの「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」の解釈を踏襲し、次の定義を掲載している。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
この定義は、IDCの定義であり、ストルターマンらの解釈ではなく、ガートナーやマイケル・ウエイドらの提唱する「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」の解釈に沿うものです。そして、これを「DX/デジタル・トランスフォーメーション」と呼んでいるわけで、この点は注意しなくてはなりません。
つまり、私たちが、普段ビジネスの現場で使っている「DX」とは、「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」のことであり、これを前提に、私たちは、DXについて、解釈する必要があることになります。
次回は「私たちが「いま使っている」DXの定義」
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ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー
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ITソリューション塾について
・教材を最新版(第38期)に改訂しました
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DXとビジネス戦略
【改訂】デジタル化がもたらすレイヤ構造化と抽象化 p.14
【改訂】デジタル化とDXの違い 改訂版 p.27
【改訂】DXの定義 1/3 p.39
【新規】DXの定義 2/3 p.40
【改訂】DXの定義 3/3 p.50
【改訂】DXのメカニズム p.45
【新規】「デジタル前提」とは何か p.46
【改訂】DXの公式 p.47
【新規】なぜ「内製」なのか 1/3 p.178
【新規】なぜ「内製」なのか 2/3 p.179
【新規】なぜ「内製」なのか 3/3 p.180
【新規】ITベンダーがDXを実践するとはどういうことかp.174
ITインフラとプラットフォーム
【新規】サーバー仮想化とコンテナ 1/2 p.76
【新規】サーバー仮想化とコンテナ 2/2 p.77
【新規】コンテナで期待される効果 p.78
【改訂】コンテナとハイブリッド・クラウド/マルチ・クラウド p.81
開発と運用
【新規】アジャイル開発が目指すこと p.37
【新規】SI事業者がアジャイル開発で失敗する3つの理由 p.74
IoT
【新規】Connected p.139
ビジネス戦略・その他
【新規】個人情報とプライバシーの違い p.146
【新規】「個人を特定できる情報」の範囲の拡大 p.147
【新規】Privacy保護の強化がビジネスに与える影響 p.148
【新規】影響を受けるデバイスやサービス p.149
【新規】スマホAIの必要性 p.150
AIとデータ
【新規】データサイエンティストに求められるマインドセット p.146
改訂【ITソリューション塾】最新教材ライブラリ 第38期
・ITソリューション塾の教材を最新版に改訂しました
- DXと共創
- ソフトウエア化されるインフラとクラウド
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- AI
下記コンテンツを新規に追加しました
- RPAとローコード開発
- 量子コンピュータ
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下記につきましては、変更はありません。
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