残念な「営業研修」のご相談
「これまで、プロダクト販売しかやってこなかった。いや、プロダクト販売といっても、大手メーカーの営業が売った製品を調達し実際に作業してくれる外部の業者さんを手配することで、実際に自分たちで売り込んでいるわけでもなく、導入しているわけでもありません。他にビジネスがあって、そっちが、それなりに良かったので、こういう仕事で手堅く売上が上がれば、それで良かったわけです。」
「ただ、ここに来て、屋台骨のビジネスが怪しくなりましてね。そこで、プロダクト販売を増やしたいのですが、そちらも厳しい状況で、システム全体やSIなどにも事業を広げたいと思っています。そこで、他の部門の営業を、システムを売れる営業に育てたいのですが、協力してもらえないでしょうか。」
こんなご相談を頂き、私は、つぎのような質問をしました。
「営業だけで、売れるわけではありません。技術者もそろえなければならないでしょう。それに、新規に事業を立ち上げるようなものですから、顧客をどうするか、競争優位をどう描くか、それをどうやって売るかなど、事業そのものの設計がなければ、営業も売れませんよ。そのあたりは、どうお考えですか。」
「それなら、大丈夫です。いろいろと検討も進めていますから。それよりも、問題は、営業です。かれらをなんとか再教育しなきゃいけない。せめて、システムを売る営業として、売り方の手順を教えたいと考えています。」
「もちろん、すぐにシステムが売れるようになるとは思っていません。売れないヤツは売れない、ダメなヤツは結局ダメです。才能というか適性というか、教育してもダメなヤツはダメです。ただ、システム営業として社内で言葉が通じるようにしたいだけなのです。」
少々、重たい気持ちになってしまいました。
- 事業戦略と人材の育成が切り離されていること。
- 営業力をヒトの能力としか捉えていないこと。
- 営業の才能は生まれ持ったものであり、教育によって変えられないと考えていること。
残念ながら、私の信条とは、対極にありました。当然、このお話は辞退させて頂きました。
営業力は、確かに個人の能力に頼るところが大きいわけですが、その個人の潜在力を最大限に引き出するためには、自分のやっていることについて意義を感じさせ、自発的に取り組もうという意欲を持たせることが必要です。
成功のシナリオを示し、目的や意義を示し、「よぉーし、やってやろうじゃないか」という意気込みを引きだすことです。そのためには、ビジネスとしての戦略的合理性であり、トップやリーダーの強い意志を示すことが必要です。 そのような想いを引き出しつつ、適切な知識を与えることができれば、個人としても、組織としても、営業力を高めることができるのだと思います。
研修を通じて、一時的に気持ちを鼓舞することはできます。しかし、そのことが業績の向上や事業の成功に結びつくかどうかは、成功のシナリオが前提にあり、そのプロセスとして組み込まれているかどうかにかかっています。
業績の低迷や事業の不振を、営業の不出来であると断罪する経営者や管理者を時々見掛けます。しかし、裏を返せば、それは自分自身の無策の結果であり、自分の責任を部下に押しつけているようなものではないでしょうか。
生まれながらの才能や適性を否定するものではありません。しかし、それだけに期待して、ビジネスは成り立ちません。むしろ、様々な才能や適性を束ねて、最大限の能力を引き出すことにこそ、営業力強化の本質があります。
束ねる力は、「正しい目的とやることの意義」、「戦略的合理性と成功のシナリオ」、「リーダーの成功への確信と強い意志」です。
- 事業戦略と人材の育成は一体であること。
- 営業力を組織の能力と捉えること。
- 営業の才能は意欲を引き出し、潜在能力引き出すことで、大きく伸ばすことができること。
人それぞれの才能や適性などの個性を受け入れ、可能性を信じ、自発的な行動を促す。この前提があってこそ、人材育成は成り立ちます。この前提が築けない研修に成果など期待することは難しいでしょう。