DXという言葉の氾濫に向きあう姿を見ると、その企業の真価が見えてくる
人は直感を頼りに意志決定を下す傾向にある。その直感とは、過去の成功体験に裏打ちされたものであり、また自分にとって都合のいいようにものごとを評価する「確証バイアス」にも影響を受ける。特に過去に大きな成功を収めてきた個人や組織にとって、この傾向がより強く現れることは想像に難くない。
ITビジネスの難しさは、ビジネスの根幹たるテクノロジーの進化の加速度が、社会や経済の進化よりも遥かに速いという現実だろう。かつての成功の方程式が、あっと間に陳腐化することを受け入れたくないと、無意識に未来に目をつむっている人たちもいるのではなかろうか。
Googleの研究者であり、未来学者のカーツワイルは、テクノロジーの進化も同様に指数関数的に進化するので、やがては人工知能の能力が人間の能力を遥かに凌ぐまでに高まり、予測できない事態が起こると指摘した。彼は、この時を特異点(シンギュラリティ)と呼び、2045年に訪れると述べている。シンギュラリティが訪れるかどうかは、いろいろと議論のあるところだが、テクノロジーが指数関数的に発展することに疑う余地はない。
例えば、ディープラーニングは、2006年にカナダのトロント大学のジェフリー・ヒントン(Geoffrey Hinton)教授が論文で、その可能性を示したことが始まりだ。そして、6年後の画像認識の国際的なコンペティションで、彼が率いるチームが圧倒的な強さで、これまでの画像認識の精度を飛躍的に超える成績を上げて圧勝した。さらに4年後の2016年、このアルゴリズムを応用したGoogleのAlpha Goが、囲碁の世界チャンピオンを下すことになる。そして、いまディープラーニングやその関連技術は、さらに加速度を高めて適用範囲を拡げている。
こんなテクノロジーの発展を当事者としてではなく、傍観者として眺めているたけでは、ビジネスのチャンスが得られるはずはない。
「まだ、ユーザーにニーズはありませんよ。これからですね。そんな相談をされることはありませんから。」
彼らに相談してもムダだと分かっているから相談されないだけであることをなぜ気づけないのか。これもまた、確証のバイアスと言えるのかもしれない。
あるSI事業者の経営者が、次のようなことを話されていた。
「パブリック・クラウドが注目されても、システム開発は残りますよね。運用だって必要です。なによりも、セキュリティに懸念があるパブリック・クラウドには消極的なお客様も多いのが現実ですから、簡単に仕事が無くなることはありませんよ。」
この方は、クラウドはインターネットで接続しなければならないと思われていたようだ。さらにコンテナやマイクロサービス、サーバーレス/FaaSについても聞いたこともないという。
このような企業に限って、「DX/デジタル・トランスフォーメーション」などの流行の言葉を大仰に使う傾向にあるように思う。その理由には、「私たちも時代の最先端にいますよ」という、見栄であろう。DXとIT化/デジタル化との区別もつかないままに、看板だけを掲げているのだろう。
少なくとも、私が知っているDXを実践している企業は、そんなことは当たり前とばかりに、地に着いた言葉で自分たちのやっていることを淡々と語っている。むしろ、DXという言葉をあえて使わないようにしているくらいだ。
変化し続ける未来を受け入れ、自分たちのビジネスの課題に向き合い、最適な道筋を見つけようとしているだろうか。あるいは、テクノロジーの進化をむしろ脅威と感じ、その可能性について積極的に学ぼうとせず、思考停止に陥っていないだろうか。
昨今のDXという言葉の氾濫に向きあう姿を見ると、その企業の真価が見えるように思う。
【まもなく締め切り・特別補講の講師決定】次期・ITソリューション塾・第38期(10月6日〜)
次期・ITソリューション塾・第38期(10月6日 開講)を募集しています。
特別補講の講師決定:
成迫 剛志氏/株式会社デンソー デジタルイノベーション室 室長
「なぜデンソーは、ソフトウエア・ファーストに取り組むのか」
デジタル技術の発展は、企業の競争原理を大きく変えつつある。自動車業界は、その最前線だ。まさにその最前線で、変革の先頭に立つ成迫さんに、彼らの戦略や苦労の数々を伺う。ITベンダー/SI事業者の皆さんにとっては、お客様の戦略の核心を知ることになるはずだ。そして、DXとは何かの本質についても、現場目線で改めて知ることになるだろう。
特別講師の皆さん:
実務・実践のノウハウを活き活きとお伝えするために、現場の最前線で活躍する方に、講師をお願いしています。
戸田孝一郎氏/お客様のDXの実践の支援やSI事業者のDX実践のプロフェッショナルを育成する戦略スタッフサービスの代表
吉田雄哉氏/日本マイクロソフトで、お客様のDXの実践を支援するテクノロジーセンター長
河野省二氏/日本マイクロソフトで、セキュリティの次世代化をリードするCSO(チーフ・セキュリティ・オフィサー)
最終日の特別補講の講師についても、これからのITあるいはDXの実践者に、お話し頂く予定です。
- 日程 :初回2021年10月6日(水)~最終回12月15日(水) 毎週18:30~20:30
- 回数 :全10回+特別補講
- 定員 :120名
- 会場 :オンライン(ライブと録画)
- 料金 :¥90,000- (税込み¥99,000) 全期間の参加費と資料・教材を含む
詳細なスケジュールは、こちらに掲載しております。
ITソリューション塾は、ITのトレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、そんなITに関わるカルチャーが、いまどのように変わろうとしているのか、そして、ビジネスとの関係が、どう変わるのか、それにどう向きあえばいいのかを、考えるきっかけになるはずです。
また、何よりも大切だと考えているのでは、「本質」です。なぜ、このような変化が起きているのか、なぜ、このような取り組みが必要かの理由についても深く掘り下げます。それが理解できれば、実践は、自律的に進むでしょう。
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