DXとデジタル化の区別が曖昧ならば考えてみた方がいい
「グーグルの経済学者ハル・バリアンの計算によると、ここ数十年と言うもの世界全体の情報は、毎年66パーセントの割合で増えている。この爆発的な数字を最も一般的な素材、たとえばコンクリートや紙のここ数十年の増加率である 毎年平均7パーセントという数字と比べてみればいい。この星のどんな他の製品と比べても10倍速い成長率は、どんな生物的な成長よりも大きなものだ。(『テクニウム』p.384)」
テクノロジーは生物界と同様に、自らが自律的に進化すると説く本書は、テクノロジーの業界に身を置く私にとっても実感として受け止めている。そんな時代だからこそ、この膨大な情報にどのような脈絡があるのかを、私たちは自ら探し求めてゆかなければならない。それが、今の時代に生きる私たちの業(ごう)なのかもしれない。
私は、ITと言う言葉がなくコンピューターが全てだったころからこの業界に身を置き、今年で39年が経った。その間のテクノロジーの変遷は、日常の一部だった。
26年前、IBMを卒業したころこの業界は、ダウンサイジングとクライアントサーバーという大きなパラダイムシフトに直面していた。また、Windows95の登場の年でもあり、インターネットという言葉が、とても新鮮な響きを放っていた。「○×株式会社がホームページを作りました。」という記事が、日経新聞に掲載される時代でもあった。
私がIBMで営業として働いていた頃は、IBMのメインフレームがITを牽引し、その周辺に新しいテクノロジーが登場するといった時代だったので、それを追いかけてさえいれば、テクノロジーの大枠を抑えることができた。
しかし、時代は大きく変わった。DX、IoT、AIなど、新しい言葉が次々と登場し、それらが複雑に影響を及ぼし、折り重なりながらテクノロジーのトレンドを作り上げている。かつてのような「メインフレームからミニコンやオフコン、PCへのダウンサイジング」、あるいは、「集中処理から分散処理やクライアントサーバーへの処理形態の変化」といった、単純さはない。この多様さと複雑さこそが、いまのテクノロジーのトレンドの本質であり、ITビジネスの未来を考えることを難しくしている。
だからといって、この現実に向き合うことを諦めてしまっては、この業界で役割を果たすことはできない。そんな想いから始めたのが、ITソリューション塾だった。
2008年から、IT企業やユーザー企業の情報システム部門の皆さんを対象に行っているこの研修は、毎週水曜日の夜、3ヶ月で1期という単位で開催している。最近は、情報システム部門以外の事業部門や企画部門からの参加が増えている。
「ITに関わる仕事をしているにもかかわらずITを体系的に理解できていない」
「自社製品のことは分かっているがITの世の中の動きについては分からない」
「自社の扱う製品の機能や性能なら説明はできるが、お客様の価値は語れない」
当時、このような人が多いという現実に直面し、危機感を抱いたこともひとつの理由だった。これでは、IT活用の健全な発展は望めない。ただ、この背景には、テクノロジーが、多様で複雑になったこともひとつの理由だろう。
もちろん、テクノロジーやそのトレンドを学ぶ方法はいくらでもある。しかし、それには覚悟と自助努力が必要だ。そのきっかけを提供し、テクノロジーを学ぶインデックスとリンクを提供しようと始めたのが、このITソリューション塾だった。
新しいキーワードを追いかけ、辞書のように解説するのでは、そこにどのようなテクノロジーの構造や脈絡があるのかは分からない。それが生まれた歴史的背景やビジネス価値を、理解しなくてはならない。それらを俯瞰的に、そして体系的に、そしてビジュアルに伝え、トレンドの構造を理解することが大切だ。そんなことをモットーにやってきたのがこの塾だ。
ただ、座学で学んだだけでは、知識は定着ししない。自らの言葉で誰か他人に説明して、知識は始めて自分のものになる。そこで、講義に使った図表を全てパワーポイントのソフトコピーで受講者に提供している。受講者がこの図表を、お客様への提案や研修、社内での勉強会などで使ってもらいたいからだ。
そんなことを13年もやってきました。現在、ITソリューション塾は、第38期を迎え、卒業生は、3000人を越えている。最近の傾向として、自費での参加者が増えたこと、そして、ITに直接関わる仕事ではない人が増えていることだろう。
あらためて、そういう時代なのだと思う。会社が与えてくれるものだけに頼っていては生き残れない。なぜなら、会社自体が時代の変化に翻弄されているからだ。
このような時代にどうやって生き残るかの答えは、その答えを探し求め、試行錯誤を繰り返し、自らが時代に適応するために変化し続けるしかない。
特に、ITにおける変化は、冒頭でも述べたようにとても多様で複雑だ。ビジネスの常識もどんどん変わる。その変化の脈絡と構造を理解しようとの取りくみに感心をもてないとすれば、生き残ることはできない。
わたしは、そういうことを若い世代にしっかりと教えなければいけないと思っている。かれらが、未来を作り、将来の会社を支えてゆく。しかし、現実には、それを怠っている企業は少なくない。
例えば、新入社員研修で、「情報処理の基礎」は教えても、「最新のトレンド」は教えない。確かに基礎は大切だが、クラウドやAIの記述さえまともになく、仮にあったとしても、一昔、あるいは、二昔前の出来事がさらりと語られているに過ぎない。ITの一昔とは1年前、二昔とは3年前といったところだろう。スピードこそが、この業界の特性でもあるとすれば、いまを伝えることは、新人研修にはなくてはならないことだ。そして、未来を伝え、彼らの仕事の可能性にわくわくさせられなければ、自ら学ぼうという意欲を引き出すことはできない。IT企業の新入社員研修にとって、この点を譲ってはいけないと信じている。
DXについても、これほど世の中が大騒ぎしているのに、それを正しく教えていない。DXとデジタル化の区別さえ曖昧だ。
ITは私たちに変化を促している。いや、「変化しないと生き残れないぞ!」とテクノロジーの進化は、私たちを脅しているのかもしれない。私は、その片棒を担いでゆきたいと思っている。それが、自分に与えられた役割であると思うからだ。そして、そのそれが、私自信が生き残るための「答え」だと思もう。
もう50年以上も前の話だ。私が小学校入学の時、入学式で上級生の鼓笛隊が演奏していたのが「鉄腕アトム」のテーマ曲だった。今でもはっきりと覚えています。そんな時代だったこともあり、子どもの頃から、ロケットやロボットを絵に描くことが大好きだった。そして、その中身を透視図にして描くことが日課のようになっていた時期もある。もしかしたら、そんな時代の経験が、いま自分の根っ子にあるのかもしれない。
いまもまだITのトレンドを透視図として描くことが大好きな自分は、子どもの頃から進歩していないのかもしれない(笑)。
【募集開始・特別補講の講師決定】次期・ITソリューション塾・第38期(10月6日〜)
次期・ITソリューション塾・第38期(10月6日 開講)の募集を始めました。
ITソリューション塾は、ITのトレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、そんなITに関わるカルチャーが、いまどのように変わろうとしているのか、そして、ビジネスとの関係が、どう変わるのか、それにどう向きあえばいいのかを、考えるきっかけになるはずです。
また、何よりも大切だと考えているのでは、「本質」です。なぜ、このような変化が起きているのか、なぜ、このような取り組みが必要かの理由についても深く掘り下げます。それが理解できれば、実践は、自律的に進むでしょう。
- IT企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
そんな皆さんには、きっとお役に立つはずです。
特別補講の講師決定:
成迫 剛志氏/株式会社デンソー デジタルイノベーション室 室長
「なぜデンソーは、ソフトウエア・ファーストに取り組むのか」
デジタル技術の発展は、企業の競争原理を大きく変えつつある。自動車業界は、その最前線だ。まさにその最前線で、変革の先頭に立つ成迫さんに、彼らの戦略や苦労の数々を伺う。ITベンダー/SI事業者の皆さんにとっては、お客様の戦略の核心を知ることになるはずだ。そして、DXとは何かの本質についても、現場目線で改めて知ることになるだろう。
特別講師の皆さん:
実務・実践のノウハウを活き活きとお伝えするために、現場の最前線で活躍する方に、講師をお願いしています。
戸田孝一郎氏/お客様のDXの実践の支援やSI事業者のDX実践のプロフェッショナルを育成する戦略スタッフサービスの代表
吉田雄哉氏/日本マイクロソフトで、お客様のDXの実践を支援するテクノロジーセンター長
河野省二氏/日本マイクロソフトで、セキュリティの次世代化をリードするCSO(チーフ・セキュリティ・オフィサー)
最終日の特別補講の講師についても、これからのITあるいはDXの実践者に、お話し頂く予定です。
- 日程 :初回2021年10月6日(水)~最終回12月15日(水) 毎週18:30~20:30
- 回数 :全10回+特別補講
- 定員 :120名
- 会場 :オンライン(ライブと録画)
- 料金 :¥90,000- (税込み¥99,000) 全期間の参加費と資料・教材を含む
詳細なスケジュールは、こちらに掲載しております。