お客様はこんなにも変わっているのに 2/2
前回のブログ、IT需要の重心が、情シスから事業部へとシフトしつつあることをしてきした。この需要構造の変化にどう向きあうべきかを、今回は考える。
私は、IT事業者は、次のような3つのシフトを進めるべきだと思っている。
- 顧客チャネルを、情報システム部門から、事業部門や経営者へ
- 自社の強みを、組織力から、個人力へ
- 技術力を、作る技術から、作らない技術へ
それぞれについて、詳しく解説する。
顧客チャネルを、情報システム部門から、事業部門や経営者へ
ITに関わる意志決定は、事業部門や経営者へと重心を移しはじめている。ならば、案件獲得に当たっては、事業部門や経営者に、事業の成果への貢献について語らなくてはならない。どのような技術を使い、どれたけの工数が必要で、それにどの程度の期間が必要かではない。どのような戦略で、どのようなロジックで、自分たちは、お客様の事業にこれだけの貢献ができると伝える必要がある。そこに魅力を感じてもらうことができなければ、案件の獲得は難しい。
どうすれば、そういう人たちにアポイントが取れるのか、具体的にどんな話をすればいいかを教えて欲しいという人もいるだろう。ただ、残念ながら、そんな都合のいい一般解はない。
自分の担当するお客様である。いま付き合いのある人たちにまずは相談し、上記の意志を伝え、まずはアポイントメントを獲ればいい。約束を取り付けた以上は、話す中身を必死で考えて欲しい。自分で知恵を絞る。そのように自分を追い込むことが大切だろう。
失敗はする。それでいい。その経験なくして、スキルは身につかない。そんな心構えで臨むことが、ここでお伝えできる実践のノウハウだ。
自社の強みを、組織力から、個人力へ
お客様の内製チームは、事業部門に所属する社員が主体だ。そんなチームの一員として、自分たちのスキルの不足を補完してくれる、あるいは、自分たちのスキル向上のための圧倒的な技術力を提供してくれる人材を迎え入れたいと考えるだろう。また、チームの一員としての人間性も求められる。同じビジョンを共有し、同じゴールに向かって、信頼し合える仲間として、参加してもらわなくてはならない。そうなれば、企業のブランドではなく、個人の名前で選ぶことになる。
企業ブランドの価値は、保険である。何かを任せたとき、確実に仕事を成し遂げてくれる保証を企業ブランドに期待するわけだ。大手SI事業者の存在意義は、そこにあったと言えるだろう。しかし、内製は、お客様自身が成果に責任を負う。大企業であることの保険は価値がなく、自分たちの事業の成果に資する個人のスキルやノウハウこそが価値となる。
人月80万円の基本レベルのスキルを持つエンジニアを100人集めるより、人月300万円の圧倒的なスキルを持つエンジニアが10人いたほうがいいと考えるわけだ。それが、事業の成果とスピードに直結するわけで、まさに個人力が価値となる。
従来のSI事業は、工数を増やし売上と利益を生みだすことをめざした。しかし、内製化への対処は、できるだけ少ない工数で、高い利益を得ることへと変わる。これは、SI事業者にとっては、根本的なビジネス・モデルの転換を迫られる話しだ。
そんな個人力を磨くには、とにかく面白そうだ、これは知っておきたいということを実際に自分で使い試してみることだ。頭で考え、想像して結論を出すのではなく、手を動かして体験し、試行錯誤しながら、感覚を磨くことだろう。そういう習慣が、お客様に求められる技術力を磨く原動力になる。
技術力を、作る技術から、作らない技術へ
ITの需要は、なくなるどころか、ますます増えてゆくだろうし、その加速度も増してゆくはずだ。その需要に応えるには、できるだけ作らずに、いち早くITサービスを提供することしかない。
これまでSI事業者は、作る技術を磨き、そのスキルを持つ人材を増やすための育成に努めてきた。また、実績のある枯れた技術を使うことで、確実にシステムを作ることに取り組んできた。この考え方を大きく転換しなければならない。
最新の技術やサービスを目利きし、高速に試行錯誤を繰り返し、できるだけ作らずに成果をあげようというわけだ。SaaSやPaaS、サーバーレスやコンテナ、アジャイル開発やDevOps、ノーコードやローコードは、そのための手段である。つまり、「作らない技術」が、注目されている。
「作る技術」で工数を増やすことを事業目的としたままで、「作らない技術」の使い方を模索するというのは、そもそも無理がある。「作らない技術」を前提に事業目的を再定義し、ビジネス・モデルを作り直す覚悟なくして、需要の変化に対処することはできないだろう。
内製化にしろ、クラウドやアジャイル開発にしろ、それらは手段に過ぎない。手段に対処するための方法を考える前に、まずは、お客様の需要構造の転換という本質的な変化に目を向けるべきだ。
自動車の運転免許を苦労して取得しても、どこへ行くかが分からなければ、運転できることの価値はない。また、将来、自動運転が普及すれば、運転できることは、何の役にも立たなくなるだろう。それよりも、「移動」のあり方は、これからどうなるのかを考え、これにどう対処するかを考えることが、肝要であろう。
需要の変化の本質を見極め、それにどう対処するかを考えてはどうだろう。これまでのやり方で、収益を上げられるうちに、覚悟を決めて取り組むべきだ。そのためには、表面的な現象に対処するのではなく、その現象を生みだしている本質的な変化に対処することを考えなくてはならない。もはや、IT需要の構造変化に対処することを先延ばしにする理由はない。
【締め切りました】次期・ITソリューション塾・第38期(10月6日〜)
次期・ITソリューション塾・第38期(10月6日 開講)を締め切りました。沢山のお申し込みを感謝申し上げます。次回は、来年2月からの開催を予定しています。
引き続き宜しくお願い致します。