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「3年後に10億円」には注意せよ

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「3年後に10億円の新規事業を立ち上げて欲しい」

もし経営トップがこんなことを言ったとしたら、本気かどうかを疑ってみるべきだ。

新規事業開発は、大変だ。自分たちの経験やスキルの乏しい分野へ踏み込まなければならないからだ。これまでの経験で培ったが勘が働かない。そういう仕事に「3年後に10億円」と言われても、できる見通しなど立つわけがない。経営トップの意気込みはわかるが、そんな意気込みだけを伝えられ、「後はおまえたちに任せるからよろしく!」と言われ、さあどうしたものかと頭を抱えるだけの話しだ。

「3年後に10億円」のために経営者はどのようなスポンサーシップを提供してくれるのだろう。予算的、人材的な措置へのコミットメントはあるのか。任された側も与えられたスポンサーシップを前提に成果をコミットする。その覚悟はあるのか。「仕事だから仕方がない」では、うまくゆかない。両者のコミットメントがあって、新規事業開発プロジェクトは、実効性を与えられる。

かつてカルロス・ゴーンが日産の再建を託されたとき、組織の結束を固め、意思伝達の曖昧さを排除するために会社再建に欠かせない約40の言葉の意味を明確に定義し、「用語辞典」として共有したそうだ。そこには「コミットメント」という言葉も含まれていた。

コミットメントとは、「必達目標」と訳される。その意味は、「なんとしても達成すべき目標であり、責任を伴う約束」のこと。達成できない場合は降格や減給、ボーナスの返上など具体的な形で責任を負い、一方で目標を達成した場合は、人事考課や報酬で報われる約束のことだ。コミットメントとは、そんな強い決意や覚悟が必要であり、両者の契約行為でもある。

かつて日産は新車を市場に送り出して、それが目標販売数を達成できなくても、その責任の所在が曖昧で、誰も責任をとろうとしない無責任体質であったといわれている。そんな状況を変え、従業員の意識改革を求めるために、言葉の定義をはっきりさせ、彼らにコミットメントを求めたのだという。

「新規事業」への取り組みもコミットメントなくしてできるものではない。しかし、現実には経営トップの意気込みだけで新規事業プロジェクトが立ち上がり、実行責任者も「本業」の片手間に任されている事も少なくない。そうなれば、自分の業績評価に直結する本業を優先させることは当然のことで、新規事業へのコミットメントなどできるはずはない。両者のコミットメントがないままに、「我が社も新規事業開発に取り組んでいる」など、口に出していうべきではない。

自社の命運を任される大変な仕事であるからこそ、任される人に強い意志がなくてはならない。これは、「やらされ仕事」ではとてもできるものではなく、本人が自らの責任と引き替えにやりたいと望む仕事でなくてはならない。経営トップも任せるならば自らの責任も覚悟し、信頼し任さなければならない。そして、その取り組みに対して、明確なスポンサーシップを約束する。そんな関係なくして、新規事業開発はできない。

「任せて、任さず」

松下幸之助が権限委譲について語った言葉と言われている。

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任せた以上は相手を信じマイクロマネジメントなどせずにやらせてみる。その失敗については自らも責任を負うことを明確に示し、その報告をマメに受け取って意見も述べる。新規事業に取り組むためには、コミットメントと共に、このような権限委譲が必要だ。

新規事業プロジェクトを進めてゆく上でもうひとつ大切なことは、コミットメントの対象となるKPIの設定だ。根拠のない「3年で10億円」ではなく、まずは現実的な目標値の設定だろう。特に新規事業は、それが数字になるかどうかさえ曖昧なところからはじめなくてはならないから、本当によろこんで使ってくれるお客様を獲得することからはじめなくてはならない。理論上あるいは想像上のお客様ではなく生身のお客様を見つけ、そんなお客様を確実に積み上げながら、早い段階で少しでもいいので売上や利益を出すことだ。

機能が不十分であったとしても、特定のお客様であれば、十分に貢献できなくてはならない。そのお客様に使ってみたいと思っていだける「最低限で最高」を実装し、確実に実績を作る。そうやって実績を積み上げながら、機能の充実と完成度の向上を図り、顧客の裾野を拡大してゆくことだ。

そうやって、数字が積み上がりビジネスの加速度と巡航速度がつかめてくれば、「いつまでに10億円を達成する」というKPIもコミットできるものになる。

ところで「新機事業に取り組むことに熱意を持てる人」を"見つける"ことは容易なことではない。そうであれば"創る"しかない。もちろんその素養は必要だ。そしてそんな人たちには、次のような特徴がある。

  • ビジネスやテクノロジーのトレンドについて好奇心を絶やさず、情報収集や勉強を怠らない。
  • 分析的に物事を捉え、自分の理屈を語れる。
  • 人の意見に耳を傾け、それについて自分の意見を示すことができる。
  • 社内外に人的なネットワークを持ち、特にコミュニティや勉強会などで、社外との広い、緩い繋がりを持っている。
  • 自分の職掌範囲を自覚し、その達成に誠実に向きあっている。

会社の取り組みに批判的に向き合い組織の抵抗勢力であることは悪いことではない。しかし、それが評論家やアウトロー的存在であり、単なる批判者であるとすれば、大切な仕事を任せるべきではないだろう。自分の与えられた職務の中で、批判的な精神を持ち、自ら役割として実践し、その成果を背中にしょっての批判者であるとすれば、より大きな仕事を任せたとしても、成果をあげてくれるのではないか。

ただ、そのような人であったとしてもコミットメントと権限委譲がなければ、その力を十分に発揮させることはできない。そのことにこそ、経営トップの覚悟が問われるところだ。

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