デジタル戦略の3つの公理 2/3
昨日に続き、「デジタル戦略の3つの公理」の二つ目について解説する。
公理2:デジタルを受け入れるインフラがなければ社会に受け入れられない。
- 既存の常識や習慣、社会インフラとの整合性がなければ普及しない。
- 既存に満足していれば、新しいことを受け入れる動機は生まれない。
- 優れたテクノロジーでも、代替価値が大きくなければ、受け入れられない。
ここに1枚のチャートがある。1900年と1913年のニューヨーク5番街の風景だ。1900年の写真を見るとニューヨーク5番街は、馬車で埋め尽くされている。一方、1913年の写真には、馬車は一台もなく、その全てが自動車に置き換わっている。流れ作業で安価に量産できるようになったT型フォードが発売されたのは、1908年であることを考えると、テクノロジーの進化が、世の中の常識をあっという間に変えてしまうことが、この写真で分かるというわけだ。しかし、本当にそうだろうか。
確かに、自動車は、新しい技術を使い馬車をしのぐ利便性とコスト・パフォーマンスを実現できたからこそ普及したわけだが、それだけで普及したわけではない。もうひとつの要件が重なったからこそ、これほどの短期間で普及したといえる。それは、既に馬車のための整備されていた道路が、そのまま自動車の通行に使えたことだ。
実際のところ、当時のアメリカは悪路が多く、T型フォード以前の自動車は、悪路走行に適した見た目もいま一つのバギーのようなものが人気だった。しかし、より洗練された自動車を求める声に応じて、この写真にあるような車が作られるようになり、そこに新しい素材技術や量産技術が使われて、安価で高性能、そして見た目の洗練されたT型フォードが登場し、自動車の普及が進んだ。
ただ、この写真にあるように、アメリカ全土で自動車が普及するようになるのは、1930年代後半になってからだ。自動車の利便性が社会に受け入れられ、社会インフラとしての道路が整備されたことで、自動車は、日常の乗り物として定着していったわけだが、それには30年がかかっている。
このチャートは、Google GlassとApple Watchである。Google Glassは2013年にテスト販売をはじめたが、2015年には販売を停止、2017年に法人市場に特化した「グラス・エンタープライズ・エディション」を発表したが、広く普及するには至っていない。
一方、Apple Watchは、2015年に販売を開始し、初年度だけで1300万台を出荷し、2019年には3070万台に達しており、同年のスイスの時計産業全体の出荷台数約2110万台をApple Watch単独で大きく上回るほどに普及した。
なぜこのような違いが出てしまったのだろうか。確かに、両製品共に新しい技術を使い、これまでには無い機能や利便性を実現したと言う点では、共通する部分もある。しかし、Google Glassは、あきらかに不自然だ。たとえて言えば、銀座や青山の高級ブティックに黄色い工事現場用の安全ヘルメットを被って買い物に行くようなものだ。確かに、それでも買い物はできるが、やはりなんとなく違和感がある。安全ヘルメットの機能や性能の話しではない。日常の風景に溶け込みにくいのだ。
Google Glassも安全ヘルメットも、工事現場や整備工場など統制環境で、明確な業務目的を持って使われる分には、受け入れられるだろうが、日常的な風景やファッションの一部となると、「尖ったスタイル」であり、なかなかまねをしにくい。
一方、Apple Watchには違和感がない。それは、腕時計の習慣が元々あって、その腕時計の居場所を置き換えたに過ぎないからだ。つまり、新しいタイプの腕時計として、極めて自然に、私たちの日常に溶け込んでしまった。
もちろん、これだけの理由で全てを語るには無理があるが、それら製品を受け入れる常識やスタイルが、既に存在していたかどうかが、両者の普及の違いのひとつであったことは、主要な理由のひとつだろう。
デジタルを受け入れるインフラがなければ社会に受け入れられない。
自動車がニューヨーク5番街で、短期間のうちに使われるようになったことも、Google GlassとApple Watchの普及の違いも、それを受け入れるインフラが予めあったかどうかが、大きいことを示している。
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