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デジタル戦略の3つの公理 1/3

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地球三体協会(ETO)の精神的首領である天体物理学者の葉文潔は、娘の高校時代の同窓だった研究者であった羅輯と会った。そして葉文潔は羅輯に宇宙社会学、つまりもし宇宙に数知れない文明があるとしたら、その文明たちにどんな社会が成立つかを研究しないかと勧めた。その後、彼女は羅輯に宇宙社会学の二つの公理を授けた。

  1. 文明は生き残ることを最優先とする。
  2. 文明は成長し拡大するが、宇宙の総質量は一定である。

SF小説「三体」の続編である「三体II 黒暗森林」の冒頭で、このような話しが登場したのは、「三体」読者なら記憶にあるだろう(Wikipediaより)。

数学には、まったくもって造詣のない私であるが、なるほど「公理」とは、このように使うのかと、合点がいった。そこで、「デジタル戦略の3つの公理」なるものを自分なりに考えてみた。それが、このチャートだ。

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もちろん、ここに書かれていることは、私の全くのオリジナルというわけではない。最近読んだいくつかの書籍に書かれていることや、それらを自分なりに整理してまとめたものだ。特に参考にしたのが以下の3冊である。

3回に分けて、それぞれの公理について、解説してみようと思う。

公理1:課題からはじめなければ、事業の成果には結びつかない。

  • デジタル技術やデータを使うことを目的化してはいけない。
  • 事業の成果に直結するブレークスルーすべき課題を定める。
  • 手段ではなく戦略を優先する。手段はデジタルばかりではないと心得る。

第1の公理については、ことさら説明の必要はないだろう。ただ、実際のビジネスの現場では、「手段の目的化」が公然と行われていている。しかも、手段のひとつでしかない「デジタル技術やデータの活用」が、デジタル戦略の中心をなしている。

言葉では、「事業課題の解決」や「業績の向上」を目的にしていると言うが、デジタルありきでの取り組みがなされていて、課題もまた、クリティカルな、あるいは事業の継続を脅かすほどのものではなく、「デジタルで何とかなりそう」なものを選んでいるようにも見える。言葉は悪いが、「デジタル戦略」のカタチを見せるためだけに課題を選び、取り組もうとしているわけだ。

デジタルで新規事業を立ち上げると言うことも、これに類する発想であろう。つまり、事業の課題を解決するための新規事業ではなく、「新規事業をやるための新規事業」なのだ。これをデジタルありきでカタチにすることを「デジタル戦略」と称している。

本来、新規事業は目的ではない。課題を解決するための手段に過ぎない。しかし、「新事業開発室」や「新規事業開発プロジェクト」と称して、新規事業を作ることを目的にしている組織もある。そんな組織の中には、課題が何か、あるいは、いかなる課題を解決すれば業績にどのように貢献できるかを明確にすることなく、「いままでにない目新しいビジネスを実現すること」が目的となってしまっているところもある。

「目新しい」が悪いのではない。それが、自分たちや社会の課題にとって、その新しいやり方が有効な解決策であるというのであれば、大いに価値がある。しかし、そうではなくて「新しい」が、目的になっている。これでは、カタチは作れても、成果が生まれることはない。

では、「課題」とは何かだ。シンプルに定義すれば、「理想として描く"あるべき姿"と"現実"とのギャップ」である。そして、このギャップを何とか埋めたいという熱意や意欲が、なくてはならない。ところが、新規事業に取り組む組織の中には、この課題を「調査」あるいは「インタビュー」から、見つけ出そうしている。

「調査」あるいは「インタビュー」が悪いのではない。その結果として、世の中をこうしたい、会社をこうしたいという、自分の理想とする「あるべき姿」を描くことなく、どこかにないかと探し回っているのが、おかしな話しだと言うことだ。自分の理想とする「あるべき姿」を持たないままに、課題などないのだ。

DX推進部、デジタルビジネス本部、デジタルビジネス開発室などの組織が、ここ数年沢山作られている。そして、総じて、「調査」あるいは「インタビュー」をして、何ができそうか、どんなところに課題がありそうかを、分析的に捉えようという試みに時間を費やしている。しかし、「これが理想のあるべき姿だから、これをなんとしてでも解決しよう」ということにはならず、デジタルを使ったPoCを繰り返し、カタチばかりの「やっています宣言」に終始している組織もあるのではないか。

問題の存在は、分析で見つけることはできるだろう。しかし、課題は、その問題を何としてでも解決したいという意欲がともなう。つまり、「課題=問題×意欲」である。

この原点に立ち返り、課題を明確にすることからはじめるべきである。また、デジタルやデータは、手段の一つであって、それよりも先に手を付けるべきことがある場合が多い。例えば、組織のあり方やルール、風土や文化である。たぶん、こちらの方が、デジタルよりも手に負えないかもしれない。だから、面倒のない「デジタルを使う」ことに、逃げるのは辞めた方がいい。

課題からはじめなければ、事業の成果には結びつかない。

まずは、ここから知り組んでみてはどうだろうか。

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  • 【新規】アナリティクスとビジネス・インテリジェンス p.137
  • 【新規】ビジネス・インテリジェンスの適用とツール p.138
  • 【新規】アナリティクスのプロセス p.139
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テクノロジー・トピックス編

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下記につきましては、変更はありません。

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  • サービス&アプリケーション・基本編
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