営業がそんな話し方をしていいのですか?
「お客様に、こうすべきとか、これからこうですとか、言い切るような説明は、コンサルタントの仕事ですよね。営業が、そんな話し方をして、いいのでしょうか?」
あるIT企業の営業研修で、「営業は、お客様の先生となって、ITのいまの常識について教えてあげることも大切な仕事です」と話したところ、こんな質問を頂いた。
オンラインで書き込んで頂いた質問なので、年齢も役職もわからないが、このような質問を頂く背景に、この会社の風土が色濃く表れているように感じた。
大手金融関係のシステム子会社であるこの会社の営業は、親会社のIT予算の消化と事務処理に多くの時間を割いているようだった。売り込みだとか、提案など、こちらから仕掛けることはなく、あくまで親会社からの依頼を確実にこなす調整力と事務処理能力が、営業には求められていたのかもしれない。
そんなこの会社に、親会社から「DXを推進するにあたり、積極的に提案してほしい」との要請が舞い降り、大騒ぎになっていた。そして、DXとは何だとか、ITのトレンドを学び直さなければとなり、私に研修のご依頼を頂くことになった。
もちろん講義では、テクノロジーの説明はするのだが、それが社会やビジネスにどんな変化を強いるのか、これに向きあうには、企業の文化や風土をどのように変えてゆくべきかや、どのような人材のあるべき姿を目指すべきかについても説明している。そんな講義の中で、営業の仕事に触れ、上記のような話になった。
私は、講義で、次のような話をしていた。
「ITの最適な使い方は、1年前といまでは、同じではありません。営業は、お客様の業務や経営に関心を持ち、効率化や売上の拡大のために、いまの最適を伝え、これをどのように使えば、こう良くなると、教えなくてはなりません。そうやって、お客様の業績に貢献するための知恵を絞り、その筋道を示すことで、信頼を得て、ビジネスのチャンスを手に入れることが、できます。それが営業の仕事です。」
「だから、営業力を磨くのであれば、ITのトレンドをアップデートし続け、お客様にとっての"いまの最適"を考え続けることです。」
こんなことを話したのだが、どうもピントこなかったようだ。
冒頭の質問に、私は次のように回答した。
「営業は、数字の達成を託さされています。それを達成できることが、営業であることの存在意義でしょう。もはや、これまでのやり方では数字にならないとしたら、他のやり方を考えるしかありません。それが、皆さんの言う"コンサルの仕事"と被るとしてもです。できなければ、数字を達成することができないのなら、できるようになるべきではありませんか。」
テクノロジーの最前線にいて、それをお客様の事業にどう役立つかを考えていれば、自ずと、ああすればいい、こうすればいいと考えるに違いない。ならば、それを教えて差し上げることに、何をためらう必要があるのだろう。これは、営業だとか、コンサルだとか、エンジニアだとかの問題ではない。お客様を相手にする商売の基本ではないか。
ITに関わる仕事をしていながら、それができない企業に、いかなる存在意義があるのだろう。この質問には、そんなこの企業のアイデンティティが透けて見える。
はたして、私の思いがどこまで伝わっただろうか。講師という仕事の限界をひしひしと感じる。