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DXにただよう胡散臭さの3つの理由

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コロナ禍で、デジタル化の遅れを痛感した多くの企業が、DXの実現を標榜し、リモートワークやペパーレス、オンライン会議などを実践した。政府もまた、デジタル庁の創設を表明した。とりわけSI事業者やITベンダーにとっては、IT需要を喚起するバズワードの登場に歓喜している。各社「お客様のDXの実現に貢献する」との趣旨で、オンライン・セミナーを開催し、DXへの関心を高めようとしている。

しかし、「DX」が、これまでも喧伝してきた「ITの戦略的活用」や「ビジネスのデジタル化」と何が違うのだろう。新しい化粧まわしを掲げただけのことなのではないのか。事実、DXをテーマにしたオンライン・セミナーを開催しても、旧来とは変わらない商材を訴求し、いままで通りの工数ビジネスで、システムの開発需要を求めているようにも見える。

DXと、これまでとの違いを追求することなく、言葉だけを新しくてし、その本質を何も変えようとしない。あるいは、その違いを理解しない人たちが、DXを論じ、DXを訴求している。そんな、DXの胡散臭さがただよい始めている。

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DXをどのように解釈するかは、このブログでも度々、解説してきた。それを唯一の正解と申し上げるつもりはないが、2004年のストルターマンに始まるDXの系譜をたどれば、おおよそ、次のような解釈に行き着く。

「デジタル技術を前提に、企業の文化や風土を変革し、業績に貢献すること」

もちろん、これ以外にも表現はいろいろある。例えば、経済産業省のDXレポート(2018)では、DXを次のように定義している。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」

他にも、多くの解釈があるが、共通しているのは、次の3点だ。

  • デジタル・テクノロジーの進展により産業構造や競争原理が変化し、これに対処できなければ、事業継続や企業存続が難しくなる。
  • だから、デジタル・テクノロジーの進展を前提に、競争環境 、ビジネス・モデル、組織や体制の再定義を行い、企業の文化や体質を変革しなければならない。
  • すなわち、DXとは、デジタルがもたらした社会やビジネス環境の変化に対応して、ビジネス・プロセスやビジネス・モデルを変革することである。

このような理解が、十分に浸透しないのは、DXを理解する上で重要な、次の3つの違いを曖昧なままにしているからではないだろうか。

1 「デジタルを使う」と「デジタルを前提とする」との違い

デジタル・テクノロジーの進展により、人々の価値観や人間関係のあり方は大きく変わった。また、情報の伝達やコミュニケーションは一瞬に行われ、顧客の期待やニーズはめまぐるしく変わる。これに対処し、産業構造や競争原理を変え続けなければ、事業継続や企業存続が難しくなった。このような「デジタルを前提」とした社会で、私たちはビジネスを営まなくてはならない。

もちろん、この状況に対処するには、「デジタルを使う」ことは、有効な手段となるが、それが目的ではない。

「デジタルが前提」の社会では、変化に俊敏に対応できる圧倒的なビジネス・スピードが、企業存続の条件となる。そのためには、現場に権限を委譲し、自律したチームによる即決・即断・即行ができなくてはならない。そのためには、徹底してビジネス・プロセスを見える化し、進捗や情報をオープンに共有できなくてはならない。どこにいても、どのような状況にあっても、お互いの信頼と心理的安全性に支えられたコミュニケーションができる人の考え方や組織の振る舞いができるようにならなくてはならない。そのために、デジタルを使うことは、もはや不可避であろう。

しかし、「デジタルを使う」ことはあくまで手段であり、目的ではない。「デジタルを前提」にした考え方や振る舞いができる企業の文化や風土へと変えてゆくことが目的である。DXとは、そんな変革を意味する言葉だ。

2 「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」との違い

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「デジタル化」という日本語に対応する2つの英単語がある。ひとつは、「デジタイゼーション(digitization)」だ。デジタル技術を利用してビジネス・プロセスを変換し、効率化やコストの削減、あるいは付加価値を向上させる場合に使われる。例えば、アナログ放送をデジタル放送に変換すれば、少ない周波数帯域で、たくさんの放送が送出できるようになる。紙の書籍を電子書籍に変換すれば、いつでも好きなときに書籍を購入でき、かさばらず沢山の書籍を鞄に入れておくことができる。手作業で行っていたWeb画面からExcelへのコピペ作業をRPAに置き換えれば、作業工数の大幅な削減と人手不足の解消に役立つ。このように効率化や合理化のためにデジタル技術を使う場合に使われる言葉だ。

もうひとつは、「デジタライゼーション(digitalization)」だ。デジタル技術を利用してビジネス・モデルを変革し、新たな利益や価値を生みだす機会を生みだす場合に使われる。例えば、自動車をインターネットにつなぎ稼働状況を公開すれば、必要な時に空いている自動車をスマートフォンから選び利用できるカーシェアリングになる。それが自動運転のクルマであれば、クルマが自ら迎えに来てくれるので、自動車を所有する必要がなくなる。また、好きな曲を聴くためには、CDを購入する、ネットからダウンロードして購入する必要があるが、ストリーミングであれば、いつでも好きなときに、そしてどんな曲でも聞くことができ、月額定額(サブスクリプション)制で聴き放題にすれば、音楽や動画の楽しみ方が、大きく変わってしまう。このように、ビジネス・モデルを変革し、これまでに無い競争優位を実現して、新しい価値を生みだすためにデジタル技術を使う場合に使われる言葉だ。

これら2つのデジタル化を、どちらが優れているかとか、どちらが先進的かなどで、比較すべきではない。どちらも、必要な「デジタル化」だ。しかし、目指すべきゴールが違う。

問題は、これらを区別することなく、あるいは、両者を曖昧なままに、「デジタル化」にとりくんできたことだ。前者は、既存の改善であり、企業活動の効率を高め、持続的な成長を支える。一方後者は、既存の破壊であり、新たな顧客価値や破壊的競争力を創出する。

1990年代初頭にインターネットが登場したとき、これを「コストパフォーマンスの優れた通信手段」と捉え、通信コストの削減に取り組んだ企業があった。一方、「新しい経済基盤」と捉え、既存のビジネス・モデルを破壊し、新しい事業の創出に取り組む企業も誕生した。我が国は前者に偏り、米国では、後者に取り組むベンチャー企業が台頭した。これが、いまの日米の格差の根源のひとつではないかと、私は考えている。これは、「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」の違いを端的に物語る歴史的事実と言えるだろう。

DXが我が国で注目されるのは、「デジタイゼーション」に偏りがちだったこれまでのデジタル化から、「デジタライゼーション」とのバランス、あるいは、重心のシフトを模索する動きであると捉えることができるかも知れない。

ただ、「デジタライゼーション」=DXではない。「デジタルを前提」にした企業の文化や風土へと変革してゆくことができなければ、「デジタライゼーション」は進まないだろうし、そもそも、そんなことに取り組むことの意義も見いだせないだろう。

3 「プロフィットを追求する」と「パーパスを追求する」との違い

ドラッカーの有名な言葉の一つに「事業の目的は顧客の創造である」という言葉がある。これは、社会的存在としての企業が、商品やサービスの提供というカタチを通して、顧客のニーズを満たし、顧客を創り出していくことを言う。つまり、自らのパーパス(Purpose)すなわち存在意義を追求し、これを事業というカタチを通して実現することと言い換えることができるだろう。

コロナ禍によって、私たちは、改めてこの問いを突きつけられているのではないだろうか。そういう時代にあっても、揺るがない企業の存在意義は何か。そんなパーパスを貫くことができるかどうかが、企業が存続を左右する。

企業がプロフィット(利益)を求めることは、当然のことだ。しかし、コロナ禍によって、いままさに実感しているような「不確実性が高い」時代にあっては、これまでうまくいっていたからと同じやり方で、利益を求めても、直ぐに通用しなくなってしまう。だからこそ、企業は自らのパーパスを問い続け、それを社会に提供する方法を時代に合わせて変化させつづけるしかない。利益とは、パーパスを貫らぬきつつも、やり方をダイナミックに変化させ続けることで、結果としてもたらされるものになった。

DXは、このパーパスと切り離して考えることはできない。つまり、自分たちのパーパス/存在意義を貫くために、圧倒的なスピードを獲得し、ビジネス・プロセスやビジネス・モデルをダイナミックに変化させ続けることができる企業へと変革することが、DXなのだろう。

  • 「デジタルを使う」と「デジタルを前提とする」
  • 「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」
  • 「プロフィットを追求する」と「パーパスを追求する」

DXに取り組むには、これら3つの違いを意識し、自分たちの解を求め続けることが必要だろう。そんな真摯な態度が、DXの胡散臭さを消し去るだろう。なによりも顧客のニーズを満たすこととなり、「顧客の創造」へとつながる。そうすれば、DXは、ただのバズワードではなくなるはずだ。自ずと、新たなビジネスのチャンスがもたらされるだろう。

ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー

【3月度のコンテンツを更新しました】
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・DXについてのプレゼンを充実しました
・新しい研修パッケージを追加しました
 >中小企業向け(地方商工会議所での講演にて仕様)DX研修パッケージ
 >最新ITトレンド研修(1日間)パッケージ
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研修パッケージ
・総集編 2021年3月版・最新の資料を反映
・一般事業者・中小企業向け(地方商工会議所での講演)DX研修 新規
・最新ITトレンド研修(1日間)/IT事業者向け 改訂
・DX基礎編 改訂
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ビジネス戦略編
【新規】ベンダーの目指すべき方向性 p.37
【改訂】DXと2つの未来に対応する方法 p.68
【新規】CXとEXを向上させるためのDX p.82
【新規】DXという魔法の杖はない p.159
【新規】DXの実践とは何をすることか p.160
【新規】テクノロジーを受け入れる前提条件 1 p.161
【新規】テクノロジーを受け入れる前提条件 2 p.162
【新規】DX実践の3ヶ条 p.163
【新規】DX人材とは p.164
【新規】デジタルの価値 p.165
【新規】中堅・中小企業のはじめの一歩 p.166
【新規】中堅・中小企業のは次の一手 p.167
【新規】DX実践のための3つのステップ p.168
【新規】ITの役割の変化 p.200
【新規】内製化×共創の必要性 p.201
【新規】After DX 受託開発ではできない 1 p.102
【新規】After DX 受託開発ではできない 2 p.103
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】IoTとビジネス p.15
クラウド・コンピューティング編
【改訂】クラウドにおける責任の所在 p.153
下記につきましては、変更はありません。
・開発と運用編
・ITインフラとプラットフォーム編
・ITの歴史と最新のトレンド編
・テクノロジー・トピックス編
・サービス&アプリケーション・基本編
・サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
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