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DX崩壊 2/2

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各社はこぞって、DX推進室やDXプロジェクトを起ち上げ、新規事業の開発や組織の変革に取り組もうとしている。そんな現実を見て、かつて鳴り物入りで取り組んだのち頓挫したBPRの轍を踏まないことを願わずにはいられない。そんな昨日ブログでの問題提起に続く、DXとの向き合い方。

これまでのやり方を前提に、デジタル技術を道具として、業務を改善すること

DXを上記のように捉えているとしたら、BPR同様にろくな結果にはならないだろう。

  • 商品やサービスの魅力を劇的に向上させて、お客様の見る目を変えさせること
  • これまでとは異なる競争原理を生み出し、競合他者との関係を一変させ、圧倒的な競争優位を実現すること
  • これまで手間を掛け、大人数でやっていた業務をなくすことや、自動化して業務効率を何倍〜何十倍も(何パーセントや何割ではない)向上させること

つまり、DXとは、デジタル技術を前提にビジネス・モデルやビジネス・プロセスを変革することに他ならない。既存を改善することや、デジタルという道具を使うことと同義ではない。既存の課題に真摯に向き合い、これを克服する戦略を描き、その手段のひとつとしてデジタルは使われる。課題や戦略は、デジタルが前提の世の中になり、デジタルが未熟な世の中の常識とは、大きく変わってしまったことを踏まえて考える必要がある。また、最適な手段もまた、デジタル技術の発展によってかつての常識とは変わってしまった。DXとは、そんな全体を捉えた変革である。

いずれにしても、既存のビジネス・プロセスやビジネス・モデルの破壊・変革・創造を伴う取り組みであることは、言うまでもない。そのためには、社内的には、ビジネス・プロセスや働き方などの抜本的な変革が必要であろう。また、対外的には、新たな顧客価値の創出、ビジネス・モデルの転換、新規事業分野への進出などのビジネスの変革が必要であろう。そのためには、デジタルにできることは徹底してデジタルに任せ、人間にしかできないことに人間の役割をシフトさせることで、新しい常識や新しい価値の創出を目指さなくてはならない。

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「リアルが前提」であり、それが最も貴いという、次のような常識を捨てない限り無理な話しだ。

  • デジタルはビジネスの手段である
  • 価値の源泉はリアルにある、デジタルはリアルの付加価値に過ぎない
  • リアルとデジタルは別の仕組み、デジタルはリアルを補間するもの

「デジタルが前提」を当然のこととして受け入れ、破壊・変革・創造を推し進めるために次のような常識を持たなければ、DXの実践は難しい。

  • デジタルはビジネスの基盤である
  • デジタルとリアルが一体となって価値を創出する
  • デジタルとリアルを分けることなく、デジタルが統合する1つの仕組みとして捉える

何も、既存の改善に意味がないとか、価値がないとか言いたいわけではない。しかし、その常識に留まっている限りに於いては、BPRと同様に未来に何も残すことができず、いまの現実への対処療法に留まってしまう。

SI事業者/ITベンダーにすれば、DXは旬の流行言葉であり、自社の製品やサービスを売り込む大義名分として、役に立つだろう。「破壊・変革・創造」など、難しいことを言わず、ERPのバージョンアップやクラウドへの移行、RPAの導入といった既存の改善の手段程度に留めておいた方が、扱いやすい。各社のDXという言葉の使い方は、その程度に留まっているようにも見えるのは、考えすぎであろうか。

歴史は繰り返すなどと、お定まりの言葉を使うのは、陳腐であることは分かっている。しかし、DXBPRの「陳腐」を繰り返しているように見えてしまう。

RPADX推進の手段である、ERPの次世代化はDX実現に欠かせない、リモートワークはDX時代の働き方改革の一環として積極的に推進すべきである。

間違っているとは思わない。しかし、そんな手段を駆使することが目的となってはいないだろうか。いかなる課題を解決するのか、その課題解決のための戦略は描けているのか、その戦略を実践する一環として、上記手段は、どう位置付けられるのか。そのストーリーを描かないままに、手段を使うことを目的にしていれば、結局はムダな投資になるだろう。

目的は、不確実性が高まる社会にあっても、企業の存在意義/Purposeを貫くことである。これは、DXに関わりなく、企業経営の根幹だ。そのためには、企業を存続させ、事業を成長させることである。自ずと、変化に俊敏に対処できる企業の文化や風土へと変革することが不可避となる。そうなれば、デジタル技術を駆使することは、必然の手段となるはずだ。

ただそれは、デジタル技術を手段として使えば、できるという簡単なことではない。デジタルがもはや前提となっている社会の新しい常識に合わせて、経営や事業のあり方を根本的に変えること、すなわち、ビジネスモデルやビジネスプロセスの「破壊・変革・創造」を行うことであろう。DXは、デジタルを使うことよりも、多くのことをしなくてはならないのだ。

BPRDXという言葉に、罪があるわけではない。それを自分たちの都合がいいように解釈することに問題の本質がある。

私は、多くのBPRが、本来のめざすべき姿を実現することなく、一時の流行言葉で終わってしまったように、DXもまた崩壊すると思っている。

日本がグローバルに地位を失い、いまだバブル崩壊の閉塞感を引きずってしまったのは、BPRの失敗だったと短絡的に結びつけるつもりはない。ただ、BPRがうまくいかなかった背景にある既存の破壊を先送りにしてきた組織のメンタリティは、BPRの形骸化を生み出し、いまの日本の現実につながったことだけは確かであろう。そんな意識の構造が、30年近く経ったいまも引き継がれ、DXという新しい言葉に置き換えられて、再び亡霊のごとく表に現れたように見える。

つまり、現実の課題を直視することなく、またふさわしい戦略を描くこともせず、BPRDXを魔法の杖と考え、その杖を振り回せば、明るい未来が待ち受けているという、大いなる幻想に酔いしれているだけのことだ。

そろそろ、そんな覚めた目でDXを捉えてはどうだろう。「DX崩壊」とは、30年前の亡霊を追い払う呪文だ。DXを追い求めるのではなく、自分たちの目の前に横たわる脅威や課題、あるいは理想を実現するための戦略をまずは描くべきだ。DXとは、その戦略を実践した結果としてもたらされる企業の状態であり、世間の評価ではないのか。

【完】

参考:DXという魔法の杖はない/向きあうべき3つの手順

ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー

【2月度のコンテンツを更新しました】
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・DXについてのプレゼンを充実しました
・AIと人間の知能に関するプレゼンを改訂しました
・IoTとテクノロジーの関係についてのプレゼンテーションを作りました
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研修パッケージ
・総集編 2021年2月版・最新の資料を反映
・新入社員研修の教材を最新版に改訂
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ビジネス戦略編
【改訂】データ活用の前提 p.47
【新規】時間感覚の変化がビジネスを変えようとしている p.75
【新規】DXとは予期できる未来と予期できない未来に対応すること p.76
【新規】DXと2つの未来に対応する方法 p.77
【新規】CXとEXを向上させるためのDX p.91
【新規】デジタル・トランスフォーメーションの構造 p.91
【新規】DXとエッジ:改善から破壊と創造へ p.92
【新規】時間感覚と価値観の変化が常識の転換を難しくしている p.93
【新規】時間感覚の変化 1 p.94
【新規】時間感覚の変化 2 p.95
【新規】価値観の変化 1 p.96
【新規】価値観の変化 2 p.97
【新規】エッジを越える方法 p.98
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【改訂】AIとAGIの関係 p.75
【改訂】知能・身体・環境とAI p.76
【新規】人工知能と機械の知能 p.77
【新規】機械学習がやっていること p.89
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】サイバーフィジカルシステムとIoT p.3
【新規】IoTが生みだす2つのループ p.4
【新規】IoTが生みだす2つのループとテクノロジーの関係 p.5
ITインフラとプラットフォーム編
【新規】ソフトウェア化された情報システムp.54
【新規】ソフトウェア化された情報システムとクラウド p.55
クラウド・コンピューティング編
【新規】クラウドにおける責任の所在 p.144
下記につきましては、変更はありません。
・開発と運用編
・ITの歴史と最新のトレンド編
・テクノロジー・トピックス編
・サービス&アプリケーション・基本編
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