どうすれば、わかりやすく伝えることができるのか・「伝わる」の3つの段階
私にとっては、講演や講義の話し、ブログや書籍での文章が食い扶持である。つまり、「伝わる」ことが商品の価値というわけだ。「伝わらないのは聞き手の問題」と言うわけにはいかない。そんなことをしていると、仕事がなくなってしまう。
「伝える」ことが仕事、「伝わる」ことが品質である。そんな「伝わる」には、知る、理解する、刺さるの3つの段階がある。
知る段階とは、初めての言葉を知らせることだ。聞き手にとって知っている情報を伝えているだけでは、伝えられても嬉しくない。知らない情報を伝えることが大切だ。
その人にとって、知らないこととは、新しい情報である。あるいは、言葉だけは聞いてはいるが、その意味を知らない場合だ。また、いろいろな言葉を聞いてはいるが、それらがどういう関係や構造でつながっているのかが分からない場合だ。例えば、AIと IoTとクラウドは、どれも知っている言葉ではあるし、その意味も知っている(つもり)ではいるが、それらがどのような機能で、役割を分かち合いながら関連しているのかを知らないことがある。それらをつなげてあげることができれば、「知る」ことに貢献できる。
たとえ話を使うのも効果的だ。例えば、「昔、ネットワークのことを説明するときに、雲の絵で表現していました。その雲の上、つまりネットワークに沢山のコンピュータをつなぎ、雲を介して、つまりネットワークを介して、そのコンピュータを使えるようになりました。これが、クラウド・コンピューティングあるいはクラウドです。」と説明すると、なるほどとなる。
次の理解する段階とは、その情報を他の情報と関連付けることだ。例えば、製造業の経営者を対象にデジタル化とは何かを説明する場合は、製造ラインや生産計画、工程の自動化など、彼らが日常見聞きし、それが何かを説明する必要のない情報と、新しい情報を関連付けて説明すると理解しやすい。
例えば、この絵は、いま世の中が目指しているデジタル化とは何かを、製造現場に当てはめて説明することで、彼らの既存の情報と新しい情報が関連付けられる。つまり、理解を促すことになる。
最後は刺さる段階だ。刺さるとは、どうすればいいか、答えを見いだせずに困っている。あるいは、分かっちゃいるけどどうしようもない。そういうところに、こうすればいいですよ、これが最善の解決策ですよと伝えることだ。あるいは、彼らがタブーとして避けていることを指摘することも刺さる話になる。
例えば、SI事業者の経営者を相手に話しをするとき、「お客様のDXに貢献するとか、お客様のDXのパートナーになるとかおっしゃっていますが、そもそも自分たちがまともにDXを理解していないし、その実践もできていないで、お客様のDXに関わろうなんて、無理な話じゃないですか?」なんて、話をすると、これはかなり刺さる。その通りだと思ってもらえるのか、こいつ偉そうなことを言いやがってと思われるのかは別としても、刺さることは間違えない。
刺さるとは、「伝わる」の目指すべきゴールである。「刺さる」が何もないはなしはつまらない話になって、印象に残らず、結果として「伝わらない」ということになる。
これら3つの段階以外でも、「伝わる」ために、心がけておきたい3つのことがある。
まず第1に、聞き手の職業や年代、興味や関心事など、可能な限り情報を集め、それに合わせて言葉を選ぶことだ。保険業界の人たちを相手に流通業界の事例を説明しても、いまひとつピントはこないだろう。
次に、世間の話題をうまく使うことを心がけると、聞きたいという気持ちにすることができる。例えば、いまならコロナ禍のことやカーボンニュートラル、デジタルトランスフォーメーションなどが、使える。
3番目は、自分が分かったつもりでいることを前提にしないことだ。これが一番大切だ。ひとの講演を聴いていて、「そんなことも知らないなんてレベルが低いですね」と言葉にはしないまでも、態度に出る講演者がいる。聞き手は萎縮し、恐縮し、どうせ分からないからと耳を閉ざす。これは最悪だ。私などは、カチンとくる。例え自分が知っていることでも、改めて丁寧に説明するとか、前後関係や背景を伝える努力は、心がけるべきだろう。ただ、やり過ぎるとつまらなくなるので、受講者の職業や役職、年代などを講義の冒頭などで問いかけ確認し、それに合わせて話すといいだろう。
「伝えたという自分の満足ではなく、伝わったという相手の満足を大切にする」
この言葉を忘れないようにしたい。
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