事業企画・事業開発をすすめるための基本の「き」 3/3
コロナ禍に向きあい、新たなビジネスの可能性を模索する企業も増えているようです。どうすれば、この取り組みを成功に導くことができるのでしょうか。3回に分けて、整理していこうと思います。
- 第1回 3つの原則
- 第2回 3つのステップ
- 第3回 3つの狙い目
具体的にどこを狙えばいいのか?
心構えや進め方は分かりました。では、どのような点に着目し、ビジネスのアイデアを組み立ててゆけばいいのでしょうか。
市場拡大の加速度に着目する
2009年、インターネットにつながっていたモノは25億個あったとされていますが、2015年には180億個に、そして2020年には500億個に達するとされています。IoTはそんな勢いで市場を急速に拡大しつつあります。
急速に拡大する市場への参入は技術も未成熟で変化も早く、その動きに追従し、さらには先取りして取り組むことは容易なことではありません。また、そこで使われている様々な技術が将来生き残るかどうかも市場の評価が固まっていない段階ですから、リスクがあります。一方で、市場に加速度がありますから、ちょっとしたアドバンテージが短期間で大きな差を生みだす市場でもあるのです。
新しい事業は、このような市場の加速度があるところに着目すべきです。既に確立された大きな市場は強豪がひしめいています。そのような市場で闘うことは容易なことではなく、先行企業の圧倒的な競争力で潰されるか価格競争を強いられるかのいずれかであり、ビジネスとしてのうまみはなかなか得られません。
いまは規模が小さくても加速度のある市場にいち早く参入することです。自分たちが未熟であってもお客様も競合他社も未熟です。だからこそ、デジタル技術の動向を見据えて、自分たちだけでやろうとはせず、オープンにできる人たちを巻き込むことです。そうやって一歩先んじることで市場でのイニシアティブを確保することができるのです。
「きっと誰かがやる」ことに着目する
建設工事自動化サービス「スマートコンストラクション」を提供しているコマツは、ブルドーザーやパワーショベルなどの建設機械を作り販売している会社でもあります。そのコマツが自社の製品を販売せずサービスとしてお客様に提供することは自分たちの本業の足を引っ張ることになるのではないかと、コマツの事業責任者に尋ねたことがあります。すると彼は次のように話してくださいました。
「いずれ同じようなことを他の会社もやり始めるでしょう。ならば、他社がはじめる前に自分たちがはじめて、いち早くノウハウを蓄積し他社に先行することが得策だと考えたのです。」
コマツはいま現在この分野では他社の追従を許さない圧倒的な競争優位を築いています。また、少子高齢化が進み建設労働者が確保できない時代を迎えつつある一方で、建設需要は拡大しており、そんな需要に対応するためにもこのような取り組みが必要だともおっしゃっていました。まさにそんな市場の課題を先取りすることで需要は拡大し、先行して実績とノウハウを積み重ねられているようです。
誰かがやるならまずは自分たちが一歩先んじてイニシアティブを確保することはビジネスを成功に導く基本と言えるでしょう。
汎用目的技術に着目する
歴史を振り返れば、経済発展の原動力となり社会構造の変化に、新しい技術の登場は大きな役割を果たしてきました。しかし、全ての技術が等しく同様の役割を果たしたわけではありません。「様々な分野で広く適用可能な技術」が、その役割を果たしてきました。このような技術は「汎用目的技術(GPT:General Purpose Technology)」と呼ばれています。
例えば、18世紀後半~19世紀中期の第1次産業革命を支えた蒸気機関は、ものづくりばかりでなく鉄道や船舶にも用途が拡がり、経済や社会の仕組みを大きく変えてゆきました。また19世紀後半~20世紀初頭における第2次産業革命を支えた内燃機関(エンジン)や電力もまた社会の隅々に行き渡り、いまでも私たちの社会や生活を支える主要な技術として広く使われています。このような技術がGPTです。
これら以外にも、1940年代に登場するコンピューター、1990年代に普及が始まるインターネットなども私たちの生活や社会に浸透し、その活動に様々な影響や変化を与えてきたGPTと考えることができます。
次に来るGPTは「人工知能(AI:Artificial Intelligence)」かもしれません。AIは既に特別な存在ではなく、様々なところに使われはじめています。例えば、機械翻訳や音声による検索、ショッピング・サイトでの商品の紹介やコールセンターでのお問い合わせに最適な回答を推奨する機能など、私たちの日常には既に多くのAIが使われています。また、医療現場での診断支援や自動運転自動車の登場は、AIのさらなる可能性を実感させてくれます。
このようにAIは私たちの日常の様々な分野へ広く適用可能な技術として普及しつつあり、GPTとしての要件を満たしているものと考えることができます。
両者は共にGPTのような汎用技術やそれを改良した応用技術を組み合わせた仕組みです。IoTを例にとれば、データを収拾するセンサー技術、コンピューターや電子機器を小型化する半導体技術、集めたデータをインターネットに送り出す通信技術、そのデータを解析し規則性やルールを見つけ出す人工知能技術などの組合せであり、それらを駆使して様々な価値を生みだそうという取り組みです。その実用性は高く、市場の成長性も大いに期待されている分野であることは間違えありません。しかし、それをひとつの技術領域としてGPTに括ってしまうのは少し乱暴なような気がしています。
いずれにせよ社会や経済の変革をGPTとその応用技術が生みだすとすれば、その動向に着目することで、この先にどのような未来が拡がっているかを予測することができます。そして、そんなGPTにビジネスの軸足をのせておけば、様々なビジネス分野への応用が利くこともまた事実です。そんな視点から「商品としてのデジタル技術」の事業領域を考えてみるといいかもしれません。
デジタル技術を味方につけたものが生き残る時代へ
デジタル技術はこれまでの日常や社会の常識を変えつつあります。そんなデジタル技術を「敵だと退ける」のか「味方にする」のか、あなたはどちらを選ばれるでしょうか。
歴史を振り返れば、変化のなかった時代などありませんでした。その変化を見極め、その波をうまく乗り継いできた人たちが生き残ってきたのです。
デジタル技術がかわる大きな変化とは、次のようなことです。
1960年代:コンピューターの商用利用により大規模な計算業務やルーチンワークが大幅に効率化・自動化される。
1980年代:メインフレームやホスト・コンピューターと言われる大型コンピューターの時代からミニコン、オフコン、パソコンといった小型コンピューターへと移行し、利用者の裾野が拡大する。
1990年代:インターネットの登場により地域や企業を超えたビジネスや人のつながり、協調・連携ができるようになる。
デジタル技術はそれぞれの時代の常識を変えてきました。2000年代に入ると、デジタル技術が常識を変える出来事が幾重にも折り重なり、爆発的な変化を生みだしています。例えば、次のようなことだ。
デジタル技術の「使い方」が変わる:クラウドの登場によりコンピューターの購入やシステムの開発といった手段に大金を払うことなく、様々なビジネス価値をサービスとして直接を手に入れることができるようになった。
デジタル技術の「所在」が変わる:スマートフォンや家電製品、自動車や住宅などにセンサーやコンピューターが組み込まれ、それらがインターネットとつながり、現実世界のあらゆる出来事がデジタル・データとして捉えられるようになろうとしている。また、インターネットの先には数百万台とも言われコンピューターが「クラウド」として存在し、私たちの日常やビジネスと深く関わっている。
デジタル技術により「人間の役割」が変わる:人工知能やロボットの進化は、「人間にしかできなかったこと」を機械に置き換え、「人間にはできなかったこと」を実現してくれる。人間は、これまでの役割を失い、新たな役割を果たしてゆかなければならない。
このような出来事が同時進行で起こり、しかも爆発的なスピードで変化しているのです。その理由は、クラウドやインターネットの登場による「失敗コストの激減」と「オープン化」です。
安いコストでコンピューターやネットワークを使えることで「失敗コスト」が激減し、失敗を恐れずに試行錯誤を繰り返すことができるようになりました。失敗の数が増えれば、成功の実数は増えてゆきます。また、オープンにデータやソフトウェアが共有される時代となり、他人の経験や知恵を利用してさらにそれを積み上げてゆくことで、イノベーションが起こりやすくなりました。それが、いまの爆発的な変化を生みだし、常識を変える原動力となっています。
いつの時代もテクノロジーはニーズがあるから世の中に受け入れられ、定着してきました。これまでに無かったまったく新しいテクノロジーが登場しても、時代のニーズに受け入れられなければ、やがては忘れ去られてゆきます。ですから、いま話題のデジタル技術の言葉やその周辺で起こっている出来事を理解しようと思うなら、それがどういうニーズと結びついているのかを考え、見極めるように努めることです。そうすれば、その意味や価値を理解できるはずです。さらに、自分たちの直面する現実の課題やニーズと結びつけ、さて、これを解決できる最適なテクノロジーはどれだろうかと研究してみてはどうでしょう。デジタル技術はもっと身近になるはずです。
変化はこれからも続きます。これに向き合い続けるためには、立ち止まることなく、時代のニーズとデジタル技術との係わり方を模索し、試行錯誤を繰り返すことです。そんな努力を続ければ、きっとあなたはデジタル技術を味方にすることができるようになります。
【完】
【募集開始】ITソリューション塾・第36期 2月10日開講
2月から始まる第36期では、DXの実践にフォーカスし、さらに内容をブラッシュアップします。実践の当事者たちを講師に招き、そのノウハウを教えて頂こうと思います。
そんな特別講師は、次の皆さんです。
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戸田孝一郎氏/お客様のDXの実践の支援やSI事業者のDX実践
吉田雄哉氏/日本マイクロソフトで、お客様のDXの実践を支援す
河野省二氏/日本マイクロソフトで、セキュリティの次世代化をリ
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また、特別補講の講師には、事業現場の最前線でDXの実践を主導
DXの実践に取り組む事業会社の皆さん、ITベンダーやSI事業者で、お客様のDXの実践に貢献しようとしている皆さんに、教養を越えた実践を学ぶ機会にして頂ければと準備しています。
コロナ禍の終息が見込めない状況の中、オンラインのみでの開催となりますが、オンラインならではの工夫もこらしながら、全国からご参加頂けるように、準備しています。
デジタルを使う時代から、デジタルを前提とする時代へと大きく変わりつつあるいま、デジタルの常識をアップデートする機会として、是非ともご参加下さい。
詳しくはこちらをご覧下さい。
- 日程 :初回2021年2月10日(水)~最終回4月28日(水) 毎週18:30~20:30
- 回数 :全10回+特別補講
- 定員 :120名
- 会場 :オンライン(ライブと録画)
- 料金 :¥90,000- (税込み¥99,000)
全期間の参加費と資料・教材を含む