事業企画・事業開発をすすめるための基本の「き」 2/3
コロナ禍に向きあい、新たなビジネスの可能性を模索する企業も増えているようです。どうすれば、この取り組みを成功に導くことができるのでしょうか。3回に分けて、整理していこうと思います。
- 第1回 3つの原則
- 第2回 3つのステップ
- 第3回 3つの狙い目
3つのステップ
実践は、戦略、作戦、戦術の3つのステップですすめてゆくといいでしょう。
- ステップ1:戦略(Strategy):目指すべきゴール、すなわち「あるべき姿」を明らかにし、それを実現するためのシナリオである「ビジネス・モデル」を描く取り組み。
- ステップ2:作戦(Operation):この戦略を実現するためのひとつひとつのプロジェクトである「ビジネス・プロセス」を組み立てる取り組み。
- ステップ3:戦術(Tactics):そのプロジェクトを遂行するための手段や道具である「使い勝手や見栄え」を作り込む取り組み。
それでは、ひとつひとつ見てゆくことにしましょう。
ステップ1:戦略(Strategy)
あるべき姿を明確にする
手段を使うことが目的ではありません。現場の課題を解決しビジネスを成功させることが目的です。そのためには、「成功したときの状態」=「あるべき姿」を具体的に描き、それを実現することに取り組まなければなりません。
「あるべき姿」とは、次のようなことです。
- 結果としてどうなっていたいのか
- これができたら「成功」と言い切れる姿
- 理想のゴール
を表現したものです。これを明確にすることが最初の一歩です。例えば、
- この分野では業界トップの地位を確保したい
- 顧客満足度ナンバーワンの評価で顧客を虜にしたい
- 「一時的な売上の積み上げ」から「長期継続的な収益の積み上げ」に事業転換を図りたい
どうやって実現するかではなく、結果として「どうなっていたい」の具体化が最初です。
このとき、「とてもいまの自分たちにはできそうにない」などといった「現実」は一旦棚上げしてください。「現実」を考えはじめると、それらが足かせとなり、大胆な発想はできなくなってしまいます。「どうなっていたいのか=結果」を純粋に追求することです。「現実」にはやがて向き合うことになりますが、まずはこの段階では理想を求めることが大切です。
ビジネス・モデルと実現のシナリオを描く
次に、この「あるべき姿」を実現するためのビジネス・モデルやそこに至るシナリオを「思想としてのデジタル技術」を前提に大胆な発想で考えてゆくといいでしょう。例えば、
- これまではコストがかかりすぎてとても考えられなかった
- 高度な熟練が必要で人間にしかできなかった
- 業務の連携や人のつながりが簡単には作れなかった など
かつての非常識はいまでは常識になっていることも少なくありません。「そんなことはできるはずはない」といった思い込みをしないで、テクノロジーのトレンドやデジタル・ビジネスの事例を丁寧に調べ、新しい常識で可能性を探ることです。
例えば、商品を買ってくれたお客様がどのような使い方をしているのかを知るためには、登録されている顧客情報を頼りにアンケートをお願いするか、調査会社に調査を依頼するしか方法がありませんでした。そのため、そういう調査に協力的な一部のサンプルしかデータを集めることができず、不完全なデータから推測するしかなかったのです。
しかし、センサーや通信装置が小型・高性能化して単価も劇的に安くなったこと、さらには誰もがスマートフォンを持ち歩くようになったことで、状況は一変しました。
商品に予めセンサーや通信機能を組み込んでおき、スマートフォンと連携して商品の付加価値を高めるサービスを提供します。そのサービスは使いたい、あるいは使わないと損だと思わせるような魅力的なものでなくてはなりません。そうしておけば、お客様の利用状況がリアルタイムで、しかも完全に把握することができます。
また、なんらかのオンライン・サービスを提供するに当たり、利用者ひとり一人の使い方や趣味嗜好を捉え、それに合わせてメニューを変えてサービスの魅力を高めたい、あるいは、適切なオプション・サービスを提案して収益を増やしたいとしましょう。そのためには、高度な分析機能やその結果の解釈、それに基づく推奨機能などを組み込む必要があります。それには高額なパッケージ・ソフトウエアを購入し、専門のエンジニアを雇わなくてはなりませんし、そんな仕組みを自ら開発しなければなりませんでした。これにはなかなかの覚悟が必要です。
しかし、いまではこのようなことをやってくれる人工知能サービスがクラウドから提供されています。しかも使った分だけ支払う従量課金型のサービスですから、先行投資リスクもありません。これを自社のサービスに組み込むこともできる時代になりました。
もちろんそれを使いこなすスキルは必要ですが、技術的難しさは軽減され業務のプロフェッショナルであっても、ちょっと勉強すれば使えるようなサービスも登場しています。
こんなことは、数年前までは非常識なことだったかもしれませんが、いまでは十分に実現可能となっています。
このような情報をネットや書籍で調べることもできますが、ベンチャー企業や大学などとの共同研究、優れた技術やアイデアを集めるイベントの開催やコミュニティーへの参加など、感度を高く最新の事情に触れ、知恵や知識を持つ人たちとつながっておく取り組みも効果的です。事実、IoTやFinTech、人工知能などの分野では、大企業とベンチャー企業、大学などが一緒になってコンソーシアムを立ち上げる例が増えています。
ステップ2:作戦(Operation)
次の段階として「仕組みとしてのデジタル技術」を練り上げることです。どのような手順で、どのような手続きを行い、どのようなやり方で結果を出すか。そんなビジネス・プロセスや業務手順を明確にして、それを実現するために最良の手立てを考えてゆきます。
ここでもデジタル技術の可能性を追求することです。例えば、次のようなことです。
- スマートフォンで写真を撮れば自動的に報告書のひな形が作成され、進捗の予実についても自動的にアップデートされる
- 機械の操作を音声の指示だけで行い、関係者への連絡や通知も音声だけで行い、必要とあればそれを文章にもしてくれる
- データを入力すれば、そのデータの内容を分析し、自動的に最適な図表を作成してくれる
これらのことは既に実現可能です。このようなデジタル技術のできることを前提に仕組みを作れば、仕事の効率や精度を飛躍的に高めることができるはずです。
ステップ3:戦術(Tactics)
次は「道具としてのデジタル技術」の使い方です。例えば、つぎのようなことです。
- どのタブレット端末はコストパフォーマンスが高いか
- どのパッケージ・ソフトウエアが最適か
- どの開発ツールを使えば開発の生産性を高かめられるか など
これから行おうとしている「作戦」にふさわしい手段として最適なものはどれか、また、それを使えるようにするための手順や使いこなすためのスキルをどのように身につければいいのかをデジタル技術の専門家である情報システム部門やデジタル技術ベンダーに提案を求めるとよいでしょう。
注意すべきは、実績や経験にこだわり新しいことを躊躇する保守的な人たちの存在です。「失敗を許さない減点文化」の企業には、このような人たちも少なくありません。しかし、これまでも度々申し上げてきたとおり、デジタル技術の進化は日々常識を塗り替えています。その前提に立ち、その時々の新しい常識で「道具としてのデジタル技術」の選択肢を模索しなければ、成果も制約されてしまいます。だからこそ、事業に責任を持つ経営者や事業部門の人たちが、デジタル技術の可能性と限界を正しく理解し、試行錯誤での取り組みを許容する態度を持たなくてはなりません。そんな文化を築いてゆくことも、これからのビジネスを創りあげるためには必要な態度と言えるでしょう。
次回は、第3回・3つの狙い目です。
【募集開始】ITソリューション塾・第36期 2月10日開講
2月から始まる第36期では、DXの実践にフォーカスし、さらに内容をブラッシュアップします。実践の当事者たちを講師に招き、そのノウハウを教えて頂こうと思います。
そんな特別講師は、次の皆さんです。
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戸田孝一郎氏/お客様のDXの実践の支援やSI事業者のDX実践
吉田雄哉氏/日本マイクロソフトで、お客様のDXの実践を支援す
河野省二氏/日本マイクロソフトで、セキュリティの次世代化をリ
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また、特別補講の講師には、事業現場の最前線でDXの実践を主導
DXの実践に取り組む事業会社の皆さん、ITベンダーやSI事業者で、お客様のDXの実践に貢献しようとしている皆さんに、教養を越えた実践を学ぶ機会にして頂ければと準備しています。
コロナ禍の終息が見込めない状況の中、オンラインのみでの開催となりますが、オンラインならではの工夫もこらしながら、全国からご参加頂けるように、準備しています。
デジタルを使う時代から、デジタルを前提とする時代へと大きく変わりつつあるいま、デジタルの常識をアップデートする機会として、是非ともご参加下さい。
詳しくはこちらをご覧下さい。
- 日程 :初回2021年2月10日(水)~最終回4月28日(水) 毎週18:30~20:30
- 回数 :全10回+特別補講
- 定員 :120名
- 会場 :オンライン(ライブと録画)
- 料金 :¥90,000- (税込み¥99,000)
全期間の参加費と資料・教材を含む