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「シンクライアントで、テレワークはスムーズ」なんて言っている感性の低さ

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コロナ禍をきっかけに、仕方なく、あるいは半ば強引にテレワークを実施した企業は少なくないだろう。しかし、そのことで、出社しなければ仕事ができない、直接対面しなければ商談はすすまないとの常識が、ただの思いこみであったことに、気付かされた人たちも多いはずだ。

一方で、テレワークの足かせとなるシステム環境や制度などの課題が浮き彫りとなった。これを克服して、テレワークを常態化するのか、あるいは、元の状態に戻すのかによって、今後の企業の評価が、大きな影響を受けることも確かだろう。特に採用においては、無視できない影響があるだろう。

例えば、新卒者はリモートワークができるかどうかが応募の選択肢の1つになるだろう。テレワークができれば、地方の優秀な人材を採用できる機会が生まれる。人材の流動化も加速する。特に「どこででも通用する」優秀な人材にとっては、リモートワークは、働き方の自由度を高めることであり、自分の成長ややり甲斐を与えてくれる。そんな彼らが、「できない会社」から「できる会社」へ転職しようと考えるのは、当然のことだろう。

そう考えれば、テレワークに対応できるかどうかが、結果として企業の業績や成長力に影響を与える大きな要因になる。ひいては企業の淘汰や産業構造の転換につながってゆくと考えるのは、突飛な発想ではないように思う。

リモートワークを単に表向きの現象、つまり働き方の形態や方法として捉えるべきではない。企業の社会的適応力の問題だ。すなわち社会の変化に対しての感度であり、それは、やがては、製品やサービスへと反映されることになる。結果として、時代の感性に取り残された企業が、社会の変化に適応できず、顧客や従業員に見放され、淘汰されてゆくことになるのは、しかたがないことだ。

コロナ禍以前からテレワークを行っていた企業の中には、これを機に在宅勤務を基本とし、出社は社員の自由意志に委ねるというところも現れた。聞けば、これまでにも増して優秀な人材が集まってきているという。

うまくいっている企業に共通するのは、本人のやるべき仕事、期待する成果を明確にし、信頼して任せていることだ。テレワーク以前の話しとして、そんな組織の文化や風土が、基本にあることが、働き方の自由度を高めている。

あるIT企業の方から、「我が社はシンクライアントを採用していたので、テレワークにスムーズに移行できた」という話しを聞いた。なぜかと聞けば、社員が仕事をしているのかしていないのか、確実に把握できるからだという。しかし、それは、端末を立ち上げているかどうかであり、仕事をしているかどうかは、別の話であろう。そもそも、VPNを介してシンクライントを使うことが、スループットを劣化させ、どれほど使い勝手が悪くしているかは、容易に想像がつく。

そんな会社の方とzoomで打合せをしたとき、画像が表示されなかった。カメラがついていないのかと聞くと、VPNでは回線に負担を掛けるので、画像表示は禁止だという。そして、ちょっと待ってくれといい、個人で所有するスマホでzoomを起ち上げ、そちらで画像表示をするという。なんとも、間抜けな話しである。このよう状況であるにもかかわらず、「テレワークにスムーズに移行できた」と言う感覚が、まさに時代に取り残されている。

手段や形式でテレワークができたという企業は実に多い。しかし、それが仕事の成果や社員の幸せに結びついていないとしたら、意味がないだろう。

自らのジョブを定義し、それを上司と合意して、信頼して任せる。オンラインになっているかどうかといったようなマイクロマネージメントをせず、いつでも相談にのるし、情報をオープンに開示し、部下を信頼して任せる。そういう企業文化や風土、それを支える評価制度なくして、「シンクライアントで、テレワークはスムーズ」なんて、なんとも本質が見えていない話しだ。

ただ、テレワークで成果があげられるかどうかは、会社の文化や制度だけではうまくいかないだろう。そこで働く個人のセルフマネージメント能力もまた、高いレベルを要求される。目標管理や時間管理を自分でやらなければならないわけで、事実それができずに、在宅になって労働時間が増えたという人も多いようだ。まあ、通勤時間がなくなったわけだから、それだけ仕事ができる時間的、肉体的余裕が生まれたとも言えるわけで、これはなんとも言えない気がする。

いずれにしろ、多くの日本人の根っ子は、真面目で勤勉なのだから、それを前提にテレワークを考えればいいように思う。最大のネックは目標管理や時間管理しかしていなかった「マイクロマネージャー」が職を失うことに抵抗を示すことかも知れない。

まあ、それもいいことだろう。そうやって、本来のあるべき姿へと社会が変わろうとするとき、痛みは伴うものだ。それを成長の痛みとして、積極的に受け止めて、やり方を変えるのか、社会や会社を批判して、旧態依然を守ろうとする抵抗勢力になるかは、人それぞれであろうが、結果は見えている。

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「在宅勤務の生産性はオフィス勤務より低い」という回答が日本は40%だった一方、中国やイギリスなど他国は10%台が多く、日本が10カ国平均の13%を大きく上回った。

レノボの調査では、なんとも惨憺たる状況ではあるが、コロナ禍を機にそんな汚名を晴らして欲しいと願わずにはいられない。

DXが、大いに盛り上がっている。とくにITベンダーやSI事業者は、DXを大看板に掲げ、「お客様のDX実現に貢献します」などと見得を切っている。そんな会社が、「シンクライントで、テレワークはスムーズ」なんて、言っているようでは、なんとも見通しは暗い。

そもそも、それがどれほど恥ずかしくて、かっこ悪いかが分からない感性の低さこそ、日本にテレワークが根付かない、真の原因なのかも知れない。これは、多分に経営者の感性の低さであろう。

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【新規】DXについての3つの解釈 p.93
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【新規】ソフトウエア化とクラウド p.54
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【新規】ビジネス・スピードの加速とシステム開発・運用の関係 p.11
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