DXについての3つの解釈
デジタル・トランスフォーメーション(DX)については、多くの人が様々な解釈をしています。それらは、概ね、次の3つの解釈に整理できそうです。
デジタル技術を使って、業務の効率化や利便性を向上させること
RPA、オンライン会議、オンライン経費精算、ECサービス、ビジネスチャット、電子決済などのデジタル・ツールを使うことで、業務の効率化や利便性を向上させることです。このようなツールを使って、効果を引き出すには、業務プロセスを見直し、業務の無理や無駄をなくし、十分に効果を測定できるように標準化することが望まれますが、そういうプロセスを省いたとしても、一定の効果が期待できることも確かです(ただし、それ以上の改善は難しいでしょう)。従って、DXと称して拙速に効果を見せるには、有効な解釈です。
新しいデジタル技術を使って、新規事業で業績に貢献すること
スマートフォンやウェアラブルなどの行動データの活用、AIを利用した生産工程の自律化など、新しいデジタル技術を使って、これまでには無い新しい事業を実現することです。新しい技術のなんたるかを知らない人たちや、やっていることの目新しさは、社内外から注目を集めることができるかもしれません。ただ、業績に一定の成果をもたらすことができるかどうかは、新しいデジタル技術を使ったことよりも、顧客の切実な課題にニーズを十分に見極め、それにふさわしいビジネス・モデルやUXを実現できたかどうかにかかっています。ただ、新しいデジタル技術を使うというパフォーマンスは、その技術についてよく分からない人たちにとっては魔法であり、凄いことなので、これをDXと称することには、極めて高い説得力を与えることになります。
デジタル技術を前提に、企業の文化や風土を変革し、業績に貢献すること
ビジネス・プロセスのデジタル化と現場の見える化により、経営者や管理者は現場をリアルタイムで把握できるようになります。コミュニケーションも円滑に進み、相互の信頼感も醸成されます。そんなお互いの信頼を前提に現場へ大幅に権限委譲し、圧倒的なビジネス・スピードを生みだします。また、心理的安全性に支えられた組織の文化や風土が、チャレンジを促し、新しい取り組みを加速するとともに、高いモチベーションを生みだします。このような企業の文化や風土を生みだすことができれば、不確実性の常態化する世の中にあっても、自律的に、そして俊敏に、ビジネス・プロセスを改善し、ビジネス・モデルを変革し、社会の変化に対応できるようになります。このような企業活動の土台を作るには、デジタル技術がもたらす社会や日常の常識の変化、あるいは人々の価値観の変化などを前提に、組織の振る舞いや従業員の考え方を変革しなければなりません。2004年のエリック・ストルターマンが提唱した「デジタル・トランスフォーメーション」についての解釈、さらには2010年代のガートナーやIDCの解釈、IMDのマイケル・ウェイドらの解釈の系譜をたどれば、DXの本来の解釈は、このようになりそうです。
DXを「企業の文化や風土の変革」と解釈することは、極めて理にかなっています。
不確実性の常態化するビジネス環境にあっては、「業務の改革や改善、新規事業の立ち上げ」は、継続的かつ高速に繰り返さなくてはなりません。そうしなければ、事業の継続も企業の存続も難しくなるからです。つまり、「業務の改革や改善、新規事業の立ち上げ」は目的ではなく、「事業を継続させ、企業を存続させる」という目的のための手段であるということです。
つまり、圧倒的なビジネス・スピードとそれを支える自律的な組織という企業活動の土台があれば、「業務の改革や改善、新規事業の立ち上げ」は、特別なことではなく、当たり前の日常として、企業に根付くことになります。
このように考えれば、3番目が、最も広範かつ有効な価値を企業にもたらす解釈と言えそうです。
【参考】DXの定義 〜様々な解釈から見えてくるDXの本質、実現に向けた具体的施策〜