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たぶん、このプロジェクトは、うまくいかないと思います

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「地方のIT事業者が単独でネットでの新規事業を立ち上げるとなると、スキルも資金もありません。そこで、コンソーシアムを組んで、一緒に取り組もうとプロジェクトを起ち上げました。成功させるためのアドバイスを頂けないでしょうか。」

もう何年も前の話だが、IT企業の地方団体の講演の折に、受講者から、自信たっぷりに、こんなご質問を頂いたことがある。正直なところ、さあ、どう答えれば失礼にならないかと、いろいろと思案したが、結局は、率直に申し上げる方が、いいだろうと考え、次のように申し上げた。

「たぶん、このプロジェクトは、うまくいかないと思います。単独ではできないからと、できない人たち同士が集まったところで、できるようになりません。」

会場の空気が、一瞬張り付いたことを覚えている。たぶん、「素晴らしい、頑張って下さい!」という言葉とともに、気の利いたコメントが返ってくるものと期待されていたのだろう。質問者の憮然とした顔が、いまでも印象に残っている。申し訳ないm(_ _)m

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情報大航海プロジェクト」を、覚えているだろうか。経済産業省が2007年(平成19年)に立ち上げた日本の国産検索エンジン開発プロジェクトだ。当時、日本の検索エンジン市場でシェアをもつ国産サービスは存在せず、政府の中ではそういう現状に心配する声が上がっていた。この状況に対応すべく、50社ほどの企業が参加して、このプロジェクトがスタートした。そして、150億円を費やし、3年後の2010年に終了した。

このプロジェクトは失敗だったことは、いまの日本の現状を見れば、おわかりの通りだ。一方で、Googleは、検索サービスをきっかけに、様々な事業を立ち上げ、巨大企業となっている。この辺りの顛末や、その事情などについては、いろいろな方が、意見を述べられているの、ここでの詳述は差し控える。

ただ、私が思うに、根底にあるのは、「情熱」があったか、なかったかじゃないかと思っている。

Googleの使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることです。

自分たちの取り組みの意味や意義を信じ、そこにやり甲斐を見出し、愚直に突き詰めようとしたGoogleのエンジニアの想いと、150億円の予算が付いたので、それを使わない手はないと集まった企業で、仕事としてやらされた人たちの想いの差は、決定的な違いがあったであろうことは、想像に難くない。

それはスキルのあるなしの問題ではなく、何としてでも、やり遂げる情熱であり、それができなくては、自分たちの会社がなくなってしまうという、背水の陣の思いで向きあった人たちと、予算を消化することやその事務処理に残業を強いられた疲労困憊の人たちの違いであろう。「情報大航海プロジェクト」を企画した人たちには、「このままでは大変なことになる。何とかしなければ!」の情熱があったに違いない。でも、それを実践する人たちとは、共有できなかったのかもしれない。新規事業は、そんな情熱なくして、なかなかうまくいくことはないだろう。

講演の話しに戻ろう。流石に、「うまくいくはずがない」と言いっぱなしでは、流石に失礼なので、次のようにアドバイスした。

「コンソーシアムを作られることは、とてもいいことだと思います。ただ、コンソーシアムで、どんな新規事業を立ち上げようかと議論として、みんなで一緒に取り組もうというのは辞めた方がいいと思います。『船頭多くして船山に上る』ことになりかねませんし、仮に収益が上がったときに、それをどう配分するかもなかなか難しい話になります。それよりも、参加される企業がそれぞれに、何としてでも取り組みたいことがあれば、それを自らの責任で、自らの投資で取り組み、足りないリソースがあれば、コンソーシアムのメンバーに求めるとか、コンソーシアムで競い合って、コンテストのようなやり方をするというのはいいかもしれません。あるいは、地元の大学生や個人、あるいはベンチャーから公募して、コンソーシアムメンバーが、オークションで資金提供や開発支援を申し出るなどの方が、成功の可能性があると思います。」

新しい事業に取り組むことへの情熱をどうすれば、引き出せるかであろう。スキルなど、必要とあれば外から持ってくればいいし、ツールやサービスも、必要とあれば手に入る時代だ。しかし、情熱だけは、そうはいかない。

その後、新しい事業が立ち上がったという話しは聞こえてこない。いや、こんなことを言ってしまったので、その後に、お呼びもかからないので、私が知らないだけかも知れない(笑)。

大企業もまた、新規事業への思いは強い。デジタル化やDXなる言葉がバズワードとなり、世間は大騒ぎだからなおさらだ。このままでは大変なことになると、想いを募らせる経営者も少なくない。ならば、情熱の力をどうすれば引き出せるのだろうか。私も、ぜひ知りたいと思っている。

ならば、教えてもらおうと思い立ち、12/16(水)、私が主宰するITソリューション塾・第35にて、クレディセゾン取締役兼常務執行役員CTOを務めている小野和俊さんとSAPジャパン代表から転身し富士通の執行役員常務 CIO CDXO(最高デジタル変革責任者)補佐に転身した福田譲さんをお招きして、「日本の大企業にデジタルの風を吹き込むには」というタイトルで、お話を伺い、対談して頂くことにした。

今期の塾生には、そんな私の好奇心にお付き合いして頂くことになるわけだが、かなりラッキーだと思うぞ(笑)。

ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー

【10月度のコンテンツを更新しました】
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・DXについてのプレゼンテーションを大幅に充実させました!
・DXについてのコンテンツを大幅拡充
・DXを説明するためのパッケージ「DXの基礎」を新規作成 
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講義・研修パッケージ
【新規】デジタル・トランスフォーメーションの基本
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【改訂】総集編 2020年10月版・最新の資料を反映(2部構成)。
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ビジネス戦略編
【改訂】デジタル化によって生みだされる2つのビジネス領域 p.4
【新規】ビジネス発展のサイクル/デジタル化領域の拡大 p.5
【新規】ビジネス発展のサイクル/体験・感性価値の提供 p.6
【新規】「平安好医生」からの学び p.8
【新規】デジタル技術を前提にした新しい保険ビジネスの登場 p.9
【新規】事例から戦略を読み解く p.10
【新規】UI/UXとは何か p.14
【新規】DXとは何か p.15
【新規】DXを実践するとは何をすることか p.16
【新規】2つのデジタル化:デジタイゼーションとデジタライゼーション p.25
【改訂】デジタル化と変革 p.26
【新規】デジタルとデジタル化とDXの関係 p.27
【新規】DXはどんな世界を目指すのか p.31
【改訂】DXを支えるテクノロジー・トライアングル p.32
【新規】DXとテクノロジー・トライアングルの関係 p.33
【新規】DXのまとめ p.43
【新規】DXの実現に立ちはだかる課題 p.62
【改訂】DXと企業文化とアーキテクチャ p.64
【改訂】ハイパーコンペティションに対処する2つのアプローチ p.74
【改訂】ハイパーコンペティションに対処する適応力 p.75
【改訂】ハイパーコンペティションに対処する革新力 p.76
【新規】デジタル・トランスフォーメーションの定義 p.77
【新規】デジタル・ビジネス・トランスフォーメーションの定義 p.78
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションの2つの解釈 p.79
【改訂】デジタル・ビジネス・トランスフォーメーションの解釈 p.81
【新規】DXの常識とDXの実現 p.82
【新規】DXと個人と組織 p.140
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】IoTの未来 p.16
【新規】「モノのサービス化」の構造 p.49
【新規】ビジネス価値の比較 p.50
【新規】ビジネス価値のシフト p.51
【新規】自動車/移動ビジネスの3つの戦略 p.52
【新規】属性データと行動データ p.53
【新規】データとモノ/コト・ビジネスの関係 p.54
【新規】タッチポイントの役割分担 p.55
【新規】モノ・コト・体験 p.56
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】コンピュータがコンピュータを作る時代 p.16
【新規】AIの役割と人間の関係 p.17
【新規】データサイエンティストの定義 p.125
【新規】データサイエンスの適用事例 p.126
【新規】データサイエンティスト業務を整理したタスクリスト p.127
【新規】データサイエンティストの業務 p.128
クラウド・コンピューティング編
【新規】クラウド・サービスの狙い p.18
【新規】ハイブリッド・クラウドとマルチ・クラウド p.61
【新規】クラウドの3つの価値 p.89
ITインフラとプラットフォーム編
【新規】セキュリティについての考え方の変化 p.102
【新規】攻撃サービスの低価格化と攻撃機会の増加p.103
【改訂】リスク・マネージメントの考え方 p.104
【新規】サイバー・ハイジーンp.106
【新規】サイバーセキュリティ経営ガイドライン p.107
【新規】トラストとは何か p.110
【新規】共有パスワードを使った暗号化にトラストはない p.111
【新規】ゼロ トラスト ネットワークとは何か p.112
【新規】ローカルブレイクアウト - マイクロセグメンテーションの効率化 p.115
【新規】ゼロトラストとネットワーク p.116
【改訂】ユーザーに意識させない・負担をかけないセキュリティ p.119
下記につきましては、変更はありません。
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