これからは〇〇ですね!という思考停止
「つまり、これからは、モノのサービス化で、サブスクリプションなんですね?」
ITのトレンドやビジネス戦略についての講演を終え、受講された方から、こんなコメントを頂いた。
「コマツのSmart Constructionやアドビのサブスクリプションの事例は、とても参考になりました。いま取り組んでいる新規事業でも活かせるかも知れません。」
いやいや、違いますよ。やっぱり、わかっていない。説明の仕方が悪かっただろうか?本質は、そこではありません。
コマツは建設機械で優れた製品を提供し続け、世界的にも大きなシェアを持っています。それを支える製品開発力もさることながら、他社に先駆けて取り組んだKOMTRAX は、自社の製品にGPSやセンサーを標準搭載し、それらをネットでつないで、世界中にある数十万台の自社機械の稼働管理を行っています。どの機械がどの場所にあって、エンジンが動いているか止まっているか、燃料がどれだけ残っているか、昨日何時間仕事をしたか、すべてがコマツのオフィスで分かる仕組みを構築していました。そのために会社の利益の2%を使うという決断をしたのです。そういうサービス基盤と圧倒的な製品力があったからこそ、Smart Constructionというモノのサービス化の典型とも言えるサービスが実現し、業績を牽引しているわけです。
アドビにしても同じことで、プロのクリエイターにしてみれば、Photoshopという、他の製品にはない圧倒的な製品力があったからこそ、サブスクリプションがうまくいったのです。
モノのサービス化もサブスクリプションも、その前提として、他社を凌駕する製品力があったからこその成功であって、提供の仕方や売り方を時流に合わせたことで、ビジネスが成功したわけではないのです。
Smart Constructionの実現に取り組んだ責任者の方に、伺った話ですが、モノのサービス化だとか、IoTだとかの実現に取り組んだ訳ではなく、建設需要の増大にもかかわらず、ベテラン職人の高齢化や若者人口が減少し、需要を満たすことができない建設現場を何とかしたいとの想いから、実現に取り組んだと言うことでした。それが、結果として、モノのサービス化やIoTの成功事例として、後付けで言われるようになっただけのことなのです。
成功の要因は、切実な顧客の課題に真正面から向きあったこと、そして、それを支える圧倒的な製品力と技術力の土台があったからです。売り方は、技術の進化に合わせて、顧客にとって、最もふさわしいいまの最適を提供しただけであって、売り方だけで、成功したわけではないのです。
AIやIoTを使って、新しいビジネスを立ち上げたい。プラットフォーム・サービスを提供しサブスクリプションで収益の安定確保を実現したい。
それが間違っているわけではないと思いますが、それがいかなるお客様の課題を解決するのか、新しい需要を生みだすのか、それを可能にする機能や性能、あるいは製品力はあるのか。それを突き詰めずして、テクノロジーや売り方だけを時流に合わせたところで、うまくいくわけはなのいのです。
DXだってそうです。DXをやるだとか、実践するだとか、そんなことはどうでも良く、不確実性が常態化するいまの時代に企業が生き残り、成長するには、デジタル時代の新しい常識を前提に企業文化や風土を変革しなければ、なりません。それを愚直に実践し、結果として体現された姿が、DXということなのでしょう。
誰かが作った言葉を使って「成功の方程式はこれだ!」とか、「これからはDXを実践する必要がある」なんて、言うのではなく、もっと地に着いた、そして、目の前にあるお客様の課題やあるべき姿と真摯に向き合うべきではないかと思うのです。
新しいテクノロジーや他社の成功事例は、そんな自分たちのやろうとすることを考える上では、役立つでしょう。しかし、そんな本質に向きあうことなく、新しいテクノロジーを使うことや他社事例を真似ることに、躍起になるのは如何なものでしょうか。唯一意味があるとすれば、時流に乗って仕事をやっているぽい姿を世間にアピールする程度のことでしかありません。