おっしゃることはよく分かるのですが・・・
「おっしゃることは、よく分かるのですが、自分がやるとなると簡単なことではありません。どうすればいいのでしょうか。」
あるIT企業で、テクノロジーのトレンドと求められる人材といったテーマで講演をした時、このような質問を頂いた。
「そんなことは、自分で考えてください。」
そう申し上げたいところではあるが、これではあまりにも冷たすぎる。
「大変だからこそ、できる人とできない人の格差があるのです。あなたがどちらに人になりたいかは、あなたが決めるしかありません。できる人になりたければ、大変であっても行動しなくてはなりません。会社やまわりが、あなたのために、至れり尽くせりで、頑張っても、あなたに、行動しようという気持ちがなければ、何も変わりません。そもそも、あなたのために、至れり尽くせりなんてことはありませんから、そんなことを期待しても意味がありません。あなたが、よく分かったとおっしゃるのなら、行動するかしないかですよ。それは、あなた自身が決めることだと思います。」
これは、ちょっとやり過ぎだろうか(笑)。
こういう質問を頂くのは、この会社だけではない。同様の質問を頂くことがよくあるのだが、いつも回答に苦慮している。
「ジャンルを問わず、沢山の本を読むことです。限られた人生の時間の中で、沢山の人たちの人生を体験できるなんて、素晴らしいことだと思います。」
「おっしゃることは、よく分かるのですが、簡単なことではありません。どうすればいいのでしょうか。」
「言葉を知っているからといって、理解していると言うことにはなりませんよ。単語の羅列や箇条書きではなく、文章にしてみることです。文章にすることで、意味やつながり、つまり言葉の論理がつながってゆきます。全体の関係や構造がはっきりします。それこそが、理解すると言うことです。そういう経験を積み上げることが、ものごとを知るためには大切なのだと思います。」
「おっしゃることは、よく分かるのですが、簡単なことではありません。どうすればいいのでしょうか。」
「何事を行うにも、まずは自分への投資のための時間を作ることです。おすすめは、朝の時間ですね。仕事の前に、他の人たちよりも早く出社するとか、始業前に会社の近くのカフェで過ごすのもいいかもしれません。夕方は疲れているし、残業することもありますから、毎日決まった自分のための時間を作ることは、なかなか大変です。でも、何事を行うにも、そういう時間が必要なんですよ。」
「おっしゃることは、よく分かるのですが、簡単なことではありません。どうすればいいのでしょうか。」
結局は、自分で答えを見つけて、自分で解決するしかない。
「おっしゃることは、よく分かるのですが、簡単なことではありません。どうすればいいのでしょうか。」
残念ながら、その答えは、私には分からない。だからとても困ってしまう。ならばこうすればいい、ああすればいいと言っても、「はい分かりました。頑張ります。」という定型文を返すことしかできないだろうし、その通り行動する人は、まずいないだろう。そもそも、話しを聞いて、そういうことか、やってみようという人は、こんな質問をするはずがないからだ。
講義や講演で質問を頂くのは、大歓迎だ。しかし、自分の質問への回答が、どのようなものになるのかを想像して質問して欲しい。自分の考えとは違う回答があれば、それは儲けものだ。思った通りだとしても、自分の考えに自信を持つことができるから、これはとても意味がある。しかし、答えの期待もなく、講師も困る答えようのない質問は、自分を惨めにするだけに終わってしまう。
それでも、質問することは無条件に素晴らしい。だから、このような質問も歓迎する。ただ、講師の回答から学んで欲しい。そして、二度と同じ質問はしないと、心に誓って欲しい。そうやって、自分の質問の質を高めてゆくことを心がけてゆくことが、自らを成長させる原動力になる。
「おっしゃることは、よく分かるのですが、簡単なことではありません。どうすればいいのでしょうか。」