営業は「最善」ではなく「最適」を目指せ
営業の仕事は、今も昔も変わることはない。それは、お客様の「最適」を実現するプロデュサーであろう。
「最適」であって「最善」ではない。使える予算も違うし、これまでどのようなやり方をしてきたかの歴史も違う。世間が評する「最善」は、担当するお客様に取っても「最善」であるとは限らないからだ。
「最適」を導く基本は、自社の製品やサービスにこだわらないことだ。営業としての数字を一旦、棚上げし、お客様の過去、現在、未来に向き合うことからはじめなくてはならない。
過去:共感と承認
いまこのような状況にあるのは、そうなった歴史があるからだ。どうしてこうなっているのかについて、まずは真摯に耳を傾けること。批判や否定をせずに、彼らに共感し、承認すること。そうすれば、お客様は心を開き、対等に話ができる関係が築ける。
現在:現状と課題
過去の結果としていまがあるとしても、そこに課題があるならば、それを正直に伝えることだ。こんなことを言っていいものか、失礼になるのではないかと言葉を濁してはいけない。率直に言葉にすることです。時には相手のタブーにも切り込まなければならないこともある。第三者の営業だからこそ、それができるという自覚を持つことだ。もちろん礼儀をわきまえることは言うまでもない。
相手がその話しを聞いて、「なんと無礼なヤツだ」と感じるか「よくぞ言ってくれた、ありがたいことだ」と感じるかの違いは、前段で申し上げた「過去への共感と承認」があることと、あなたにプロとしての威厳や見識があることが前提となる。
未来:あるべき姿と解決策
「あるべき姿」とは、結果としてこうなっていたいというゴールのイメージだ。例えば次のようなことになる。
- この分野では世界一になる
- 誰もが就職したい憧れの企業になる
- お客様が絶対に手放したくない企業になる
営業は、相手の話を聞き、対話と議論を重ね、徹底して考察し、「あるべき姿」を見つけ出し、提言し、そこに至る解決策の物語を語れなくてはならない。
未来だけを訴えても、なかなか受け入れてもらうことはできない。一方、過去に共感し、現状を語ることはできても、未来を示さなければ、相手を幸せにすることはできない。過去にも現在にも未来にも、それぞれに丁寧に寄り添い、必要に応じて行き来する。営業はお客様をそんなタイム・トラベルにお連れする添乗員でなくてはならない。
そんな関係を築く中で、お客様の現状も、本音も見えてくる。それがあって、「最適」は、両者の合意として、見えてくるだろう。
ただ、「最適」は、「諦め」でも「妥協」でもない。未来の「あるべき姿」へ到る現時点での最適なルートだ。「あるべき姿」は理想であり、容易に実現できないかも知れない。だからといって、それを諦めるのではなく、どうすれば、そこに行き着くことができるかを過去、現在を考えて、いまできる最適な道を描くことである。
営業の役割は、「あるべき姿」は何かを、お客様に教える教師である。そして、そこに至る課題を解決するための方法を示すアドバイザーである。そして、自社の提供する製品やサービスを提供して、「あるべき姿」に行き着く道を共に歩み、成功に至らしめるプロデューサーである。
冒頭、自社の製品やサービスにこだわらないことだと申し上げたが、「あるべき姿」に到る最適なルートを示すときに、前提を廃止して一番のやり方を見つけるためだ。お客様が手に入れたいのは、「あるべき姿」であって、あなたの会社の製品やサービスではない。だからこそ、まずは、お客様の気持ちに寄り添うために、自社の製品やサービスのしがらみから離れる必要がある。
結果として、自社の製品やサービスが、ふさわしくなければ、その案件はナシである。あるいは、他社との組合せで、解決策を見つけられるのであれば、それも一策であろう。もちろん、自社の製品やサービスで実現できるのであれば、それを提案すればいい。
例え、その時はナシになっても気にすることはない。そこまで誠実に向きあってくれた営業には、きっとまた声がかかる。そんなお客様との関係をたくさん作っていけば、案件に困ることはない。
それでも、自社の製品やサービスが売れない、すなわち数字にならないとすれば、それはあなたの責任ではない。会社の製品やサービスの品揃えが悪いのだ。ふさわしい品揃えをするように、会社に求めるべきだろう。
もうひとつ、営業は商品やサービスを売ることを目標にしてはいけない。会社は、その数字を求めるが、それは結果である。お客様の「あるべき姿」を実現することをプロデュースし、必要な支援を提供する結果として、数字はついてくる。そういう関係をお客様と築くことができなければ、お客様からの信頼は得られず、リピートや新たな相談は、得られないだろう。
だからといって、数字への執着がなくなれば、それは営業失格だ。数字が足りなければ、お客様との良い関係を築く努力を普段から怠らないことだ。それが営業の頑張り所だ。それができれば、数字は自ずとついてくる。数字に一喜一憂することもない。
「お客様の最適を実現するプロデュサー」とは、そんな仕事なのだと思う。