Excelで、何かできないのか?!
「Excelで、何かできないのか?!」
もし、あなたが、経営者から、突然、そう言われたら、どう反応するだろう?
「えっ、Excelですか?そりゃ、いろいろできますけど・・・」
「Excelだったら、もう使っていますし、何かできないのかと言われましても・・・」
「そういえば、『たった1日で即戦力になるExcelの教科書』という本が出ましたから、それを買って、何ができるか勉強します。」
いずれにしても、言われた方は、大いに困惑するに違いない。
この"Excel"を"AI"に置き換えてみてはどうだろうか。
「AIで、何かできないのか?!」
これもまた、大いに困惑する。AIについては、Excelほどになじみはないので、まずはAIとは何かを勉強することから、始める人もいるだろう。しかし、結局のところ、「困惑」が解消されるわけではない。
では、"AI"を"DX"に置き換えてみてはどうだろう。
「DXで、何かできないのか?!」
まだまだ、世間は、この程度の理解がまかり通っているようにみえる。
ここで、DXについての解釈を詳述するつもりはないが、最低限のコンセンサスを得るために簡単に述べておこう。
DXの目的は、不確実性が高まる社会にあっても、企業の存在意義/Purposeを貫くことである。そのためには、企業を存続させ、事業を成長させなくてはならない。自ずと、変化に俊敏に対処できる企業の文化や風土へと変革することが不可避となる。そうなれば、デジタル技術を駆使することは、必然の手段となる。
ただそれは、デジタル技術を手段として使えば、できるという簡単なことではない。デジタルがもはや前提となっている社会の新しい常識に合わせて、経営や事業のあり方を根本的に変えること、すなわち、ビジネスモデルやビジネスプロセスの「破壊・変革・創造」を行うことだ。DXは、デジタルを使うことよりも、多くのことをしなくてはならないのだ。DXとは、その結果としてもたらされる「あるべき姿」の体現に他ならない。
参考:DXの定義
Excelであれ、AIであれ、DXであれ、手段に過ぎない。そもそも、何を実現したいのか、何を解決したいのかが、先であり、それに最もふさわしい手段が、Excelであれば、それを使うことが、最善の策となる。ところが、どういうわけだか、手段を使うことが目的と化し、そのための取り組みが、盛んに行われる。例えば、AIやIoTでのPoC(Proof of Concept:事業概念の検証)などは、その典型だ。そして、多くは、業務の実践に結びつかずに終わる。
それは、業務上の目的が曖昧ないままに、機能や性能といった技術検証で終わってしまうからだろう。何を実現したいのか、何を解決したいのかがないのだから、仮説検証はできず、なるほどこんな機能があるのかで終わってしまう。
手段を目的にすることが悪いというわけではない。勉強にはなるだろう。しかし、その程度だと割り切る必要がある。
しかし、AIやDXで、なにかできないのかという経営者の言葉には、これで新規事業を立ち上げて欲しい、これで業務を改革して欲しい、という思惑がある。つまり、業績への貢献を期待するわけだ。しかし、受け取った側は、手段を使うことに置き換えて、解釈しようとする。それは、当然のことで、そちらの方が、カタチにするのは楽だからだ。経営や事業の課題を解決するとなると、大変なことになるので、そういうことには関わらないように、手段を使うカタチを作り、お披露目すればいい。それが、事業の成果に結びつくかどうかは、後で考えればいいということなのだろうか。
そもそも、経営者の指示が曖昧であることが、根本の問題である。手段を使うことを目的にするのではなく、経営や事業の課題を明確に示し、それにふさわしい手段は、現場にまかせるというのが、あるべき姿だ。しかし、どうも世間の流行に引きずられ、流行の言葉を使う。
「DXで、何かできないのか?!」
しかし、言葉だけを捉えるならば、次の言葉と何も変わりない。
「Excelで、何かできないのか?!」
当然に違和感と困惑がつきまとう。それをそのままに、分かりましたと受け入れてしまってはいないだろうか。率直に経営者に問いかけてみるべきだ。それぞれに、都合がいいように解釈し、お互いに期待する。こんなことでは、いつまで経っても、DXなんて、実践も定着もしないだろう。