デジタル・トランスフォーメーション 5/5・DXは何を変革するのか
DXの構造
「デジタル・トランスフォーメーション」を日本語にすれば、「デジタルを前提に変革する」となります。その主語は、事業主体である自分たち自身です。
DXとは何を変革することなのか
では、何を変革するのでしょうか。それは、自分たちの「ビジネス・プロセス」、「ビジネス・モデル」、「企業の文化や風土」です。具体的には、次のようなことになるでしょう。
- ビジネス・プロセス
- 業務プロセスのリストラ・スリム化
- 徹底したペーパーレス化
- 働く場所・時間の制約からの解放 など
- ビジネス・モデル
- 事業目標の再定義
- マーケット・顧客の再定義
- 収益構造の変革
- 売買からサブスクリプション
- 手段の提供から価値の提供 など
- 企業の風土や文化
- データ活用を重視する経営へのシフト
- 社内における「情報」の透明性を担保
- 戦略に応じた多様な業績評価基準の適用
- 階層的組織から自律的組織への転換
- 心理的安全性の確保
- 大幅な現場への権限委譲
- 時間管理から品質管理への転換
- 多様性を許容する企業風土の醸成 など
"デジタルを前提"とは何をすることなのか
デジタルを前提にするとは、その時代に最適なデジタル技術を当然のこととして取り入れ、ビジネス・プロセスやビジネス・モデルの魅力やコストパフォーマンスを高めることです。具体的には、次のようなことになるでしょう。
- クラウドの利用制限を撤廃
- コモディティな業務のクラウドへのシフト
- ゼロトラスト・ネットワークによるVPNやファイヤーウォールの撤廃
- 時代遅れ、無意味、生産性を損なうIT活用の撤廃 など
- クラウド・ネイティブの利用拡大
- 戦略的アプリケーションのクラウド・ネイティブへのシフト
- プラットフォーム・サービスの活用
- アジャイル開発やDevOpsの適用 など
- 組織の意志が直ちに反映されるITの実現
- 戦略的アプリケーションを中心に内製化の適用範囲を拡大
- ITに精通した経営幹部の配置 など
DXと企業文化
米国の法学者であり、クリエイティブ・コモンズの創設者であるハーバード大学法学教授のローレンス・レッシグ(Lawrence Lessing)は、彼の著書『CODE VERSION 2.0』にて、われわれの社会において、人のふるまいに影響を及ぼすものには、「法、規範、市場、アーキテクチャ」という4種類があると指摘しています。
- 法律:著作権法、名誉毀損法、わいせつ物規制法などは、違反者に罰則を課すことで影響を与えること。
- 規範:社会的常識やコンセンサス、他者が自分をどのように評価するかと言ったことで影響を与えること。
- 市場:製品の魅力や料金の高低、市場の評価やアクセス数などにより影響を与えること。
- アーキテクチャ:暗黙の決まり事であり、行動習慣などにより、影響を与えること。
レッシグは、本人が意識するしないにかかわらず、ふるまいを規制してしまうのが、「アーキテクチャ」であること、また、その規制力を放置しておけば限りなく大きくなってしまい、行き過ぎると、結果として自由が奪われ思考停止の状態となり、人々が無自覚に振る舞ってしまうことを指摘しています。
企業文化とはまさに企業に組み込まれたアーキテクチャです。つまり、あるインプットがあれば、どのようなアウトプットをするかの学習されたモデルであり、意識されることのない行動習慣です。
「営業活動とは、こういうやりかたが常識だ」や「この仕事は、この段取りで進めるのが当たり前だ」というのは、まさにアーキテクチャです。「いままでのやり方が一番いいが、デジタルを使えば、まだ改善の余地があるだろう」という考え方や、「いままでのやり方で、これからもなんとかなるだろう」との暗黙の了解もまた、アーキテクチャといえるでしょう。
DXは、そんなアーキテクチャ=企業文化を見直し、デジタル技術を前提に、いまの時代にふさわしい企業文化へと変革することなのです。
*連載完*