出入り禁止にしたい営業の3条件
「頻繁に営業の方がお越しになり、自分たちのサービスや製品を紹介してくれます。それはありがたいことなのですが、でも、こちらが何を必要としているか、どのようなことで困っているかなどの質問なしに、"我が社の商品は・・・"と話し始める人がほとんどです。どうすればいいでしょうか?」
彼女は、ある大手企業の情報システム部門の方でした。このような質問を頂いて、どう答えていいのか、大いに困りました。そして、つぎのように回答しました。
「自分たちの状況や今必要としていること、困っていることを3ページ程度の資料にまとめ、いつもそれを更新しておくというのはどうでしょう。そして、このような営業さんが来たら、"10分だけ、先に話をさせていただけませんか。まずは、うちの事情を紹介しますので。その上で、お話しいただけないでしょうか?"と言ってみてはどうでしょう。こうしておけば、常に自分たちの状況も整理しておけるし、相手にも効率よく事情を伝えられるし、一石二鳥ですよ。」
こんな回答をしておきながら、おかしなはなしだと思いました。そもそも、そんなことを気遣うことができない営業など、即座に出入り禁止にしたいところです。
そこであらためて、「私なら、こんな営業は、出入り禁止だ!」の条件を考えてみました。
1.自分のことばかり話して、こちらのことをいっこうに引き出そうとしない営業
お客さまは、貴方の会社や貴方の会社の商品やサービスに興味があるわけではありません。自分の「困った」を解決して欲しい、「こんなことをやりたい」を助けて欲しいのです。商品やサービスは手段に過ぎません。それを理解せず、あるいは、こちらの勝手な思い込みで、自分たちのできることばかりを説明し、お客さまの事情もお構いなしに「いかがでしょうか?」と聞かれても、応えようがありません。
また、お客さま自身が、自分の「困った」に気付いていないこともよくある話です。現状が整理できていない、あるいは、潜在的な課題に気付いていないこともあります。また、新しい法律や制度の改正、トレンドの変化が、お客さまの業種業態、業務にどのような変化を求めてくるのかを理解できていない場合もあるでしょう。そのことに気付かせてもあげず、自分達の自慢話をしても、相手にはなんのことやら分かりません。
どちらにしても、お客さまが必要性を感じ、自分の課題を解決したいという意欲を持たなければ、どんなすばらしいものであっても、「余計なお世話」であることに代わりがありません。お客さまにどのような課題があり、何を期待しているかを引き出し、それに応えてこそ、お互いの利害は一致します。
唐突に、しかもたっぷりと時間をかけて自己紹介をし、如何に自分はすばらしいかを蕩々と語り、「私は、貴方とおつきあいしたい、いやおつきあいすべきです。そうすれば、あなたは幸せになりますよ。」とたたみかける人と、私は、おつきあいしたいとは思いません。
ちゃんとこちらの話を聞いてくれる、いや、もう一歩踏み込んで、こちらの状況を引き出し、自分に代って整理整頓し、ならば、こういうやり方ではいかがでしょうと選択肢を示してくれる。ありがたいですね、そういう相手の話は、真剣に聞き入ってしまいます。
それができない営業は、自分にとって役に立たない存在です。時間の無駄ですから、出入り禁止にさせていだきます。
2.機能や性能のはなしばかりして、思想や目的を語らない営業
製品やサービスは、その前提となる業務プロセスがあって、そこに生ずる課題の解決や、今までできなかったことをできるようにしようと開発されたものです。当然、そこには、何らかの想定されるプロセス・モデルがあり、目的や思想があるはずです。
そのプロセス・モデルや思想、目的が、お客さまのそれと一致している、あるいは、近いものでなければ、それを使っても、なかなか効果を上げることはできないはずです。そのことに関心を示すことなく、我が商品は、他社にはない優れた機能や性能を持っていると語られても、「それで、いったいうちにとっては、どれほどの役に立つの?」と、考え込んでしまいます。
例えばパッケージ・ソフトウェアの場合、そこのあたりを曖昧なままに、システムを導入する。当然、ギャップがありますから、そこを埋めようと、カスタマイズで何とかその場はつじつまを合わせて、使ってもらう。しかし、そもそもの思想や目的、プロセス・モデルが違うわけですから、使い込めば使い込むほどに、あるいはパッケージのバージョンアップが進むほどに、そのギャップは拡大し、カスタマイズもどんどん増えてゆきます。そのうちもはやカスタマイズもできないほどに開きが出てしまう。そういう塩漬けシステムを世間ではよく見かけます。
プロセス・モデルや思想、目的を正しく理解すれば、それに業務を合わせることもできない話ではありません。あるいは、その範囲でシステムを使おうとするはずです。
お客さまは、何でもできる、世界最高、最も安いを求めているわけではありません。自分の業務の課題を解決できるかどうかです。これに応えるためには、機能や性能を訴えるのではなく、目的や思想を語り、お客さまの業務プロセスとの親和性を探る必要があります。そこに合意できない製品は、どんなに優れたものでも、余計なお世話なのです。
自分の商品やサービスの前提となるプロセス・モデルや思想、目的を熟知せず、ただ、表面的な機能や性能しか語れない営業の口車に乗ると、将来大きな不幸に遭遇するかもしれません。こんなやっかいな存在は、出入り禁止にさせていだきます。
3.すぐに自分たちの製品やサービスについて説明したがる営業
こちらの話しを聞いてくれる、あるいは、質問もしてくれる。なかなか良さそうと思っていると「ならば、こういう商品は、いかがでしょうか。」とすぐに切り出す営業がいます。ちょっと待ってくださいよと申し上げたい。そんなに簡単に、結論を出せるのでしょうか。これはもう、いい人と思わせるためのパフォーマンスとしての質問であり、本当は、そんなことはどうでも良くて、答えを最初から決めているとしか思えません。こう言う営業は、自分の成績しか頭にないのです。
まともな営業ならば、「なるほど、そういうことでお困りなんですね。確かに、うちの商品は使えるかもしれませんが、ちょっと考えさせてください。今日聞かせて頂いたことを整理し、どう対処すればいいか、検討してみます。一週間ほどお時間を頂きたいのですが、いかがでしょう?」と言うでしょう。もし、その必要はないとお客さまが、おっしゃるのならば、もはや相手に関心はなく、他を当たるべきなのです。
拙速に「ならば、この商品はいかがでしょう」と問いかけても、相手にその気がなければ、その説明をする営業にとっても、話を聞くお客さまにとっても時間の無駄です。
ノルマ達成のプレッシャーを抱え、少しでも多くの成約をとりたい気持ちはわからなくもありません。しかし、そう簡単に、答えが出るようなものではないはずです。その場限りで、売ればあとのおつきあいがないような商品なら、そんな悠長なことはいってられないと言うかもしれません。しかし、末永くおつきあいしてゆくお客さまに、これではあまりにも手前勝手というものでしょう。
自分の幸せにしか関心がない。こちらのことなど、お構いなしに、売りつけようとする態度。こんな営業とおつきあいして、幸せになれるはずがありません。こんな手前勝手な営業さんは、出入り禁止にさせていだきます。
もちろんこれ以外にもいろいろあります。例えば、身なりがみすぼらしく髪の毛がぼさぼさな営業、話していることに中身がないのにやたら元気がいい営業、なんでもうちが一番だと他社をさげすむ営業など、きりがありません。
ただ、この人達に共通していることは、想像力の欠如です。相手がどういう状況にあるのか、どうしてくれたらうれしいのか、相手は気持ち悪いと思わないだろうか、相手のプライドを傷つけてはいないだろうかなど、デリカシーのない人に共通に見られる特徴は、こういうことへの想像力の欠如です。思いやりや愛情の欠如と言い換えてもいいかもしれません。
もちろん、ひとはいつもこの通りうまくできるとは限りません。感情の高ぶり、予期せぬ反応への困惑、こちらの手札や準備の不足など、完璧などありません。ただ、お客さまに喜んでもらいたい、お客さまの成功をお手伝いしたいという意欲と愛情があれば、多少の失敗は、理解してもらえるものです。
挨拶もそこそこに、"我が社の商品は"と語り出す人に、このような愛情を期待することはできません。即刻ご退場いただくのが、御社のため、いや自分のためというものです。
コロナ禍でオンラインでの営業活動も必要となっています。お客様にしてみれば、断ることも、途中で話しを切り上げることも、これまでに無く簡単になり、よほど魅力的な話しでなければ、十分には聞いてもらえなくなりました。そんなときこそ、この3つの条件を思い返していただくと、解決策が見えてくるかも知れませんよ。