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「社内で闘い勝つ」ことが達成感であるということへの違和感

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とある大手SI事業者の新入社員研修でのこと。営業職の先輩社員が、営業としての心構えや経験を語ってくれた。

大変な仕事ではあるが、大変だからこそやり甲斐がある。お客様のために、知恵を絞り、苦労して案件を勝ち取ったときの喜びは、営業の醍醐味。営業は、楽しい。

とても爽やかで気持ちの良い話しだった。営業職を目指す新入社員研修たちの心にも響いたに違いない。

そんな話しを聞きながら、少し気になることがあった。それは、社内でのやり取りについてだ。社内リソースの確保、様々な手続き、前例のない取り組みへのトップの承認など、社内の様々な難題と闘って案件を勝ち取ったという話しだ。

私もまた現役の頃には、同様の経験をしたし、そのことを誇らしいとさえ思っている。そして、我が国の多くの企業で働く人も同様の感覚を持つのではないかと思う。それは、何も営業だけではなく、様々な部門で同様の達成感を感じている人たちは多いに違いない。

ただ、そのことは、保守的な経営者や幹部と革新的な現場とが、対立関係の構図あるということを、図らずも浮かび上がらせている。

新しいことにチャレンジし、お客様のためになることを実現しようとするとき、なぜ社内と闘わなくてはならないのだろうか。「社内で闘い勝つ」ことが達成感であるとすれば、それは残念なエネルギーの使い方のように思える。

イノベーションを起こし続けるベンチャーの経営者たち、あるいはそこで働くひとたちと話をすると、このような感覚を感じることは少ない。確かに、彼らもまた闘っている。既存の常識や制度、理解できない人の説得、その他様々な障害を乗り越えるために、並々ならぬエネルギーを費やしている。しかし、社内での交渉や説得、手続きで闘っていると言うこととは違う。

もちろん企業規模も、歴史も違うから、その善し悪しをどうこう言いたいわけではない。そういうことではなく、こういう時間やエネルギーの使い方が、ビジネス・スピードの足かせとなり、イノベーションを生みだすことを妨げているのではないかと言うことに、もっと関心を持ってもいいのではないかということだ。

この現実を物語っている象徴的制度が「稟議」であろう。常識を逸脱しないように、あるいは、リスクを見つけ出して、すこしでもこれを排除するようにと議論する。健全な事業経営を維持しようとするためには、必要だとの考えに、私も同意する。

ただ、イノベーションや新しいことへの取り組みは、常識を逸脱することであり、リスクを受け入れることができなくては進まない。それでも何とかしなければとの強い意志と理想があるからこそ、社内で戦い勝ち取らなければならない。これこそが、残念なエネルギーの使い方ではないのかと感じている所以だ。

既存を維持すること、あるいは、継続的なイノベーションを生みだし続けるには、既存のやり方の延長線上でもいいように思う。しかし、不連続で、破壊的なイノベーションを望むとすれば、組織的にも意志決定のプロセスにしても、分けるべきだろう。後者を既存の枠組みの中で解決しようとするから、「社内で闘い勝つ」必要があるのではないか。それが達成感であると感じるのは、お客様からの感謝の言葉であり、競合を排除したことの喜びがあるからだ。しかし、そんな苦労をしなくても、同様の結果を得られるとすれば、それに越したことはないように思う。

イノベーション研究の第一人者である、米ハーバード大学のマイケル・タッシュマン教授が米スタンフォード大学のチャールズ・オレアリー教授とともに、2004年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』に「両利きの組織体制」の構築を提案している。早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授が、これについて、わかりやすいまとめをしているので、紹介しておこう。

たとえば、新規開発を担うチームは、既存の開発部門の下に置かれることが多いはずです。しかし、その開発部長は他の既存部門との予算獲得競争にさらされることも多く、そして往々にして、いま目に見える成果の出ている「知の深化」型の既存部門に予算が割かれてしまいがちです。これはコンピテンシー・トラップの遠因になっているかもしれません。

このような事態を避けるため、経営者には3つの「両利きのリーダーシップ」が求められる、とタッシュマン教授たちは説きます。それは(1)自社の定義する「ビジネスの範囲」を狭めず、多様な可能性を探求できる広い企業アイデンティティーを持つこと、(2)「知の探索」部門と「知の深化」部門の予算対立のバランスは経営者自身が取ること、(3)そして「知の探索」部門と「知の深化」部門の間で異なるルール・評価基準を取ることを厭わないこと、だと述べています。

詳細については、「両利きの経営」に詳しく述べられているので、ご覧頂きたい。

誤解のないように申し上げたいのだが、「社内で闘い勝つ」ことが間違っているとか、意味がないとか言いたいわけではない。既存の枠組みの中であれば、ひとつの成功であり、大いに誇るべきことだ。しかし、もしそのためのエネルギーを他のことに使うことができたら、もっとスピードは上がるだろうし、新しいことや、お客様に感謝されることのために、そのエネルギーを振り向けることができるのではないか。

これは、現場の問題ではない。経営者の問題だ。そのことを問い直してみる必要があるように思う。

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