なぜ、君たちはITトレンドを学ぶのか(8)研修担当者へのガイド
「即戦力に育てたいというお気持ちは分かります。でもクラウドと仮想化の違い、サーバーレスやコンテナ、AIと機械学習、ゼロ・トラストや5Gなどについて何も教えず、それでお客様との話題についてゆけるのでしょうか?」
研修担当の皆さんは、コロナ対応に奔走されていることと思います。思うように研修が進められず、内容も大幅に変更しなくてはならないかもしれません。しかし、こういう最新のトレンドだけは、何を置いても、しっかりと教えなければ、なりません。
昨日のブログ「Afterコロナは来ない!私たちは、Withコロナの時代を生きる」に書いたとおり、COVID19とは、これから長い付き合いが続きます。そして、そのことは同時に、私たちの働き方の常識も変えてしまうことになるでしょう。
米国においても2003年に狂牛病が発生した事に伴い、日本は2005年末まで米国産牛肉の輸入を禁止しました。米国産の牛肉に頼っていた「吉野屋」は、唯一の商品であった牛丼を提供できなくなり、苦肉の策で、牛丼に代わる豚丼や鳥丼などの新しいメニューを開発し、なんとか持ちこたえたことを覚えている方も多いでしょう。その後、輸入が再開され牛丼が販売できるようになっても、その時作られたメニューは残り、いまでは、牛丼以外にも様々なメニューを提供するようになっています。
コロナ・パンデミックでの緊急対応としてとられた措置、例えば、リモートワークやリモート研修、クラウド・シフトの拡大と加速、ゼロ・トラスト・ネットワークの普及と言った取り組みは、これからの働き方を大きく変えてしまいます。そして、求められる知識やスキルも変わってしまいます。
そんな時代の新入社員が、ほとんどがこのようなテーマに触れる機会がないままに現場に送り出されているとすれば、これはなんともゆゆしき時代です。
「そんなことは、現場に出て自分で勉強すればいい」
確かに、テクノロジーの変遷は、留まることはありません。当然、自助努力は必要です。しかし、ゼロから100を自助努力に期待するというのは、いかがなものでしょうか。また、どうやって「自助努力」すれば良いかを伝え、道筋を示すことも大切です。
「情報処理の基礎は教えています。」
コンピューターを構成する五大装置、処理の流れ、コンピューターの結合と処理方式、データベースの仕組みなど、新しいことを学ぶにしてもまずは学ぶべき大切な基礎知識です。しかし、多くがここで終わってしまいます。30年前の常識と最新テクノロジートとのギャップがあまりにも大きすぎます。それを「自助努力」だけで埋めろというのは、無理があります。
「現場で先輩達から教えさせています。」
自分の担当する仕事の範疇なら期待できます。しかし、ITビジネスの実相は、これから大きく変わるでしょう。担当している商材や彼らのやり方だけで、新しいビジネスを切り開けるとはとても思えません。むしろ過去の成功のバイアスに新人達が翻弄され、自助努力の道筋を見誤ることも危惧されます。
なにも先輩達に期待しても無駄だというのではなく、誰の下で働くによるばらつきが出てしまうことが問題なのです。本来、新入社員研修とは、顧客応対のマナーのばらつきを排除することであり、現場実践に必要な基礎的な知識や能力の一定の底上げを図ることです。「先輩に任せる」とはその大切な部分を放棄するということに他なりません。また、先輩達も新しいトレンドについて行けず、どう教えれば良いか迷っているのではないでしょうか。
では、どうすれば良いのでしょうか。
トレンドを学ぶことの意義や価値を理解させる
「営業は、お客様の3年後に責任を持たなければなりません。」
新入社員向けのITトレンド研修の講師を務めるとき、必ず伝えるメッセージです。
「あなたが提案し採用されれば、そのシステムは、最低でも3年は使い続けられるでしょう。そのときにもちゃんと役割を果たし、時代に取り残されていないシステムを提供しなければなりません。あなたたちがこの仕事に就く以上、その責任を負うことになるのです。」
目先の利益や時代遅れのシステムを提案すれば、いずれはお客様にそっぽを向かれます。そうならないためには、テクノロジーのトレンドを理解しておかなくてはなりません。
「トレンド(trend)」という英語には、「時流」という日本語がふさわしいと思っています。ディスプレイに並ぶITのキーワードを脳みそにコピペして並べることではありません。なぜそのキーワードが生まれ、注目され、どのようにつながり、どこへ向かうのかといった「流れ」が「トレンド」なのです。この流れが分かれば、いまと未来が見えてきます。それを分かって提案するかしないかは大違いです。
こういう積み重ねがお客様の信頼を育てます。「すぐにやる」、「何でもやる」、「正確に間違えなくやる」ことも大切ですが、それだけしかできないとすれば「ただの良い人」に過ぎません。
「あのひとは良い人だが、未来を託す相談なんてできないよ。」
そんなことをお客様に言われてしまっては、大きな仕事など任せてもらえません。大きな仕事は、大きなプライドです。しかし、それは同時に大きな責任をとないます。それを成功させる努力も並大抵なことではないでしょう。だからこそ、成長のチャンスです。トレンドを理解できていなければ、そのきっかけさえつかめません。それほど、大切なことだと言うことを伝えなくてはならないのです。
体系的な最新トレンド研修を実施する
五大装置や処理の流れ、結合と処理方式など、基礎を学ばせることは大切なことです。しかし、その一連の基礎的要素が、スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスにどのように実装されているのでしょうか。POS端末、ATM端末、彼らが普段使っているノートPCにどのように実装されているのでしょうか。クラウドには、どのように実装されているのでしょうか。Gmail、Amazonや楽天のECサービス、チケットやホテルの予約システムを使うのは彼らの日常です。こんな日常に結びつけて伝えなければ、実感として伝わらないでしょう。
「実感」のない説明に説得力はありません。例えば、運転免許も持たず、運転できない自動車ディラーの営業が、お客様に「是非、買いたい」と言わせることができないように、ITもまた「実感」がなければ、自分達のこれからやろうという仕事に「実感」や「期待」を持つことはできません。
また、彼らがすぐに接するであろう「仮想化」とは何か、そして、クラウドとサーバーレス、コンテナとの関係、IoTとAIの関係、ゼロ・トラストの必然性を知らないままで、現場でお客様と会話ができるのでしょうか。
詳細に説明することはできなくても、「何のことを言っているのか」が分からなければ、お客様と応対することは難しいでしょう。それより心配なのは、お客様に会うことを「怖い」と思ってしまうことです。冗談のような話ですが、お客様に行けと言われていってみたものの、何を話しているのか分からないままに、だんだん仕事が怖くなり「社内ひきこもり」になっているという新人に会ったことがあります。
不安になり、何とかしようとガンバって自分で勉強しようという人が大半ではありますが、そういう彼らになんの武器も与えず、丸裸で前線に送り込むようでは、即戦力化は到底かないません。
「俯瞰的」、「体系的」、「歴史的」にトレンドについて伝えることです。特に歴史は大切です。新しいテクノロジーが生まれてきた背景には、歴史があるのです。その歴史の先に未来があるのです。今をその中に位置付けてこそ、そのテクノロジーがビジネスにどのような価値を与えるのかが理解できます。
人は知識を断片として記憶にとどめることはできません。「俯瞰的」、「体系的」、「歴史的」に物語を構成して、そこに位置付けることで記憶を作ることができます。トレンドはそういう物語でもあるのです。
「クラウド」や「仮想化」などのキーワードについて辞書のような解説に終始し、物語を伝えない研修でほんとうに受講者は理解できるのでしょうか。「やった」という事実だけのために講師料を払っているようでは受講者も可哀想です。
自助努力の仕方を教える
「朝の1時間、始業前に自分の時間を作りなさい。会社でも良い、近所のカフェでも構いません。誰にも邪魔されず勉強できる場所と時間を作ることです。そこで何を勉強するかを先に考えるのではなく、まずは時間と場をつくること。それが、いずれ大きな自分の財産になることに気付くと思いますよ。だまされたと思って、実行してみて下さい。朝のゴールデンタイムを作って下さい。」
私が、新入社員研修で必ず伝えているメッセージです。想いからではなくカタチから入れと伝えています。
先日、5年前に新入社員研修を受け持った営業と話をする機会がありました。彼は、それをずっと実行してきたそうです。そして、その意味がいまやっと分かったと話していました。
トレンドを勉強するのにどんな本を読めば良いか、どの雑誌を購読すべきか、どのサイトを見れば良いかといった質問をうけることがありますがあります。しかし、これに応えることは容易なことでありません。例えば、GitHubの使い方について詳しく知りたいというのであれば、答えようもあります。しかし、漠然と「どの本を読めば良いのか」に答えはありません。大切なことは、どうやって学ぶべきテーマを見つけ、どのように学ぶのかのやり方を教えることです。何を学ぶかではなく、どう学ぶかの術として、私は「朝のゴールデンタイム」を進めているのです。
「毎朝1時間勉強のために時間を取れば、毎週1日研修を受けているのと同じ。これを10年続ければ、2年間の大学院に通ったことと変わらない勉強時間が確保できます。」
会社が提供できる研修に限りがあるのは仕方がありません。だから自助努力が必要なことはいうまでもありません。ただ自助努力を日常の中に埋め込む方法を伝えることは、研修でもできることです。
また、いろいろなコミュニティや勉強会に参加し、経験や知恵のある人とつながることも役に立ちます。有志が無料でやっているものはいくらでもあります。
他にもいろいろとあります。いずれにしろ、何を学ぶかではなく、学ぶ習慣や機会の大切さ、そしてその実践のノウハウを伝えることです。
これからいままで以上のパラダイムシフトがやって来ます。それは、ビジネスの有り様を大きく変えてゆくはずです。そんな時代に社会人となった新人達に旧態依然とした知識だけを与え、これまでの常識に縛り付けるのはいかがなものでしょうか。自分達の役割をしっかりと悟らせ、新しいこと学ぶことに興味や喜びを感じ、自らも自助努力を惜しまない、そんな人材に育ててゆくための取り組みが、新入社員研修には必要なのではないかと思っています。
ITソリューション塾・第 34期(5月15日開講)の募集を開始
第34期の概要
「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」を軸に、その本
もはやセキャリティにファイヤー・ウォールもVPNもパスワード
こんな時代を背景に「デジタル・トランスフォーメーション」の潮
本塾では、そんな「いま」と「これから」をわかりやすく解説し、
特別講師
この塾では、実践ノウハウについても学んで頂くために、現場の実
- アジャイル開発とDevOpsの実践
- 戸田孝一郎 氏/戦略スタッフ・サービス 代表取締役
- ゼロトラスト・ネットワーク・セキュリティとビジネス戦略
- 河野省二 氏/日本マイクロソフト CSO
- 日本のIT産業のマーケティングの現状と"近"未来
- 庭山一郎 氏/シンフォニーマーケティング 代表取締役
お願い
参加のご意向がありましたらまずはメールでお知らせく
直ぐに定員を超えると思われますので、その場合に備えて参加枠を
実施要領
- 日程 初回2020年5月13日(水)~最終回7月22日(水)
- 毎週 18:30~20:30
- 回数 全10回+特別補講
- 定員 100名
- 会場 東京・市ヶ谷、およびオンライン(ライブと録画)
- 料金 90,000- (税込み 99,000)
「コレ1枚」シリーズの最新版 第2版から全面改訂
新しく、分かりやすく、かっこよく作り直しました
デジタル・トランスフォーメーション、ディープラーニング、モノのサービス化、MaaS、ブロックチェーン、量子コンピュータ、サーバーレス/FaaS、アジャイル開発とDevOps、マイクロサービス、コンテナなどなど 最新のキーワードをコレ1枚で解説
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デジタルってなぁに、何が変わるの、どうすればいいの?そんな問いにも簡潔な説明でお答えしています。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー
【4月度のコンテンツを更新しました】
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・以下のプレゼンテーション・パッケージを新規公開致しました。
> 2020年度・新入社員のための最新ITトレンドとこれからのビジネス と事前課題
>デジタル・トランスフォーメーション 基本の「き」
・ITソリューション塾・第33期(現在開催中)のプレゼンテーションと講義動画を更新
>これからの開発と運用
新規プレゼンテーション・パッケージ ======
【新規】2020年度・新入社員のための最新ITトレンドとこれからのビジネス
【新規】上記研修の事前課題
【新規】デジタル・トランスフォーメーション 基本の「き」
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【改訂】総集編 2020年4月版・最新の資料を反映しました。
【改訂】ITソリューション塾・プレゼンテーションと講義動画
>これからの開発と運用
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ビジネス戦略編
【改訂】DXとPurpose p.21
【改訂】Purpose:不確実な社会でもぶれることのない価値の根源 p.22
【新規】デジタル・トランスフォーメーションとは何か p.29
【新規】「何を?」変革するのか p.30
【新規】「"デジタル"を駆使する」とは、何をすることか p.31
【新規】「共創」とは、何をすることか p.32
【新規】NTTとトヨタ 「スマートシティプラットフォーム」を共同構築 p.62
【新規】「両利きの経営」とDX戦略(1) P.82
【新規】「両利きの経営」とDX戦略(2) P.83
【新規】学ぶべき領域 p.272
ITインフラとプラットフォーム編
【新規】サイバー・セキュリティ対策とは p.132
【新規】サイバー・セキュリティ対策の目的 p.133
【新規】サイバーセキュリティ対策の構造 p.134
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】機械学習の仕組み p.61
【新規】モデルとは何か p.62
【新規】人工知能と機械学習の関係 p.93
下記につきましては、変更はありません。
開発と運用編
サービス&アプリケーション・基本編
ITの歴史と最新のトレンド編
テクノロジー・トピックス編
クラウド・コンピューティング編
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT