「知ってるつもり」を「知っている」と勘違いしている残念な人たち
私が主宰するITソリューション塾では、毎回テーマ毎に事前課題をこなすよう受講者に求めています。受講者はSI事業者やITベンダーの営業やSE、ユーザー企業の情報システム部門の皆さんです。参考までに、「クラウド」の回の事前課題をご紹介します。
- 2018年6月7日、政府は「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」を決定し、政府情報システムは「クラウド・バイ・デフォルト原則(バイ・デフォルト[by default]とは「既定では」という意味)」とし、クラウド・サービスの利用を第一候補として検討を行うものとしました。既に民間企業の基幹業務システム、さらには銀行のシステムまでもがクラウド・サービスを利用すべく、取り組みを進めています。なぜいまこのような動き始まり、すすめられているのでしょうか。その理由を説明して下さい。
- 「クラウドとは仮想化をサービスとして提供する仕組みである。」。間違えではありませんが、それはクラウドの一部を説明しているに過ぎません。むしろいまクラウドは、コンテナやサーバーレスと紐付けされて語られることが多くなりました。なぜ、コンテナやサーバーレスなのでしょうか。それは、IT利用の在り方をどのように変えるのでしょうか。仮想化との違いを含めて、その理由を説明して下さい。
- 「クラウドはセキュリティが心配だから使えない」いまだ、このようなことを言う人たちがいます。しかし、もしそうであるのならば、政府や銀行がクラウドを積極的に使おうとするわけはありません。このような人たちの懸念を払拭するための「わかりやすい説明」を文章にまとめて下さい。
このような事前課題を差し上げているのは、いまの自分の知識や理解のレベルを確認していだくためです。「理解できない」、「分からない」は、仕方のないことだと思っています。しかし、「分からない」で済ますのではなく、調べ、考え、必ず答えを書くようにお願いしています。そうすることで、何が分かっていないのかを自覚することができ、講義を他人事ではなく自分事として受けとめる準備ができると考えているからです。
また、回答を単語の羅列や箇条書きではなく「文章」で書き出すように求めています。なぜなら、単語の羅列や箇条書きは簡便ですが、重大な弱点があるからです。それは、言葉の要素や概念のあいだに「論理」をつくれないことです。
羅列や箇条書きで、関係や構造を考えないまま書き出しだけでは、安易な達成感を味わってしまい、分かった気になってしまいます。当然そんな中途半場な知識では、人に何かを説明するにも筋の通った説明ができません。それが習慣化すると致命的だからです。
羅列や箇条書きではなく文章にすると、自分の理解の度合い、つまり論理を伴う理解の程度が「見える化」されます。例えば、論理がないと、唐突な展開になったり文意が通らなかったり、単調でつまらないものになってしまいます。文章にして「見える化」することで、はじめてそのことが分かります。だから羅列や箇条書きではなく文章にしてくだいとお願いしています。
ひとは「知っているつもり」に疑問を持たないままでいると、いつのまにか本当に「知っている」と思い込んでしまいます。そのほうが楽であり、プライドを保てることで心を平安に保てるからでしょう。しかし、営業であれ、エンジニアであれ、お客様に知識を提供することでお金を頂く仕事をしているわけですから、中途半端な知識しかないままに、相手に正しく説明できないとすれば、それはもう半分詐欺みたいなことで、いつかはお客様の信頼を失ってしまいます。そうなれば、仕事としても成果をあげられなくなり、お客様から会社からも評価されなくなってしまうでしょう。
だから、文章にして書き出してみることで、自分の知識を確認するという行為は、とても大切なことだと思っています。文章だけではなく絵にしてみる、人前で話してみるなど、自分の身体の外に「自分の知識」を吐き出すこと、つまりアウトプットすることが、自分の知識を客観視する機会を与え、何を知らないかを悟らせ、それを埋めるための動機付けを与えてくれるのだと思っています。
もちろん「完全」はありません。たとえ説明できなかったことが説明できるようになったとしても、それはいつまでたっても一部でしかありません。だからこそ、尽きぬ興味や関心が沸き起こってくるのです。そして、また新たな知識が積み上がっていくのだろうと思います。
その楽しさに気付いて頂く機会を提供することもITソリューション塾の役割だと思っているのですが、気付いて頂けているでしょうか。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
【11月度のコンテンツを更新しました】
・SI事業者・ITベンダーのための「デジタル・トランスフォーメーション・ビジネス・ガイド(PDF版)」を公開しました。
・最新・ITソリューション塾・第32期の講義資料と講義の動画(共に一部)を公開しました。
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総集編
【改訂】総集編 2019年11月版・最新の資料を反映しました。
パッケージ編
【新規】SI事業者・ITベンダーのための「デジタル・トランスフォーメーション・ビジネス・ガイド(PDF版)」
ITソリューション塾(第32期に更新中)
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションの本質と「共創」戦略
【改訂】ソフトウェア化するITインフラ
【改訂】新しいビジネス基盤 IoT
【改訂】人に寄り添うITを実現するAI
動画セミナー・ITソリューション塾(第32期に更新中)
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションの本質と「共創」戦略
【改訂】ソフトウェア化するITインフラ
【改訂】新しいビジネス基盤 IoT
【改訂】人に寄り添うITを実現するAI
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ビジネス戦略編
【新規】DXとは何か? p.3
【新規】OMO Online Merges Offline p.7
【改訂】コレ1枚でわかる最新ITトレンド p.12
【新規】何のためのDXなのか p.20
【新規】Data Virtuous Cycle : DXの基盤 p.24
【新規】デジタル・トランスフォーメーションのBefore/After p.38
【新規】Before DX / After DX におけるIT投資の考え方 p.40
【新規】何をすればいいのか? p.105
【新規】目利き力 p.165
【新規】DXとは何をすることか p.166
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】CPSのサイクル p.19
【新規】IoTによってもたらされる5つの価値 p.21
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】「学習と推論の役割分担 p.81
【新規】Whyから始めよ p.118
【新規】人間と機械の役割分担 p.119
クラウド・コンピューティング編
【新規】銀行勘定系 クラウド化拡大 p.30
【改訂】米国政府の動き p.32
【新規】メガクラウド・ベンダーの内製化支援プログラム p.33
【新規】クラウド・ネイティブとは p.130
【新規】システムの役割とこれからのトレンド p.131
開発と運用編
【新規】改善の原則:ECRS p.5
【新規】システム構築事例 :オンライン・サービス事業者 p.7
【改訂】ワークロードとライフ・タイム p.8
【新規】ウォーターフォール開発とアジャイル開発の違い p.9
テクノロジー・トピックス編
【新規】Apple A13 Bionic p.21
【新規】ARMのAI向けIPコア p.33
【新規】GPUの内部はマッシブ・パラレル型 p.62
下記につきましては、変更はありません。
・ITインフラとプラットフォーム編
・サービス&アプリケーション・基本編
・ITの歴史と最新のトレンド編