「指示待ち人間の増加」と「人材の流出」は同じ根っ子
彼は、エンジニアの人材育成プランを作り直すように社長から命じられていた。私は彼の試案を拝見して、なんとも残念に思った。
- 何も変わっていない
- 時間をかけすぎている
- 世の中の現実が見えていない
結局は、ウォータフォール型の案件を受託するための前提となるPMBOKやITILなどの資格取得が前提であり、技術者の視野を広げスキルを向上させるような内容は皆無だった。
また、たったこれだけのことをやるのになぜ3年や5年もかけなければならないのかと驚いた。この点を指摘すると「予算が限られているから」ということだった。しかし、書籍やオンライン研修はいくらでもある。クラウドやOSSを使えばお金などかからない。それよりもなによりもそんなスピード感では、研修が終わる前に求められるスキルが変わってしまう。そんなことをお伝えすると、「もう、そんな時代なんですねぇ」と他人事のような言葉が返ってきた。
ビジネスの常識が変わり、求められるテクノロジーもその重心を変えつつあることに、まるで実感がない。人材育成の責任を託されているものとして、何ともお粗末な話しだ。
クラウドについては「うちでも取り組まなければいけないと思っていますが、お客様からはそんなご依頼がないので」といい、アジャイルは「SIで使えるかどうかは分かりませんし、まだ具体的なご要望もありませんので」という答えだった。スキルがないことを分かっているお客様が、彼らに相談しないだけのことだという現実が見えていないようだ。
これからITはお客様の本業となり、お客様の事業組織に組み込まれてゆく。クラウドやアジャイル、DevOpsを前提に内製化が拡大するだろう。そんなお客様の内製化を支援できる人材を育ててゆくことが、これからの人材育成の方向になるはずだと話をしても、自分たちには関係のない話しだと言わんばかりの反応だった。
また、この会社は優秀な人材の流出が停まらないという。そのこともあって人材育成の見直しに取り組もうとしているというのだが、このような人材育成計画では、逆効果だ。
優秀な人材が流出する理由は、この会社に未来がないと感じるからではないか。
古いシステムの保守や運用管理、トラブル対応ばかりではモチベーションも下がる。新しいコトに取り組むチャンスは限りなく少なく、自分たちが作ったシステムがお客様の現場でどのように使われ成果をあげているかを知る機会もないままに、与えられた作業をこなすだけの仕事に埋没している。
現場で仕事をする人たちは、世の中が変わりつつあることを実感している。一方で、経営者や管理者は、まだ大丈夫と安心し、あるいは、「変えるのは簡単なことではない」と施策を先送りしている。これでは、現場の人たちが、自分たちの未来を不安に感じるのは当然のことだろう。
現場の人たちが自分自身を守るには2つの選択肢がある。ひとつは「思考停止」になることだ。自ら考えることをやめ、上司やお客様の指示を待ち、リスクを回避し、他人任せで仕事をすることだ。どうせ新しいやり方を提案しても、「実績がない」や「リスクがある」として却下されるのがわかっているので、余計なことは言わず、忠実に会社の指示に従うことで、この会社で生きてゆこうとする。彼は、「積極的に提案できる人材」を育てル為の研修もしたいと言ってはいたが、このような人たちを対象に研修をしても何の成果も得られないだろう。一方で、優秀な人材は、このままでは自分の未来がないと悟り、自らの成長の機会を求めて転職する。これが、この会社から「優秀な人材の流出が停まらない」理由ではないだろうか。
人材育成は直ちに成果の出るものではないが、だからこそ人材育成に責任を持つ人は、自分たちの未来の「あるべき姿」を明らかにし、取り組むべきテーマを決定できる見識が必要だ。未来のどこかの「あるべき姿」から、いまの取り組みを考える。そんなアウト・サイドインで、人材育成の施策も考えるべきだろう。
もちろん、このような取り組みを、人材育成に関わる人だけでできるわけがない。経営者が、未来への見識を示すことが、なによりも大切であることは言うまでもない。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
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