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OJTという「ほったらかし」と時短だけの働き方改革は企業の命を削る

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2019年度に入社する新入社員のタイプを「呼びかけ次第のAIスピーカー型」と名付けました。多くの人がAIスピーカーって面白そう、欲しいと興味を持っているその様子が、売り手市場のなかで採用された今年の新入社員ととても似ていると考えたためです。

ただし、AIスピーカーには便利そうだけれど、使いこなすのがなかなか難しいという面もあります。単純に、音楽をかけたり、今日の天気を質問したりするくらいなら問題ありませんが、テレビをつけたり、部屋の明かりをつけたりするのには、他の機器のさまざまな設定や機能の追加が必要で、お金もかかります。同じように今年の新入社員も、上司の側からすると、部下としては若干扱いにくい面があるのではないかと考えています。

ネタとして面白いとは思うが、本当にそうなのだろうか。自分の時代を考えてみると、新入社員の実体は大して変わらないようにも思う。

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自分で考えて行動できない、保守化している、覇気がないなどと評価する人たちもいるが、自分たちの時代を懐かしみ、あたかもその時代こそが良かったのだと言わんばかりに、あえて、その違いを強調しているようにも思えてしまう。一方で、そういう若者達を世の中に送り出した自分たちの責任について語られることは少ない。

ITソリューション塾をもう10年やって来た。これまでに何人かの新入社員が、自らの意志でこの塾の門をたたいた。なぜ参加したいのかと聞くと、「配属が決り、現場に出て、何も知らないことに愕然としました。このままでは、やっていけません。ぜひ、勉強させてください。」というものだった。

もちろん、会社の正規の研修ではない。ブログで見つけて連絡してきたとのことだが、当然、参加費は自腹だ。それでも参加したいという若者もいる。

このように志の高い若者もいる、そうでないものもいる。時代は変わっても、いつの時代も、いろいろな若者がいるということには何ら変わりはない。

もちろん、それぞれの時代の社会環境の違い、そこから生ずる若者の意識の違いまでも否定するつもりはない。例えば、社会学者である山田昌弘氏の著「なぜ若者は保守化するのか」を読むと、なるほどとう頷いてしまう。

産業のサービス化、IT化の流れの中で、複雑で知的な労働については正社員として雇用し、単純労働は非正規雇用者で賄う。結果として、正社員需要が減っている。

ITやサービスを主体とする知識型産業の富の源泉は、土地や工場などではなく、能力のある人間である。そうなると、土地のある地方であることの必然性は無くなり、効率の点から都会に人が集まり、富も集中する。結果として地方が衰退する。

少ない正規雇用と都会への集中、産業の空洞化により、市場の成長も限られてきた。高度経済成長の時代は、努力すれば報われる「努力保証社会」であったが、努力を積み重ねても、収入や社会的地位に直結することはなく、努力をしても「バカらしい」という意識を生み出している。だから、成功は、「宝くじ」頼みであり、運を天にまかせるしかないというあきらめが生じている。

そんな中で、自分の生活の安定を図らなければならず、結果として保守的な志向を持たざるを得ないというものです。

確かに、このような社会的な背景から生まれる「若者意識」があることを否定するつもりはないが、だからといって、おしなべて、その平均を目の前にいる新入社員に押しつけて考える必要もない。

また、「我が社は、実践で人を育てる。」だから、OJTで十分という会社もある。その志は、立派だと思うが、実際のOJTの現場は、先輩社員が、部下を単なる雑用係として使っているだけであり、目標設定はなし、OJTリーダーに育成のノウハウもなければ、志もないといった現場もある。

確かに、これで育つ若者もいるのだが、それはOJTの成果ではなく、「これじゃあ大変だ」という本人の危機感であり、自助努力でしかない。つまり、育つか育たないかは、本人任せのほったらかしであり運任せなのだ。

育たなければ、あいつには才能がなかったとか、仕事があっていなかったと自らの責任を棚上げし、それをOJTといってはばからない無神経を悲しく思う。

また、山田氏の言うかつての「努力保証社会」では、お客さまに行けば仕事がもらえた。「靴底を減らして、なんぼの世界」だったわけで、いま管理職の立場にいる人の中にも、それで成功した人も多い。

しかし、もはやそんな時代ではない。靴底を減らして、お客さまを足繁く回っても、仕事をもらえる時代ではない。そんな「いま」を見ようともせず、過去の成功体験をそのまま押しつけるだけではうまくゆくわけはなく、若者達に「バカらしい」という意識を持たせてしまう。

「バカらしい」と開き直るくらいならまだいいのだが、「自分は役に立たない。何をやってもダメだ」と考えて、心を病んでしまう場合もある。こうなってしまうと、本当に不幸だ。これは、本人の責任ばかりとも言えないように思う。

では、どうすればいいのか。まずはかつてのやりかたが、いまも通用するという思い込みを捨て、「こうすればうまくいくからその通りやりなさい」との主張を押しつけないことだろう。

身近な例で言えば、私が依頼された新入社員研修の講義の冒頭で、研修担当の方が「パソコンとスマホを鞄にしまい講義に集中してください」と指示され、彼らは当然のことのようにそれをしまう。その後、講義を任された私は、担当者には申し訳なかったのだが、パソコンとスマホを改めて出させ、「分からないことあればその場で調べてください。それでも分からなければ質問してください」と伝えた。彼らの顔はぱっと明るくなり、活き活きとしていた。

彼らのリテラシーや感性に理解を示すことだ。自分たちも会議で平気でパソコンやスマホをいじっているのに、それを研修だからと特別扱いして、過去の規範を押しつけるのも如何なものかと思う。

また、経験者として自らの体験から学んだ教訓やそれを実践でどのように活かせばいいのかといった成功の方程式、すなわち体験を伝えるのであれば、彼らの学びも多いと思う。しかし、「俺の若い頃はなぁ」と過去の体験をそのままに、教訓も経験も伝えられないとすれば、彼らには自慢話にしか聞こえない。それでは、育成はできない。

「本質おいては一致し、行動においては自由に、全てにおいては信頼を」

ドラッカーの著『経営者に贈る5つの質問』の一節である。まさに、本質を部下と語り合い一致する。後は信頼して、まかせておけばいい。そして、困ったことや助けを必要とするときが来たらすぐに行動するセーフティネットを提供する。そんな、係わり方こそが、新人を育てる心得ではないかと思う。

自分で考えて行動できない若者が多くなったのではなく、このような現実を素直に受け入れられない大人達が多くなったことの方が、むしろ問題ではないのか。

また、日本は、少子高齢化が加速し「若者が減る」社会になった。かつては、会社が若者を選別する時代だったが、若者がすくなくなれば、若者が会社を選別する時代になる。そうなれば、経営に求められることは「若手に来てもらう経営」であり、これをやらなければ、企業の先行きは成り立たない。

若者とても貢献意識に溢れ、何か役に立つことをしたいと思っているし、それは世代を超えて共通の意識だ。むしろこの意識は、社会のためになる仕事をしたいという想いは、私が新入社員であった頃の世代に比べて、今の新入社員の方により強いのではないか。

しかし、そういう取り組みを支援する社会的な合意や基本的な仕組みが欠落している。そういう風に若手が捉えてしまい、「頑張っても報われない」と諦めてしまっている姿がすけて見える。逆に言えば、

  • 会社がきちんと社会的に意義のあるビジョンを示して
  • 若手でも活躍できるチャンスを与えて
  • 将来に渡る持続的な居場所とつながりを提供すれば

会社という仕組みはまだまだ機能するし、若者も会社も活躍できる可能性を示唆しているといえるだろう。

先に紹介した「努力保証社会」の崩壊は、社会環境の問題ではなく、社会環境の変化に対応できない企業の問題ではないのか。

「働き方改革」の本質もこんなところにあるのではないか。単に物理的な就労時間を短縮することではなく、自らが働きたい、役に立ちたいを引き出し、充実した仕事の時間を提供することだ。充実した時間は、例え物理的な時間が長かったとしても短く感じられるだろう。そんな心の就労時間を短縮することこそ、「働き方改革」が目指すべきことではないのだろうか。それは同時に、成長の喜びを実感させ、生産性や品質を高めてゆき、若者を惹き付ける。

これは、若者やベテランが世代を超えて共有できる価値観だ。新人の採用や育成についても、そんな「働き方改革」と一体に考えてみては如何だろう。

ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA

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【新規】お客様との新しい関係 p.43
【新規】DXのシステム実装 p.50
【新規】2025年の崖 p.71
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【新規】リーダーシップの在り方を見直す時代 p.182
【新規】「社会的価値」とは何か p.183
【新規】支配型リーダーシップと支援型リーダーシップ p.184
【新規】支配型リーダーと支援型リーダー p.185
【改訂】100年人生を生きるには学びつつけるしかない p.187
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【新規】ウォーターフォール開発とアジャイル開発の違い その2 p.22
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