劣化する「優秀な人材」
ITが事業の合理化や生産性を支える基盤であるという考え方は、もはや過去のものになりつつある。ITはビジネスとの一体化を推し進め、収益の源泉たる事業価値を生みだす存在として、これまでにも増して重要な経営資源になろうとしている。
デジタル・トランスフォーメーションとは、この状況を表現する言葉だ。めまぐるしく変わるビジネス環境の変化に即応し、競争力を維持し経営を支え続けるためには、つぎのことが求められている。
「IT(デジタル・テクノロジー)を駆使して製品やサービスをジャスト・イン・タイムで提供できる組織・体制、ビジネス・プロセス、事業・経営へと転換してゆくこと」
もはや「合理化や生産性を支える」ITではなく、企業の存続と競争力を維持するためにITを前提として事業活動や経営のあり方を転換することだ。
こんな時代だからこそ事業会社はIT人材を求めており、IT業界における転職需要を拡大させている1つの理由となっている。しかし、必ずしもそのマッチングはうまくいっていない。
IT企業で長年働き、次のキャリアとしてユーザー企業のIT部門に迎え入れられ、それなりの責任を果たしたいと考えるのは、自然のことのように思う。これまで勤めていたIT企業の看板、ビッグ・プロジェクトの経験、資格や肩書きなど申し分もなく、何とかなるだろうと面接を請けると、最後の経営者との面接で、だめになることがよくあるそうだ。
「我が社はITを活かして事業の変革を進めたい。そのために、何をすればいいでしょう?」
そんな問いかけに、答えられないという。
「お客様が何をしたいかを聞き出し、要件をまとめ、それをシステムに仕立て上げることはやって来ました。しかし、何をすべきかと問われると、答えようがありませんでした。もっと、若いときから経営や事業について関心を持ち、勉強すべきだったと思っています。」
面接に落ちた50代の方から、こんな反省の弁を聞き、なるほどこれでは採用は難しいだろうと思った。
いまユーザー企業が求めているのは、IT企業の事情がわかり彼らの提案を値踏みでき、コストパフォーマンスの高い情報システムを作れる人材ではない。ITの価値や可能性を正しく理解し、デジタル・トランスフォーメーションを主導する人材だ。
ユーザー企業の課題を整理でき、彼らが設定したテーマを確実に実現することではなく、その企業の未来のあるべき姿を描き、自らがテーマを設定し、仮説検証を繰り返して変革のリーダーシップを発揮できることだ。
めまぐるしく進化するテクノロジーがもたらす価値や可能性を正しく理解し、それを経営に活かすために何をすべきかを自ら組み立てられる人材と言うことになるのだろう。
このような人材は、ユーザー企業にばかりが求めているのではない。IT企業もまた、こういうことができる人材がいなければ、お客様に価値を提供でなくなる時代になろうとしている。
「マシンは答えに特化し、人間はよりよい質問を長期的に生みだすことに力を傾けるべきだ。」
"これからインターネットに起こる『不可避な12の出来事』"の中で、ケビン・ケリーはこのように述べている。
IT企業、特にSI事業者の収益を支えている工数や物販は、AIや自動化に置き換えられてゆく。与えられたテーマは機械が解決し実現してくれる。一方で、「何に答えを出すべきか」を設定し、それを実現するプロセスを組み立てることができる人材こそが、求められている人材と言うことになるのでしょう。
AIが優れた答えを出してくれる一方で、何に答えて欲しいかを決める役割は、しばらくは人間が担うことになるだろう。AIの機能や生産性が高くなればなるほど、人間には多くの問いが求められ、それが人間の社会や知性を進化させてゆくことになる。そのような能力が求められる時代になったということだ。
そのためには自らが自分の未来に対して問題を提起し、学んでゆかなければならない。そして、会社やお客様から与えられたテーマに正解を出すことではなく、自らテーマを設定し、AIや機械などのテクノロジーを駆使し、短時間に精度の高い正解をつくって行く、そんなサイクルを高速に回してゆくことで、自らを進化させてゆくことが求められてゆくのだろう。
藤井聡太が中学生でありながらベテラン棋士をなぎ倒し快進撃を続けられたのは、AI将棋で繰り返し練習したことも1つの理由だと言われている。このことは、伝統的な棋譜というこれまでの常識あるいは先入観を越えて将棋に新たな可能性をもたらしただけではなく、スキルを磨くためには時間がかかるという常識がもはや時代遅れであるという現実を突きつけたとも言える。まさに、私たちはいま「問いを作る」あるいは「テーマを見つける」ことが、人材の社会的価値であることを真正面から受けとめなくてはならない。
テクノロジーの進化がこれまでの人間の仕事を奪うのは、もはや避けられない現実だ。だからこそ、そのテクノロジーを使いこなすための問いやテーマを作る力が求められている。そして、それこそが、いま多くの企業が求めている「優秀な人材」ということになるのだろう。
【締め切りました】ITソリューション塾・第29期
10月から開講予定のITソリューション塾・第29期は定員となりましたので、受付を締め切らせていただきました。多くの皆様のお申し込み、ありがとうございました。
次期は、来年2月スタートを予定しています。どうぞ、改めてのご参加をご検討下さい。
詳しくは、こちらをご覧下さい。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
LiBRA 9月度版リリース====================
RPAのプレゼンテーションを作りました。(ITソリューション塾の最後にむに掲載)
他にもいくつかのプレゼンテーション・パッケージを新規追加・更新致しました。
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プレゼンテーション・パッケージ
【新規】RPAについてのプレゼンテーション(25ページ)
【更新】新入社員のための最新ITトレンドとこれからのビジネス(187ページ)
【更新】ビジネスリーダーのためのデジタル戦略塾・最新のITトレンド(203ページ)
【更新】フィン・テックとブロックチェーン (40ページ) *テクノロジー・トピックスより分離
ビジネス戦略編
【更新】デジタル・トランスフォーメーションの実際 p.16
【新規】デジタル・ディスラプターの創出する新しい価値 p.17
【更新】もし、変わることができなければ p.18
*人材開発・育成編をビジネス戦略編より分離し、新しくパッケージし直しました。
ITの歴史と最新のトレンド編
【新規】人類の進化と知識 p.12
【新規】自然科学発展の歴史 p.13
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】インターネットに接続されるデバイス数の推移 p.10
【新規】新規事業の選択肢とモノのサービス化 p.44
【新規】IoTのビジネス戦略 p.47
【更新】LPWAネットワークの位置付け p.72
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】AI導入/データの戦略的活用における3つの課題
開発と運用編
【更新】DevOpsとコンテナ管理ソフトウエア p.57
【新規】開発と運用の方向性 p.58
テクノロジー・トピックス編
*変更はありません。ただし、FinTechとブロックチェーについては、別資料としてまとめました。
ITインフラとプラットフォーム編
【更新】仮想化の役割 p.70
【新規】仮想化の役割/解説 p.71
サービス&アプリケーション・基本編
*変更はありません
クラウド・コンピューティング編
*変更はありません