デジタル・トランスフォーメーション(5/5)デジタル・トランスフォーメーションの全体像
■デジタル・トランスフォーメーションという「現象」
デジタル・トランスフォーメーションという新しい商材や技術が登場した訳ではありません。ITすなわちデジタル・テクノロジーの進化が、伝統的な仕事のあり方や社会の仕組みを根本的に変えてしまい、「限界費用ゼロ社会」のような新しいパラダイムを生みだす「現象」を意味する言葉です。
この大きな流れを押し戻すことはできません。ならば、この流れにしっかりと乗って、デジタル・トランスフォーメーションの実現を支え、それを主導してゆくことで、私たちの新たな役割を切り拓いてゆくことが正しい選択です。
■デジタル・トランスフォーメーションがもたらすビジネスの変革
IT(デジタル・テクノロジー)を駆使して、現場のニーズにジャスト・イン・タイムでビジネス・サービスを提供できる、組織や体制、ビジネス・プロセス、製品やサービスを実現する
お客様や店舗、営業や工場など、ビジネスの現場は時々刻々動いています。その変化をデータで捉え、現場が"いま"必要とする最適なサービスを即座に提供できる。そんなビジネスの仕組みが常識となってゆくでしょう。
業務手順を変えればいいとか、ITを使って迅速な業務処理ができればいいというレベルでの対応では実現できるものでありません。組織の役割や機能にも及び、組織体制も変わらなくてはなりません。ビジネス・プロセスや業績評価基準も変わるでしょう。また、製品やサービスのあり方、つまり収益のあげ方やお客様に提供する価値も変わります。
これまでの仕事の常識が根本的に変わります。人間の役割も求められるスキルや能力も変わります。そんな変革が迫っています。
■ビジネスのデジタル・トランスフォーメーションによって起こること
デジタル・トランスフォーメーションによって、ビジネスは2つの新しい価値を手に入れます。
- 不確実性が増大し、スピードが加速するビジネス環境に対応するために、製品やサービスをジャスト・イン・タイムで現場に提供できる即応力を手に入れる。
- これまでの常識や価値基準を劇的に転換し、圧倒的な競争優位を手に入れるために、生産性・価格・期間などの常識を覆す破壊力を手に入れる。
「即応力」を手に入れるためには、前節でも説明したように、業務プロセスへの人間の関与をできるだけ少なくしなくてはなりません。つまり、業務プロセスを、デジタル・テクノロジーを駆使して徹底して自動化することです。また、ビジネスに関わる事実をデータで捉え、それを解析し、「見える化」できなくてはなりません。そして、必要であれば直ちに業務プロセスを実現している情報システムを手直しし、あるいは機器を制御し対処します。これが「業務プロセスのデジタル化」です。これにより、ビジネスの最前線で必要とされるサービスをジャスト・インタイムで提供できる仕組みを持つことができます。
ビジネスの基本的な運営に人間の関与を減らし、人間は戦略やビジネス・モデルの策定、あるいは顧客とのホスピタリティの維持などの人間にしかできない役割を担わせよう
そんな取り組みが必要になります。
また「破壊力」を手に入れるためには、業務プロセスのデジタル化を徹底することでビジネスの価値基準を転換することが必要です。
「価値基準を転換する」とは、いままでの当たり前を、新しい当たり前に上書きし、新しい常識を人々の心に植え付けてしまうことです。
例えば、いままで1万円が相場だった金額を100円で提供でるようにすることや、1週間が常識だった納期を翌日にしてしまうようなことです。これによって、いままでの常識を覆す「破壊的(Disruptive)」な競争力を手に入れることができます。
そんな新しい常識が定着すればもはや後戻りはできません。そして、その流れをさらに加速するような新たな取り組みも生まれてくるでしょう。そうやってデジタル・トランスフォーメーションの進行もまた加速してゆきます。
人間の関与を徹底して減らし、人間が関わることの制約を排除し、業務プロセスを刷新することで、新たな価値基準を実現する
これにより、以下の3つを実現します。
- 組織・体制:意志決定スピードの高速化、柔軟・迅速な組み替えや連係
- ビジネス・プロセス:変更や追加への即応力、オープンで柔軟な連係力
- 製品・サービス:顧客/現場との緊密な連係とフィードバック
■ビジネスのデジタル化を実現するためのプラットフォーム
このようなビジネスの変革を支えるためには、広範な業務に新しいデジタル・テクノロジー活かした情報システムが必要です。そうなればシステムの開発テーマは劇的に増えます。また、ビジネス現場のフィードバックにジャストイン・タイムで応えるためには、既存システムの変更や新たなシステム開発を直ぐにでもできなくてはなりません。
このような需要に応えるのに、個々のアプリケーション・システムをひとつひとつ作り込んでいることなどできません。そこでこれらシステムを実現するために必要な基本的な機能を予め用意し、アプリケーション個別のコードを少し書いてアップロードするだけで、必要なアプリケーション・サービスを実現し、直ちにビジネスの現場へ提供できる仕組みが必要になります。
そんなビジネスのデジタル化を支えるプラットフォームが各社から登場しています。特定の産業分野に特化したもの、機械学習やデータ分析などの機能を得意としたもの、汎用的な業務の開発や運用をカバーするものなど、拡がりつつあります。
このようなプラットフォームを使う上で重要なことは、業務に必要な機能を持つ「システムを作る」ことではありません。ビジネスの現場に必要とされる「サービスを提供」することです。そして、ビジネス環境の変化に同期して、そのサービスはジャスト・インタイムで変化に追従させなければなりません。そのために、プラットフォームが必要とされるのです。
■デジタル・トランスフォーメーションの中核をなすビッグデータとAI
工場の生産ラインや店舗の売り場、オンライン・ショッピングサイトや様々なWebサービス、自動車や家電製品などの「現場」は、ネットワークを介してつながり、膨大なデータを送り出しています。そのビッグデータをAIにより解析し、最適解を直ちに見つけ出し、現場にフィードバックします。この仕組みにより、ビジネスのスピードを加速させ、柔軟・迅速に変化への対処ができるようになります。
例えば、流通ビジネスにおいては、消費者を理解する「データ」をどれだけ集められるかが、ビジネスの成否を分かちます。ここで言う「データ」とは、単なるPOSや販売データだけではなく、主義主張、趣味嗜好、人生観や悩み、ライフログ、生活圏などを含めて消費者を深く知るためのデータです。
この分野で先行しているAmazonは、様々なサービスを提供することで、このデータの収集に躍起になっています。ECサイトは当然のこと、AIスピーカーAmazon Echoによる個々人の音声や生活音のデータ、KindleやAmazon Prime Musicによる読書や音楽についての志向や関心事についてのデータ、リアル店舗であるAmazon Goやホール・フーズ・マーケット(Amazonが買収したスーパーマーケット・チェーン)から得られる購買志向や生活圏についてのデータなど、その範囲はますます拡大し、きめ細かさを増しています。
このようにして集めた膨大なデータ、すなわちビッグデータをAIによって解析し、個々人に最適化されたレコメンデーションや売れ筋商品の品揃え、次の仕入れやサービス開発、新しいビジネスの開発に役立てているのです。それを高速なサイクルで回し、変化への即応力を生みだしています。
現場データをきめ細かくリアルタイムで収集し、AIで解析して最適解を見つけ出して、それで現場を動かして再びそのデータを収集する
このように現実世界(Physical World)とデジタル世界(Cyber World)が一体となって、リアルタイムに改善活動を繰り返しながら、ビジネスの最適化を実現する仕組みが作られてゆきます。この仕組みは、「サイバー・フィジカル・システム(Cyber-Physical System、略してCPS)」と呼ばれています。
人間の選んだサンプルを観察や計測、経験値に頼って最適解を見つけ出すのではなく、あらゆる事実から生みだされたデータを解析し、最適解を見つけ出すやり方へと変えてしまおうというのです。これにより人間の先入観に左右されない合理性と自動化によるスピード、そして確実性を手に入れ、これを高速で繰り返すことで、状況の変化に即応できるビジネスの仕組みを実現するのです。
デジタル・トランスフォーメーションは、このようなテクノロジーによりもたらされるビジネスや社会の変革なのです。
CPSについては、IoTと同義に扱われることもあります。つまり、「IoTをセンサーでデータを収拾しネットワークで送り出す手段や仕組み」と狭く捉えるのではなく、「ビジネス価値を生みだす全体の仕組み=CPS」と広義に解釈する場合もあります。
SI事業者/ITベンダーのためのデジタル・トランスフォーメーションの教科書
デジタル・トランスフォーメーションとは何か、SI事業者やITベンダーはこの変化にどう向きあえばいいのかを1冊の書籍にまとめました。これが「SI事業者/ITベンダーのためのデジタル・トランスフォーメーションの教科書」です。PDF/A4版・109ページのデジタル出版です。紙の書籍にすると200ページくらいのボリュームにはなると思います。もちろん、前著同様に掲載したチャートは全てロイヤリティ・フリーでダウンロードできるようにしています。
いまと未来を冷静に見つめ、SIビジネスのデジタル・トランスフォーメーションにどう向きあえばいいのかを考えるきっかけになればと願っています。
内容は以下の通りです。
- デジタル・トランスフォーメーションとは何か
- デジタル・トランスフォーメーションの定義
- デジタル・トランスフォーメーションを支えるテクノロジー
- SIビジネスのデジタル・トランスフォーメーション
- デジタル・トランスフォーメーション時代に求められる人材
ITビジネスの未来は大いに開けています。ITは私たちの日常や社会活動にこれまでにも増して深く関わり、アンビエント(環境や周囲に溶け込む)になっていくでしょう。そこには新たなビジネスチャンスが待っています。しかし、そのチャンスを見つけるためには、視線を変えなければなりません。もはやこれまでのSIビジネスの視線の向こうには、新しいビジネスチャンスはないのです。
じゃあどうすれば良いのでしょうか。本書で、そのための戦略と施策を考えるきっかけを見つけていただければと願っています。
【募集開始】新入社員ための最新ITトレンド研修
IoT、AI、クラウドなどのキーワードは、ビジネスの現場では当たり前に飛び交っています。デジタル・トランスフォーメーションの到来は、これからのITビジネスの未来を大きく変えてしまうでしょう。
しかし、新入社員研修ではITの基礎やプログラミングは教えても、このような最新ITトレンドについて教えることはありません。
そんな彼らに「ITトレンドの最新の常識」と「ITビジネスに関わることの意義や楽しさ」についてわかりやすく伝え、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと「新入社員ための最新ITトレンド研修」を昨年よりスタートさせました。今年も7月17日(火)と8月20日(月)に開催することにしました。
参加費も1日研修で1万円に設定しました。この金額ならば、会社が費用を出してくれなくても、志さえあれば自腹で支払えるだろうと考えたからです。
社会人として、あるいはIT業界人として、厳しいことや頑張らなくちゃいけないことも伝えなくてはなりません。でも「ITは楽しい」と思えてこそ、困難を乗り越える力が生まれてくるのではないでしょうか。
- ITって凄い
- ITの仕事はこんなにも可能性があるんだ
- この業界に入って本当に良かった
この研修を終えて、受講者にそう思ってもらえることが目標です。
よろしければ、御社の新入社員にもご参加いただければと願っております。
詳しくは、こちらをご覧下さい。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
LiBRA 5月度版リリース====================
- SI事業者/ITベンダーのための「デジタル・トランスフォーメーションの教科書」をリリース
- 「ITソリューション塾・第27期」の最新コンテンツ
- その他、コンテンツを追加
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【新規掲載】SI事業者/ITベンダーのためのデジタル・トランスフォーメーションの教科書
- 教科書 全109ページ
- PDF版
- プレゼンテーション 全38ページ ロイヤリティフリー
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「ITソリューション塾・第27期」の最新コンテンツを追加
メインテーマ
ITトレンドの読み解き方とクラウドの本質
ソフトウェア化するインフラと仮想化
クラウド時代のモバイルデバイスとクライアント
IoT(モノのインターネット)
AI(人工知能)
データベース
ストレージ
これからのアプリケーション開発と運用
これからのビジネス戦略【新規】
知っておきたいトレンド
ブロックチェーン
量子コンピュータ
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サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】伝統的なやり方とIoTの違い p.19
サービス&アプリケーション・先進技術編/人工知能とロボット
【新規】人間にしかできないコト・機械にもできること p.100
インフラ&プラットフォーム編
【新規】仮想化とは何か p.68
【新規】仮想化の役割 p.70
【新規】サイバー・セキュリティ対策とは何か p.125
【新規】脆弱性対策 p.127
クラウド・コンピューティング編
【新規】コンピューターの構成と種類 p.6
【新規】「クラウド・コンピューティング」という名前の由来 p.17
【新規】クラウドがもたらすビジネス価値 p.26