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説明のための事業計画、成り行き任せの実践、つじつま合わせの成果報告

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来期の事業計画に腐心されている方も多いと思います。しかし、その現実は、表題のようなことになっていると本音では感じている方もいらっしゃるのではありませんか。

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計画を立て文書にまとめ報告することで満足してしまう。その事業計画の実践過程も十分にフォローされないままに次の事業計画の時期を迎える。そんなことを繰り返してはいないでしょうか。

バランススコアカード(BSC)を使って事業計画を作っているところもあるかと思います。ただ、BSCを作ることは簡単ですが、実践の過程を管理できるスコアカードをつくれるかどうかは別の話です。

このような事業計画であっても、価値がない訳ではありません。改めていまの現状を冷静に見直し、課題を明らかにするいい機会にはなるはずです。しかし、事業計画の目的は、「ならばどうするか」を実効性あるアクションプランに変換することです。そして、そのアクションプランの成果を評価、管理するKPIを設定し、その過程を追い続ける仕組みを作ることです。ところが現実には、ただの反省と成り行きの見通しを語るだけのものになっている。そんなことにはなっていないでしょうか。

「工数×稼働率×単金」の積み上げで目標値を設定する場合であっても、「工数×稼働率」を引き上げることが限界である以上、単金を上げるしか成長させることはできません。ならば、どうやって単金を上げるかです。ただ、お客様に「利益が厳しいので、単金をあげていただけないでしょうか」とお願いすることしか思いつかないとすれば、事業計画を作る意味はありません。

高くても仕事が絶えない自分たちの価値は何か、その価値をどのように作るのか、それをどのようにして顧客に訴求するのかといったアクションプランが語られていないとすれば、実効性のない事業計画と言わざるを得ません。

また、「売上を増やすためには人を増やすしかない」労働集約型のビジネスから、利益逓増型のサービス・ビジネスの実現を目指すのであれば、しっかりと市場のニーズを理解すべきでしょう。このようなとき、特定のお客様からの要望に応えそのお客様に合わせてサービス・ビジネスを始めてみるというのはよくある話です。しかし、そのお客様の要望に過剰適応することで汎用性を欠き、他のお客様に適用しようとすると、その都度カスタマイズや新たな機能を追加しなければならず、コストだけが嵩んで利益のでない「サービス・ビジネス」を作り上げてしまうようでは意味がありません。

これまでの受託開発のようにお客様の要望に愚直に応えるのではなく、マーケットを定め、そのニーズを把握し、そこにアクセスする物語を描くといったマーケティング・プランが必要です。マーケティング・プランとは特定のお客様の業務に最適化することではありません。複数のお客様に共通するニーズを捉え、それを使ってくれるお客様の姿を具体的にイメージできる物語を描くことなのです。その業務範囲は当初は大きく捉える必要はありませんが、「これならば絶対にお金を出してでも使いたい」というものであることが大切です。それをいち早く提供し、徐々に範囲や対象顧客を拡げてゆく物語であることが望ましいでしょう。

工数ビジネスであれサービス・ビジネスであれ、「お金を払ってでも手に入れたい価値」が事業計画になければ実効性を持ちません。もちろん「やってみなければ分からない」こともあります。しかし、このような物語を描かないままに、ただ行き当たりばったりで「やってみなければ分からない」だけでは、その結果を評価できないし、何が問題であったのか、どう変えていかなければならないかを見つけることもできません。

また、実践のフェーズではそれを評価する仕組みや会議体が必要でしょう。ただ、注意すべきは「数字だけ」を評価するのではなく、当初の事業計画そのものを徹底して評価し、計画を変えるべきと判断したら新たなアクションプランを承認できなくてはなりません。

数字は大切ですが、数字だけを評価対象にしてしまえば、それは計画が妥当だったのか、市場環境なのか、たまたまラッキーなお客様を見つけたのかは曖昧にされてしまいます。計画そのものの妥当性、つまりは、お客様が「お金払ってでも手に入れたい価値」を提供できているのかを徹底して追求する評価と管理の仕組みを持つことが必要となるでしょう。

「お金払ってでも手に入れたい価値」は、テクノロジーやビジネスのトレンドにも大きく左右されます。クラウドをベースとした高速開発、サイバーセキュリティ、FinTech、IoT、AIなど、お客様の求める価値は時代と共に更新されていきます。そういうことを棚上げし、過去の成功体験のみで価値基準を定めても意味はありません。また、何がバブルで何が現実かをしっかりと問うことも大切です。

また、自分たちのできないことなら自分たちだけで解決せずオープンに関係を築いて補完し合うことも計画に組み込むべきでしょう。そのような組合せは時代が求めるスピードに対応することであり、イノベーションを生みだす切っ掛けとなるからです。そうやって、「お金払ってでも手に入れたい価値」を新しく産み出してゆくことも考えては如何でしょうか。

報告のためだけの事業計画書はそろそろ辞めにしませんか。頭を悩まし時間をかけて「仕事をしている実感」を得ることも生きてゆく上では大切なことです。しかし、そんなことに興じている余裕などありません。気がつけば、「仕事をしている実感」さえも得られなくなるかもしれません。

最新版【3月版】を更改しました。

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  • 「ビジネスエグゼクティブのためのIT戦略塾」で使用した最新トレンドについての講義資料を公開しました。
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プラットフォーム&インフラ編
【新規】従来システムとハイパーコンバージド・システムとの違い p.136
【新規】ハイパーコンバージド・システムのメリット p.137

ビジネス戦略編
【新規】デジタル・トランスフォーメーションの定義 p.18
【新規】ITをビジネスの成果に結びつける考え方 p.48
【新規】事業会社の担うべき責任 p.49
【新規】注意すべきITベンダー・SI事業者の行動特性 p.50

サービス&アプリケーション・先端技術編/AI
【新規】人間は何を作ってきたのか p.10
【新規】知的介助: amazonの戦略 p.32
【新規】学習データと結果の関係 p.93

サービス&アプリケーション・先端技術編/IoT
【新規】デジタル・コピー/デジタルツイン p.25
【新規】amazonのデータ収集戦略 p.26
【新規】IoTビジネスはモノをつなげるのではなく物語をつなげる取り組み p.42
【新規】様々な産業に変革を促すデジタル・トランスフォーメーション p.95

運用と開発編
【新規】変わる情報システムのかたち p.6
【改訂】アジャイル開発の基本構造 p.17
【改訂】スクラム:自律型の組織で変化への柔軟性を担保する p.25

テクノロジー・トピックス編
【新規・改訂】armについての解説を新しい内容に置き換えました p.19-35

ITの歴史と最新トレンド編
【新規】量子コンピュータとは何か p.4

クラウド・コンピューティング編
*変更はありません

サービス&アプリケーション・基本編
*変更はありません

その他
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