自分はお客様に価値を提供できているだろうか?ITに関わる仕事に求められるこれからの価値
「自動走行に切り替えます。」
高速度道路に入り自動走行モードのスイッチを入れると、ハンドルが私の手から離れダッシュボードにスッと吸い込まれていった。目的地の最寄りの出口までは1時間ほど。その間に溜まったメールを処理しよう。私は、座席を後ろに引いてタブレットを手に取る。程なくして、緊急の打ち合わせを開きたいと品質管理部長からメッセージが入った。すぐにオンライン会議の画面を開くと、既に生産技術部や生産管理部などのメンバーがそれぞれの持ち場から会議に参加している。
「何事なんだ?」と切り出すと、今日から出荷することになっていた新製品の一部に品質基準を満たさない製品があることが分かり、どうするかの判断を仰ぎたいという相談だった。
「原因はバッテリーの不良です。昨日午後の製造ロットに不良バッテリーが混じっていたようです。」
最終検査装置のセンサーが異常を知らせてくれたので、出荷せずにすんだようだ。
「対象となる製品のバッテリーを交換し再検査した場合の出荷への影響をシミュレーションしたところ、午前中のライン停止であれば、影響はほとんど無いことが分かりました。ただ、生産技術部としては万全を期し他のロットについても確認したほうがいいと提案しています。その場合は、最悪丸1日新製品の出荷を送らせなくてはなりません。その場合は、既にご注文を頂いているお客様に営業から頭を下げてもらわなければなりません。」
やっかいなことになった。しかし社運をかける新製品でもあり、いま焦るより万全を期した方が良さそうだ。
「時間をかけてでも徹底的に調べてくれ。」
早速、今後の生産計画と収支への影響をシミュレーションしてみた。まあ、これなら何とかなるだろう。
幸いなことに昨年から生産を始めた新工場は、様々なセンサーからのデータを使い、工場の様子がどこにいても手に取るように分かるようになった。しかも進捗や品質のデータは逐次人工知能で分析し、計画が変わっても即座に最適な段取り替えや工程の組み替え、部材の手配をしてくれるので、トラブルがあっても影響は最小限に抑えられる。人手はかからず、しかも正確だ。
「それではすぐにとりかかります。」
品質管理部長がそう告げると、会議に参加していたメンバーは会議画面から退出していった。さて、今日は予定を変更して善後策を検討した方が良さそうだ。
「今日の予定を教えてくれ。」
タブレットに話しかけると一日の予定が表示され読み上げられてゆく。幸いどうにかやりくりできそうだ。
「14:00から山中工場に移動する。重なっているスケジュールは全てキャンセル。関係者に知らせてくれ。」
タブレットから、「承知しました」と返事が返ってきた。スケジュールは変更され、関係者には気の利いた文言でメールが配信された。
「まもなく、高速道路を降りて一般道に出ます。自動走行モードを解除しますので準備して下さい。」
ハンドルがダッシュボードからせり出してくる。私はハンドルを握り直した。やれやれ、今日は長い一日になりそうだ。
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2020年、こんな日常が現実のものとなっているかもしれません。政府のIT総合戦略本部は自動車の自動走行技術に関し次のようなロードマップを発表しています。
- 高速道路での追従走行と自動レーンチェンジが2017年~2018年
- 運転手の責任の下で一定区間を自動走行できるようになるのが2020年
- 人間が介在することなく完全な自動運転が可能になるのは2020年以降
自動車の自動運転はもはや夢物語ではありません。ここ数年の内に実現される技術として、着実に準備が進められています。また、オンラインでの会議やリモートワークは当たり前になっているでしょう。工場のインテリジェント化や自動化も高度に進化しています。たった数年先にこんな未来が待ち受けています。
拙著「未来を味方にする技術〜これからのビジネスを創るITの基礎の基礎」の冒頭の一節です。
ITの仕事に関わっていると、こんなITと日常との関わりを忘れてしまうことがあります。あるいは、こういうことを気にかけることなく「道具としてのIT」を提供することに徹しているのかもしれません。どう使うのか、どんな価値を生みだすのかを考えることなどに興味もなく、ただ、お客様の求めに応じて仕事をしている。それで仕事を楽しめるのでしょうか。
クラウドや自動化の進化、人工知能の適用範囲の広がりと共に、ITはそれを扱うことの難しさの壁をどんどん下げてゆくでしょう。職業としてのプログラマーやエンジニアと、素人との格差はどんどんとなくなってゆくはずです。むしろ、業務の実感と勘所を心得ている「ITの素人」のほうが、業務に最適化された使い勝手の良いシステムを作ることができるようになります。そして、業務が変われば、それに即応することも容易であり、保守の仕事も自分でまかなえるようになるはずです。運用管理やトラブル対応は、クラウドに任せてしまえばいいとなると、そこで稼いでいる人たちはいらなくなってしまいます。
しかし、技術を正しく理解し、それをどのように活かしてゆけばいいのか、どのように組み合わせればいいのかは、専門家の知恵が必要です。そして、その答えを提供するためには、これまでできなかったことができるようになるかを具体的に示し、ビジネスがどう変わるか、経営がどうなるかを説明できる知見を持っているかどうかにかかっています。
IT部門の予算が削られ続ける中、IT部門が関わらないIT予算がどんどんと増えています。ビジネスのチャンスはそこにこそあります。その意志決定をする人たちは、ITの専門家ではない、事業部門や経営に関わる人たちです。そんな人たちに語る言葉は、「どのように事業課題を解決できるか」であり、ITの機能や性能ではありません。
本書はそんなITの専門家ではない人たちにITの価値や役割を伝え、どのように向き合えばいいかをわかりやすく解説したものです。
冒頭の一節にあるようなことがまもなく現実のものになろうとしています。そんなこれからの現実への筋道を示すことがITに関わる仕事をする人たちの役割です。そんな役割を果たすための教材として、本書を手に取って頂ければと願っています。
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ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
最新版【2017年6月】をリリースいたしました。
今月は、特にブロックチェーンや5Gについてのプレゼンテーションを充実させています。
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ビジネス戦略編
【新規】根拠なき「工数見積」と顧客との信頼関係の崩壊 p.32
【新規】工数ビジネスの限界 p.34
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】IoTとAIの一般的理解と本当のところ p.15
サービス&アプリケーション・先進技術編/人工知能とロボット
【新規】自動化と自律化 p.14
【新規】学習と推論 p.27
【新規】うんコレ1枚でわかる画像認識 p.34
【新規】自動運転のためのプラットフォーム p.81
サービス&アプリケーション・基本編
変更はありません
開発と運用編
【新規】「仕様書通り作る」から「ビジネスの成果への貢献」へ p.11
クラウド・コンピューティング編
【変更】パブリッククラウド p.38
【新規】クラウドの見積り方(1)と(2) p.79-80
インフラ&プラットフォーム編
【変更】ウェアラブル=身体に密着するデバイス p.21
【新規】ウェアラブル・デバイスの進化 p.22
【変更】ウェアラブル・デバイスの種類と使われ方 p.23
【新規】これからのクライアントを占うキーワード p.25
【新規】ユビキタスコンピューティング = 10年前のIoT p.26
【新規】スマートフォーム p.27
【変更】ユビキタスからアンビエントへ p.28
【新規】ビーコン 事例 p.29
【新規】VR 事例p.30
【新規】AR 事例p.31
【新規】MR 事例p.32
【新規】セキュリティ対策対象の変化 p.112
【新規】コレ1枚でわかる第5世代通信 p.209-211
テクノロジー・トピックス編
【新規】ARM:2016年の売上高は16億8900万ドル p.22
【新規】ARM:ライセンスパートナー p.23
【変更】ARM:拡がる適用分野 p.26
【新規】ARM:CPU設計から製造まで p.27
【新規】ブロックチェーンとは何か p.33
【新規】ブロックチェーンの3つの特徴 p.32-36
【新規】ブロックチェーンで使われる暗号技術 p.37-38
ITの歴史と最新のトレンド編
【新規】ソフトウェア化するモノ p.11
新刊書籍のご紹介
未来を味方にする技術
これからのビジネスを創るITの基礎の基礎
- ITの専門家ではない経営者や事業部門の皆さんに、ITの役割や価値、ITとの付き合い方を伝えたい!
- ITで変わる未来や新しい常識を、具体的な事例を通じて知って欲しい!
- お客様とベンダーが同じ方向を向いて、新たな価値を共創して欲しい!
斎藤昌義 著
四六判/264ページ
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