未来を教えない新入社員研修は自分たちの未来を放棄している証しである
「40年前のテクノロジーについて講義し、その先を教えないまま現場の実践に投げ出すとは、いかがなものでしょうか?」
SI事業者の新入社員研修で行われている「情報システムの基礎」の類は、総じてそのような内容になっています。仮想化も「ハイパーバイザー仮想化」が語られる程度で、SDIやSDDCといった話しはなく、クラウドについても「そういうサービスがある」程度に留まっているテキストを見て唖然としてしまいます。ましてやIoTや人工知能などはどこにも触れられることはなく、「ハイパーコンバージド」や「HTML5」などという言葉、その存在すら感じられません。
そんな「情報システムの基礎」でも、やっているところはまだましな方で、それすら教えていないところもあり、与えられた辞書のような解説書を暗記してテストをしているといったところもあるようです。
この事実を裏返して考えれば、
「そんなことは知らなくても仕事にはこまらない」
「現場で勉強すればいい」
「分かっている人がいないからおしえられない」
工数としての従順なコーダーを育てるのに最新のテクノロジーなど必要ありません。むしろ、真実を知ってしまって自分たちがやっていることが、時代の流れから取り残されていることに気付かれないほうがいいということのなのかもしれません。
コンピューターの5大機能、バッチやリアルタイムといった「情報システムの基礎」を教えることがいけないなどと申し上げているわけではありません。それに留まっていることが問題なのです。
では、どんな講義を行うべきなのでしょうか。
正直に過去・現在・未来を教える
自社の未来を託す人たちに今の時代を伝え、ITが拓く夢のある未来と可能性について伝えなくてはなりません。
SIビジネスは過去の歴史を振り返れば、日本の情報化に大いに貢献してきました。その栄光を自社の歴史と共に伝えることは、そこに入社した人たちに誇りを持たせることになるでしょう。しかし、事業価値がテクノロジーの提供能力から工数の提供能力へと変わり、企業としての存在意義が問われていること、そして自分たちの事業価値を転換してゆかなければならないことにもがいていることを正直に伝えてはどうでしょう。その難しさも伝えなくてはなりません。
だからといって、ITに関わるビジネスに可能性がない訳でありません。むしろ、「ITと一体化したビジネス」への潮流はますます勢いを増してきます。その本流にあるのクラウドや人工知能、IoTなどがどのような未来をもたらすのか、その価値や可能性について、歴史と共に伝えることができなくてはなりません。
そんな大きく開けた未来に夢や期待を持たせ、そんなこれからの時代を切り拓くのが彼らの役割であることを伝えることが、新入社員研修には求められているように思います。
IT業界で働くことの意味を伝える
ITはこれまでの非常識を覆し、新しい常識へと置き換えています。いまの勢いは、IBMのメインフレームが登場した1960年代以降のITの歴史の中でも特異とも言えるほど爆発的で多様です。
不可能が可能になり、かつての常識が崩壊し、ITが新たなビジネスの可能性を切り拓いています。UberやAirbnb、GoogleやAmazonなどが世に問うデジタルビジネスは、人間が手作業で行っていたビジネス・プロセスをプログラムやネットワークのITプロセスに置き換えたものではなく、デジタル・ネイティブなビジネス・プロセスなのです。そんな時代の最先端に関われることの意義や価値を考えさせることが大切です。
過去の仕事の引き継ぎも必要なことかもしれません。しかし、それらはいずれなくなってゆくものです。そんな仕事は過去を作り上げたおじさんたちに任せておき、新しいデジタル・ネイティブな仕事にどんどん関わらせて行くべきではないでしょうか。
もちろん、過去を学び、いまの仕事を知らしめる意味で、現場を経験させることも必要です。そして、そうなることを正直に伝えるべきでしょう。しかし、彼らの本来の役割は「未来にある」ことを合わせて伝えなくてはなりません。
彼らから未来を学ぶ謙虚さを持ち正直に向き合う
もはやかれらは異星人だと思います。表向きはおじさんという地球人に合わせてくれてはいますが、その本質は異なる価値観と感性を備えた人間です。共通するところは、
- 正直であること
- 世のため人のためであること
- 達成の喜び
などといった人間としての本源的価値観は共有できると思います。しかし、デジタル・ネイティブな感性はなかなか理解できません。
それは仕方の無いことで、いつの時代も同じことを繰り返してきているのです。むしろ、そういう世代間の感性の戦いを通じて、若者たちは社会の現実を知り、社会人とはどう振る舞うべきなのかを学んでいくのでしょう。
だからこそ、この現実に向き合い、教える側も自らの価値観を正直に伝え、ぶつかることだと思います。その上で、彼らの言葉に耳を傾け、かれらからいまや未来を学ぶ謙虚さが必要です。そして、お互いを理解し合う公平さが必要です。
経験者だから、世の中を知っているからと偉そうな態度をとることでしか権威を示せないとすれば何とも残念なことです。確かに世の中を知っているかもしれませんが、それはしょせん過去の世の中です。いまの世の中を、自信を持って知っていると言い切れないのなら、それを素直に受け入れる態度も必要です。そして、いまを学び自信を持って彼らに伝える勇気と謙虚さが必要です。
「若い=安い労働力」として、捉えてはいないでしょうか。人月工数のビジネスが先細る中、彼らが新しいこと、イノベーションの源泉であると捉えなくてはなりません。そして、高い技術力だけではなく高いモチベーションも併せ持った人材を育ててゆく場が、新入社員研修なのです。
このようなことへの時間や投資を渋るSI事業者は、新製品開発のための研究開発に投資をしない製造業と同じ話です。いずれお客様から見放されてしまいます。
変化はいつの時代にもありました。これからも続くでしょう。そんな変化の潮流を教え、読み解く力を彼らに学ばせなくてはなりません。
40年前のテクノロジーに留まっていていいのですか。夢のある未来を伝えることです。それができないとすれば、自分たちの未来を彼らに託すことはできません。
【最新版】最新のITトレンドとビジネス戦略【2016年8月版】
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最新版【2016年8月】をリリースいたしました。
【インフラ&プラットフォーム編】(295ページ)
フラッシュストレージの記述を新たに追加いたしました。
【新規】ストレージアレイの違い p.275
【新規】フラッシュストレージが注目される理由 p.277
【アプリケーション&サービス編】(250ページ)
解説(文章)付きスライドを増やしています。また、全体のストーリーを一部見直し、内容の古いチャートは削除しました。
【新規】なぜ今人工知能なのか p.147
【新規】人工知能と機械学習 p.148
【新規】人工知能と機械学習/全体の位置付け p.149
【新規】技術的失業と労働人口の移動 p.180
【更新】ウォーターフォール開発とアジャイル開発 p.220
【更新】DevOpsの目的 p.223
【新規】不確実性のコーン p.227
【新規】システム開発の理想と現実 p.228
【新規】ARとVRの違い p.248
【ビジネス戦略編】(92ページ)
記載内容が古いチャートを削除し、解説文付きのチャートを増やしました。
【新規】UberとTaxi p.4
【更新】ハブ型社会からメッシュ型社会へ p.5
【更新】これからのITビジネスの方程式 p.57
【補足】解説文を追加したチャートを増やしました。
新入社員研修教材「最新のITトレンド」 (119ページ)
【更新】原本の改訂に合わせ、内容を刷新いたしました。
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- 経営者や管理者、事業責任者
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