自分の想像力の欠如が相手を不幸にしていることを想像できない残念な人々
「うちの宗門が一番なんです。これはもう世間がみんな認めています。うちの親父は、といっても義理の親父ですが、そこの偉い学者だったんです。私はそこの娘と結婚しましてねぇ。ほら、このお経の解説なんかもその親父が書いてるんですよ。私はあまり勉強できるほうじゃないし、ちょっと忙しくて準備も十分にでなきなかったので、偉い学者の親父がいいこと書いているので、読み上げますので聞いて下さい。」
こんなお説教をある法事で聞くはめになった。早口で抑揚もなく、また中途半端な自分の解釈を、なんとも独善的な解釈なのだが、それをはさみながら話し終えると、「この教えに従えば万事うまくいく」という。しかし、何に従えば良いのか、とんと分からない。お説教がありがたいとはとても感じられず、お説教が終わったことを心よりありがたいと思った。
お経にもリズム感がなく音痴である。話の内容も話し方も一方的で、こちらの様子をうかがうこともない。自分の勉強不足を自分は偉い学者じゃないのでしかたがないと言い訳し、権威と虚勢をはき違えている様は、とてもプロのお坊さんとは思えなかった。まあ、法事はお寺に頼んでやってもらう行事だ。お坊さんからすれば頼まれてやるわけで、お寺を変えるわけにもいかないから、たとえ内容がどうあれ文句を言われることはないだろうという殿様仕事なのかもしれない。しかし、お布施を払うのだから、もうすこし「ありがたい」と思わせてもらえないかと思わずにはいられなかった。
このようなことは、ビジネスの現場でもよく見かける。例えば、自社製品がどれほど優れているか、それを選択しないとはなんとも浅はかと言わんばかりの営業、自分たちの会社がどれだけ注目されているかを蕩々と語る外資系企業のカントリーマネージャ、「うまく説明できるかどうか分かりませんが、これから話をさせて頂きます。」と言ってはばからないプレゼンターなど、このお坊さんと本質的に変わりがない。
「想像力の欠如」
こういう人たちに共通する本質的な課題だ。自分の言葉を聞いて、相手はそれをどう思うだろうかを考えていない。例えば、製品自慢の営業には、「うちのことをどれだけ知っているんだ?ろくに知らないくせに何を偉そうに。」と思うだろう。会社自慢のカントリーマネージャであれば、「アメリカでは注目されているかもしれないけど、日本でははじめて聞く名前だし、そもそもうちにとってどんな価値があるんだ?」となるだろう。勉強をしていないプレゼンターには、「だったら、ちゃんと勉強してから話してくれ!」と思うかもしれない。
自分の語る言葉が相手の気持ちにどう働きかけるかを想像しないままに、伝えることが分からないのか、謙遜のつもりなのかはともかくとして、安易な言葉を使いが相手をがっかりさせたり、怒りさえ感じさせたりしてしまう。
相手の立場や気持ち、期待を自分なりに想像し、それにふさわしい行為を行おうとする態度を「相手の立場に立つ」という。「思いやり」といいかえてもいいかもしれない。これは、話しだけではなくビジネスのどのようなシーンにおいても共通する重要な要素だ。
相手は時間というコスト、場合によっては金銭的対価を支払っているのだから、当然その見返りとなる価値を手に入れたいと期待する。その期待に応えられないとすれば、それは詐欺も同然だ。だからこそ、相手は何を期待し、何を聞きたいかを想像し、それに応えることがビジネスの基本と言える。
駆け引きもまた、想像力がものを言う。自分の言葉に相手がどう反応するかを想像し、相手の期待に応えるばかりではなく、望まないであろう言葉も繰り出して動揺させ譲歩を迫ることもある。これもまた、ビジネスの現場ではよく使われるテクニックだ。
提案書とは、こちらの伝えたいことを伝える書類ではない。相手が知りたいと思うことを伝える書類だ。しかし、システム構成というタイトルにEXCELで作った見積書をそのまま貼り付けてきたり、スケジュールと称して自分たちの作業工程であるWBSをそのまま掲載したりと平気で提案書として提出する。お客様は、どうやって社内を説得すれば良いのか、いつ自分たちは何をしなければならないのかを知りたいのだが、すぐには分からない。稟議を起案しようにも、すぐに使える言葉や情報は見当たらない。「素材は提供しました。あとは、自分でここから情報を集めて整理して、稟議書を作って下さい。」と言わんばかりの内容の提案書を平気で出してしまう営業もまた想像力が欠如している。
「想像力」を働かせなくてはいけない。そうすれば、仕事は効率よく効果的に機能する。想像通りにいかないこともあるだろうが、想像しいるからこそ何がうまくいかなかったのか、そこから学ぶことができる。そんなささやかな努力の積み重ねが、仕事の質を高めてゆくことになるのだろう。
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- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン