「固定的システム感」から「浮遊的システム感」へ意識の切り替え、それがこれからの常識
「仮想化で集約するより、機能ごとに個別のサーバーを物理的に割り当てておいた方が、わかりやすいし管理が楽ですからね。仮想化しちゃうとトラブルがあっても、どこでトラブルが起きたか直感で分からないし、セキュリティも物理サーバーやネットワーク単位で管理したほうが、管理理も徹底できるし、わかりやすいですからね。」
中堅機械メーカーの情報システム部門長からこんな話を伺いました。なるほど、これまでのシステムの考え方の延長に立てば、この話はもっともだと思います。しかし、前提となるシステムの常識が変わろうとしているいま、この考え方はそろそろ考え直してみるべきではないかと申し上げました。
この会社では、自分のデスクの上にPCが置かれ、LANケーブルが差し込まれています。LANはオフィス内に置かれたファイル・サーバーにつながり、またルーターを介し専用線で、少し離れた事業所のマシンルームに置かれた基幹業務サーバーにつながっています。全てにおいてハードウェアが介在し、それをつなげることでシステムが構成されています。そのマシンルームに置かれたファイヤー・ウォールを介して、外(=インターネット)とつながっています。
PCやサーバーは物理的に移動させないことが前提となっていますから、社内と社外の境目はしっかりと分けることができます。ですからセキュリティもこの境目を守ることが前提になります。つまり、内側は身内だから安心できるが、外側には悪いやつがいるかもしれないので心配だから、この境目をファイヤーウォールでしっかり守ろうという発想です。
ソフトウェアはライセンスとして購入し、ハードウェア同様に資産として減価償却の対象となります。使わなくなっても資産ですから、もっといいソフトウェアが他に登場しても使い続けることが求められます。
データは自分のPCに入れて管理し、「いつでもすぐに、そして自由に」使えるようにします。実質的なマスターデータは個人PCにあり、ファイル・サーバーはそのバックアップでしかありません。
ハードウェアもソフトウェアも自分たちの資産ですから、しっかり守らなくてはなりません。そんな視点からの資産管理やセキュリティ対策が行われています。しかし、データはその資産を守っていれば「結果として守られる」対象ですから、意外と注意が払われていないことも少なくありません。
このような「固定的システム感」のドグマから抜けきれない情報システム部門の方たちは、少なくないようです。
クラウドの時代になり、システムの常識は大きく変わりました。アプリケーション機能はソフトウェア・サービスとして提供される時代になりました。ネットワーク機器やサーバー、テスクトップPCもクラウドからサービスとして提供され、PCやタブレット、スマートフォンといったハードウェアは、ネットワークにつながるデータ入出力の窓口に過ぎません。データもはや手元のPCにはなく、全てネットワークの向こうにあります。
LANは不要になろうとしています。モバイルネットワークがLANを代替してくれるでしょう。5Gネットワークが普及すれば、さらに高速・低遅延であらゆるモノがつながります。つながるモノは、PCやスマホばかりではなくなります。
つまり、システムは資産ではなく、サービスとして利用するカタチに変わろうとしているのです。それでも残る資産がデータです。データは企業固有のものであり、そこに価値が存在します。これまでの物理資産を守るセキュリティからデータを守るセキュリティへと発想を変えなくてはなりません。
システム資源はもはや固定的なものではなく、必要に応じてネットワーク越しにどこからでも手に入れることができるものになろうとしています。まるで、ネットワークの中を浮遊するかのような存在になるのでしょう。
このような「浮遊的システム感」を前提にこれからのシステムを考えなくてはなりません。
営業部門からPCを持ち出して使いたい、あるいはタブレットを使いたいと要望がでても、そもそもシステムは内側にあるという「固定的システム感」が前提のシステムでは容易に対処することができないのです。
「浮遊的システム感」を前提にすれば、使う場所も問われなくなり、いつでも何処でも仕事が完結できます。オフィスに戻って書類にハンコを突く必要もありません。システム開発もクラウド上に存在する機能モジュールやサービス、APIをうまく組み合わせることがあたりまえとなり、それをまたオープンに共有することも常識となるでしょう。そんな新しい前提でシステムを考えてゆかなければなりません。
「既存システムをクラウドへ移行したいのですが。」
そんなご相談をうけることがあるのですが、固定的システム感で築かれたシステムをそのままにクラウドへ移行しようとしても、クラウドの真価を発揮することはできません。コストが嵩んでしまったり、パフォーマンスやセキュリティが担保できなかったりメリット以上にリスクを抱え込むことになるでしょう。
「できるだけIaaSを使わないことです。」
あるクラウド・インテグレーターの経営者がそんな話をされていました。電子メールやファイル・サーバー、財務会計や経費精算アプリケシーションなど、できるだけ既存のクラウド・サービスを活用し「自分で作らない」ことで、開発負担の削減だけではなく、保守や管理の負担を減らし最新のテクノロジーにも追従できます。どうしても作り込みが必要なところは、PaaSやIaaSを使うようにすることだというのです。また、ワークスタイルも変わります。もはや、物理的な内と外の境目は消え、データ中心に仕組みを考えてゆかなければなりません。そういう目線でシステムを考えてゆくことが必要になるのでしょう。
「固定的システム感」から「浮遊的システム感」へ意識の切り替えこそ、これからのシステムを考える前提なのだと思います。
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目次
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- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン